2024/10/04

テメとキャス
at フレイムチャーチ
プレイ途中に旅後の妄想をした
実プレイベースなのでキャス3章パティチャを通っていないテメ
たぶんこの二人に夢を見てる

秋の空



またいつもの日常に戻ってきて、どれくらいの時が経ったか。
テメノスは子供たちの見送りのため、教会の外に出たばかりだった。一人、また一人とシスターからキャンドルを預かり、家へと帰っていく。
帰る家がある。それがある種の幸福であることは間違いない──空が澄み渡っていると、高台にあるフレイムチャーチからは、東大陸の西側だけでなく、広大な海の他、西大陸の島々や影を臨むことができる。
仲間達の姿を思い浮かべようとして、不意に、秋風に銀髪を攫われた。
はらはらとアルバムをめくるように毛先が揺れる中、空色が視界に現れる。
「ちょうど良かった。久しぶりね、テメノス」
秋の色に染まりつつある木々を背景に、彼女は柔らかに微笑む。
「これはこれは……あなたがそれほどに敬虔な信者だったとは意外です」
「私も驚きだわ。あなたが照れ隠しを口にするほど、喜んでくれるなんて」
咳払いで指摘を受け流し、恭しく教会へと促す。
「ようこそ、キャスティ。歓迎しますよ」


秋の空


テメノスはキャスティが記憶を取り戻した瞬間を見てはいないし、彼女から全てを聞いたわけではないので、本当のところを知らずに旅の終わりを迎えた。
「顔でも見せに来てください」
「そうね。そうするわ」
だから、他の仲間達にも告げたことと同じことを伝えたし、そうは言っても彼女はそこまで来ることはないだろうと予測した。
キャスティはフレイムチャーチの麓にある、忘れられた村の植物を癒しながら、これまで通り人を助ける旅を続けると言った。
植物とはいえ自然環境に置かれているから、毎日彼女が管理せねばならないということはなく、基本的には季節に一度か二度、様子を見に来る程度だ。
彼女の行く先を縛るものなど、もとより無いに等しい。
つまり、結論として──テメノスがフレイムチャーチを動かぬ限り、彼女と会う機会はほぼないと思っていた。

晴れているのだから、と教会の外にテーブルと椅子を持ち出し、ミントに茶を用意してもらった。この時期は採れたての蜂蜜が出回るので、紅茶のそばに小さなハニーポットが添えられた。
美味しいわ、とその甘さに眦を仄かに染めて、キャスティは旅の話をかいつまんで語った。
「オーシュットにも会ったのよ。変わりなく、元気に過ごしていたわ」
誰彼構わず絆してしまう彼女なら、一人や二人は連れて旅をするのだろうと思っていたが、あてが外れたようだ。
仲間達の近況を語るその表情は、別れた時と変わらず穏やかなまま。
「干し肉をお土産にもらったのだけど、流石に日持ちはしないでしょう? 代わりにこれを……テメノス?」
「聞いていますよ」
「聞いている人はそう答えないものよ」
どちらかといえばテメノスが語り、彼女が聞くことのほうが多い。その上、テメノスは考え事を始めると周囲の話し声を聞かない性質であるので、キャスティがそう言うのも仕方ない。
彼女の冗談をまあまあと往なし、続きを促した。
ほら、と彼女が鞄から取り出したのはアミュレットだ。
木と麻で出来たもので、彫りは甘い。
「オーシュットが作ったのですか」
「半分正解ね。オーシュットが作ったあと、私が模様を彫ったの。どうかしら? 初めてにしてはよくできたと思うの」
「……どれ、見せてください」
「どうぞ。……ふふ、そんなに意外だった?」
「いえ、そういうわけでは」
意趣返しのように笑う彼女から手元へ目線を落とし、先程自分が下した評価を振り返る。
蔦の模様に、植物の葉が複数。たしかにオーシュットの身に付けていたアクセサリーとは特徴が異なり、どちらかといえば人間が作りそうな紋様である。
紐をゆるめ、手首にはめる。麻紐で調整がきくので、大き過ぎることも小さ過ぎることもなかった。
「それで」
手首に嵌めたところで、彼女を見つめた。
「これを持ってくるという名目で、どんな話を持ってきたんです?」
「え?」キャスティは鳩のような顔をして、首を傾げた。「あなたに会いに来ただけよ。……あ、オーシュットとの話は他にもあるけれど」
「それは後ほど聞きましょう。……そうですか。よくできていますね」
「ま。取ってつけたような感想ね」
「いえいえ、そうでもありませんよ」
悩みがあるわけでもない。テメノスを頼りに来たわけでもない。
──誰かに寄りかかろうとしない彼女が、テメノスに会おうと思い、ここまでの道を辿ってきたという事実は、思うよりずっと心に響いた。
アミュレットを撫でる。角の全くない、滑らかな手触りの木彫りのアクセントは、彼女らしい配慮の元に作られたのだと分かる。
「それにしても、このあたりはすっかり秋ね」
存外テメノスが贈り物を喜んでいると察して話題を変えた──というわけではなく、キャスティはちょうど手元に落ちてきた落ち葉を拾い上げた。
「ええまあ。大聖堂への道も見事なものですよ」
「いいわね。きっと綺麗だわ」
用意した紅茶を静かに飲み、それからキャスティはフレイムチャーチの町を眺める。
穏やかな秋風が、蜂蜜の艶めいた金色の髪をさらう。
また、この視界に彼女を映すことがあるとはおもわなかった。
「……これを飲み終えたら、行ってみますか?」
気付けば、誘っていた。
苦い思い出も楽しい思い出も残る場所だが、それでもテメノスはこの街での暮らしと人とのつながりを大切に思うから戻ってきた。
「いいの?」
「幸いにして、私の仕事は終わっていますので」
「じゃあ、そうしようかしら」
酒場で語らうには早いので、少しの散歩はいい暇つぶしでもあった。
紅茶を飲み終えた茶器の上を、ひらりと落ち葉が舞う。
指先で器用にそれを捕まえて、キャスティはひらひらと指先で回転させ、笑った。
「綺麗ね」
「そうですね」
秋の色といえば赤や黄色だ。その色のそばで、海とも空とも呼べる蒼色をまとう彼女は、そこだけ空間が切り取られたかのように目立つ。
やつれた様子も、疲れた感じも見られない。記憶を失っていた間も、取り戻した後も、いつだって眩しく見える。

──あなたは優しい人です。私が保証しますよ。
いつか、雪深い町で唱えた言葉が思い出される。

テメノスは茶器を片付け、行きますよ、と彼女を急かした。