たった一つの罰を赦して
オメガバ/テリサイ前提のオルサイ(テリオンさんと出会う前)
声を上げたくないと言ったのは彼のはずだった。
それなのに──いや、それは生理的なものだったのかもしれないと今なら思えたが、この時、オルベリクはそれを知らなかった──絶えず喘ぎ、呼吸すらままならぬようにシーツの上でもがくので、その口を塞ぐために手を伸ばした。
唇は、既に唾液で濡れていた。薄く、柔らかいそれに指の側腹が触れた途端、腔内へ招かれる。なぞるようでいて意志の伴わない動きに、知らず興奮が硬度に変わる。
「ンう、んっ……!」
歯が食い込む。搾り取るように中が収縮し、外側では彼の脚が痙攣した。
遅れて、ずるりと自身の性器を引き抜いた。びゅると飛び出した白濁はとうとう脱がすことのできなかったブラウスの上に飛び散り、淡紫色の染みを作る。
「……はっ、は、……」
「はあ……っ厄介な、」
オルベリクの下で無防備に下肢を晒し、痴態を見せつけた男は余韻すら残さぬセリフを吐いて上半身を起こす。肩越しにこちらを見る。
──その瞳がいま尚情欲に塗れており、ゾッとした。
「まだ……、いや、もうそんなことを言っている場合ではないか」
「ッなにを、」
かすかに興奮を残すオルベリクの性器へ躊躇いなく触れると、サイラスは前髪をかきあげ口を開けた。止める間もなく彼の内側に等しく熱い腔内へ招かれ、否応なしに快楽を与えられる。地獄のような現状ながら、天国で味わうもののように気持ちの良いものに違いなかった。
コブルストンを旅立つ時、オルベリクを引き入れたのは年若い商人の少女だった。傭兵家業をやっていたという話をどこからか聞きつけ、それなら護衛で来てほしいとリーフを片手に頼まれたのである。
確かに、山岳の道は険しく、賊も多い。少女一人で越えるには難しい場面もあるだろう。この時オルベリクが考えたのはそのようなことであったが、少女が旅行く先々で新たに仲間を増やしていくのを見て、もしかすると考えが甘かったかもしれないと思い直した。
彼女の旅に同行した者は、オルベリクを含めて五人だった。オルベリクの後に踊子プリムロゼ、薬師アーフェンが仲間に加わったので、てっきり四人組なのだと思っていたが、聞くに、もう一人は旅先で出会ってすぐにトレサとは反対方向へ旅に出、クオリークレストで落ち合うことになっているのだという。
「はじめまして。アトラスダムで学者をしている、サイラスだ」
その男の容姿を語るにはオルベリクよりも相応しい人間が多く居るので、ここでは割愛するとしよう。年はオルベリクに最も近く、しかし五つはゆうに離れていた。
とはいえ、この年となると年の差など意識することのほうが少なくなるもので、それはこの学者にも当てはまった。年の近いトレサ達の会話が弾めば、自然オルベリクたちは二人組となり、その後ろに続くことになる。肩が並べば話すようになり、時に背中を預け、時に意見を違えつつも、この五人の旅は大きな躓きを経験することなく進んだ。
けれど旅に困難は付きものであり、その困難が重くのしかかる者もまたいるものだ。
「先生、具合どう?」
「軽い熱みてえだな。でも……まあ、無茶はしねえ方がいい。魔物も引き付けるなんて話も聞くからな」
「……噂にはよく聞くけれど、オメガって本当に難儀な生き物ね」
プリムロゼの感想に何も言えず、オルベリクは窓の外へ視線を移した。ハンイットがリンデに付き合い、食事をしている。彼女は、シ・ワルキの村で新たに仲間となった狩人だった。
この都市の名は、ヴィクターホロウという。ウッドランド地方に位置するこの街はエアハルトを知る黒騎士グスタフなる人物を訪ねるためにやってきた。到着早々オルベリクは諸事情あって闘技大会に参加することになり、そこで優勝を果たしたことで目的の大半は果たされた。
「オルベリクさん。もう少し滞在することになるけど、その間はどうする?」
「そうだな……。トレサはなにかないのか?」
そしてまた、この街はオルベリクの最も古い仲間──トレサの目的地でもあった。
「あたしはもう少し、商店を見て回るつもり。ここで掘り出し物を見つけたって手帳にもかいてあったから、あたしも、必ず見つけたいの」
「なら、それが見つかるまでの間はここで待とう。一週間見て様子が変わらなければ、アーフェン、その時はどうすべきか教えてくれ」
「ああ、任せな! 俺も、それまでに先生に効く薬を探してみるぜ」
仲間内での話し合いはそのようにまとまり、しばらくは自由行動となった。
とはいえ、サイラスのことを考えれば数人は近くで見張っておく必要があり、エアハルトの居場所を聞き終え、ここですることのなくなったオルベリクは一人でこれを引き受けることにした。
「そっと、扉を少し開くだけでいいぜ。先生のフェロモンは強くない方とはいえ、旦那はアルファだからな」
「わかった」
アーフェンがミルク粥と果実、それから水を載せた盆を運んできた。
言われた通りにそっと扉を開けると、甘やかな香りが鼻腔を擽り、そうと思えばカッと胸の熱くなるような感覚があった。声をかけることもなくアーフェンは隙間から食事を差し入れ、扉を閉める。
「……っはー……」
息を止めていたらしい。彼はベータであるそうだが、オメガの香りを敏感に効き分けてしまうために、なるべく香りを嗅がないように気を付けていると言っていた。
──この世界には、男女の他にもう一つの性が存在する。アルファ、ベータ、オメガといい、生殖の相性が生まれたときから定められているのはアルファとオメガとされている。つまり、アルファの男性ならばオメガの女性と、アルファの女性ならばオメガの男性といった組み合わせではなく、相手が男女いずれかであってもなくても、アルファとオメガは互いが互いの「運命の番」だと分かるようになっている。
この広い大陸の中で、運命の番とやらを探すのは骨が折れる。そのために、番でなくとも近しい人と結びつく者はいるし、サイラスのように番がいないがために定期的に訪れる発情期をこうして引きこもって過ごすしかない者もいる。
オメガが最も大変なのは、その発情期だ。
番がいない者は、否応なしにフェロモンが放たれ、周りのアルファを引き寄せてしまうという。本人は発情期のために正常な思考が出来ず、アルファに好きに貪られ、虐げられることも少なくない。
一年に数度訪れる発情期のためだけに、人生を謳歌することができないなど馬鹿馬鹿しい。サイラスの家庭はそのような方針で彼を育てたようで、実際、この学者はオメガでありながらアルファに並ぶ社会的地位を確立していた。加えて、本人の発情期が非常に微弱なものであったことが幸いした。薬一つで収まるのだと彼は語っていたから、事実、今日のようなことは初めてだっただろう。
サイラスと同室だったアーフェンが異変に気付き、速やかに対応したため、大事にならずに済んだ。
そんなことを考えながら、オルベリクはサイラスの部屋の前で壁にもたれて立っていた。アーフェンもトレサもプリムロゼも街を見てくると言って出かけてしまって、ハンイットもまたリンデと森の方へ行くと示し、姿を消していた。
──カタン、と奇妙な音がした。まるで窓枠を外したような、開けたような、
「ッなにを」
サイラスの戸惑う声が聞こえ、異常事態を察してオルベリクは扉を開けた。剣の柄に片手を添え、
「どうした!」
威圧するように室内を見渡す。
男が一人、サイラスの上に乗りかかり、その衣服をまさに切り刻み、引き剥がそうとしていた。
「チッ」
男はオルベリクをみとめるやサイラスを肩に担ぎ上げ、部屋から出ようとする。ギョッとして、オルベリクは伸ばされたサイラスの手首を掴み、引き寄せるついでに剣を横薙ぎに振るった。
宿代の弁償は、トレサに代わってもらった。宿の主人からは出ていってくれと喚き立てられ、顔色の悪いサイラスを抱えたまま、オルベリク達は日も暮れ始めた町の広場で途方に暮れていた。
「すまない……」
息も絶え絶えに謝ったのはサイラスだったが、仲間は誰一人として首を縦に振ることはなかった。
「あなたのせいじゃない。だが、賊が入り込んできたということは、うかつに外を歩くのも危ないな」
ハンイットが遠巻きにこちらを見つめるギャラリーに気付き、リンデとともに威嚇する。
「このまま酒場に行くのも難しいわよね」
プリムロゼは肩をすくめ、その隣でアーフェンも頭を掻く。
「まさかこんなことになるなんてな……」
「──どうかしたのか?」
すると、その背後から声をかけてくる者がいた。グスタフだった。
彼はこれから宿を出るようで、オルベリクに一言挨拶でもしていこうと思ってくれたようだった。事情を知ると、彼は自分が借りていた宿の主人に話を持ちかけ、オルベリク達の分の部屋を用意するよう言付けてくれた。
「この宿はそこいらの建物より頑丈に建てられている。部屋も個室だ、壁も分厚い。三階の部屋を全て貸し切りとしたから、他のやつも入ってこないだろう」
「グスタフさん……!ありがとうございます!」
宿代を支払い終えたばかりのトレサが、感動に目を潤ませた。聞けば、グスタフが宿代の殆どを支払ってくれたのだという。
オルベリクがそれについて触れると、彼は笑って、賞金の使い道がなくて困っていたのだ、と白状した。
「とはいえ、今後武器防具を買うこともあるだろう。その時は、あなたに目利きを頼ませてくれ」
「ええ、任せて。必ずグスタフさんに合った武器を見つけてあげるわ! ……オルベリクさんに負けないくらいね」
すっかり彼になついてしまったようで、トレサはその後旅先であると助かる道具類をグスタフに分け与え、そこで、彼とは別れた。
一悶着あったものの、結果としては良い方に落ち着いたと見ていいだろう。部屋へ連れて行くとサイラスは一言も発することなく寝台に潜り込み、そのまま夢の中へ落ちた。緊張と慣れない発情期の疲労が蓄積したのだろう。
オルベリクはそのまま部屋に鍵をかけ、アーフェン、ハンイット、リンデと共に、トレサたちの待つ酒場へ向かった。
食事を済ませ、和やかに談笑が始まるとオルベリクはハンイットとトレサが用意した食事のバスケットを持って宿へ戻った。
ギシギシと階段を鳴らして三階へ。人気はなく、グスタフの助言の有り難さを覚えながら角の部屋、オルベリクの向かいに当たるサイラスの部屋の扉を軽くノックした。
「オルベリクだ。具合はどうだ」
鍵を開ける。オルベリクはそこで立ち止まってしまった。
扉の直ぐ側に、サイラスが立っていた。
「入ってくれ」
「む、いや、俺は」
「オルベリク氏。お願いだ」
控えめながら、有無を言わさぬ願いを聞かされ、腕を引かれた。サイラスはオルベリクが中へ入ったあと廊下の様子を確認し、扉に──鍵をかけた。
「……何を、している?」まるで首筋に鋒を当てられたかのように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ああ、説明しよう」
サイラスはオルベリクからバスケットを受け取るとそのまま卓上へ置き、中身を確認することもなく水差しを取った。グラス一杯分の水を飲み干し、やや乱暴に卓上へ戻す。
「昼間のようなことが続いては、私にも、貴殿にも、そしてトレサくんたち仲間がとても困る。一つの本に記された内容をうのみにするのは危険な思考だが、私には今、この本に示された方法が最も適切だと思われた。……オルベリク氏」
それは決してこの現状の理由を説明してなどいなかった。彼は寝台の横、床へ、置かれた書物を示した後、そのたおやかにも見える腕をオルベリクへ向け、自らの思考を明らかにした。
「アルファである貴殿に頼みがある。私を抱いてくれ」
「…………本気で言っているのか?」
あまりにも率直で、あまりに乱暴な願いにオルベリクは心底驚き、裏切られたような心地を覚えた。それは道中見てきたサイラスの、目に余りある誠実で真摯な振る舞いにそれなりの信頼と好感を抱いてきたからだとは気付かなかった。
サイラスの放つ香りが、強くなる。まともに思考することすらままならないほど彼が追い詰められているとは思いもせず、オルベリクは身構えた。
「何の本を読んだ。その結論が正しいかは分からないが、少なくともそれが、今のお前を助けるものだとは思えん。アーフェンを呼んで、」
「番のないオメガの、発情期の乗り越え方だ。……嫌な話をするが、私はこれまで、このような事態に陥ったことがない。加えて、貴殿と顔を合わせたとき、巷で言う『運命の番』とやらだと感じた覚えもない」
だが、と付け足したあと、サイラスはごくりと喉を嚥下させる。
ひたとこちらを見据えた瞳からは、彼の感情を測ることはできなかった。
「だが、貴殿がアルファであることと、……アルファと長く過ごしたことのない私が、今、このような発情期を迎えていることには、何かしらの理由があると考えても不自然ではないはずだ」
彼はその手でオルベリクの手を取り、寝台へと導いた。
「私達には別々の番がいるだろう。それを分かっていてなお、このように体が反応するのであれば、……嬉しくない話だが、運命の番とやらは本能で悟るものではないのかもしれない」
「……お前は、それでいいのか。消去法に等しい話ではないか」
苦虫を噛み潰したような表情でサイラスは、仕方ないだろう、と言い聞かすように呟く。
「自我など失ってしまいたいほどだ。本当はこんなことを話したくもなかった。でも、…………あまりにこれは耐え難い」
姿勢を保つことすら難しいというように、そうしてサイラスはそのまま横向きに倒れ込んだ。すがるように伸ばされた手だけが、震えながらもなおオルベリクに触れていた。
言葉で、何を言えばよかったのか。なんと返せば、この場を無事にやり過ごせたのか。
自身の力の使い方すら見失っていたオルベリクに、美しい男が垣間見せた弱々しさはあまりに儚く頼りないもので、憐憫を抱かせるには十分なものだった。
サイラスの手を、オルベリクの方から掴む。
「……。……後悔するぞ」
「そんなもの、とっくに抱えている」
「…………すまん」
「謝るべきは私の方だ」
手を離し、両腕を広げた学者の上に影を落とすべくして寝台に膝をついた。装備を外し、サーコートを脱ぎ落とす。一時凌ぎだと思い込んだとしても、学者の聡明な頭脳はこの現状を許しはしないだろう。
彼は自身の理性になんの免罪符も与えないまま、懊悩を抱える道を選び、その道連れにオルベリクを選んだ。
首に巻いたクラバットをサイラスが抜き取った。胸元がはだける。
「……無意味だ」欲に溺れる間際、唾を飲み込んで彼は言った。
「なにも、語るな」
「これが話さずにはいられない。キスはしたくない、たとえ理性がねじ切れようとも、私を噛むことだけは絶対にしないでくれ。私が夢現に誘おうと」
オルベリクの頬に触れ、このときようやくサイラスは小さく笑った。申し訳無さそうに、苦笑いに近い微笑みだった。
「……顔を合わせるのは嫌だな」
「うつ伏せになれるか」
「ああ、うん。そうか」
揺蕩してみえる瞳に欲が揺らぎそうになるが、それよりもフェロモンに宛てられ衣服の中で膨張し始めた己の性器ばかりが気になりオルベリクは無事、サイラスの顔を見ることなくうつ伏せに押し倒すことができた。
男同士でどうするかなど分からないが、女相手にするように、オルベリクの男根で彼を穿てば良いのだろう。下履きをずらしてやると、わかりやすく愛液が大腿を濡らしていた。溢れ出るそこれを辿るようにして指先を濡らし、本来なら排泄口であるそこに指を押し込む。何度か慣らすように入り口を伸ばし、だが、中からこぷりと精液が垂れてきたところで迷わず第二関節までを潜り込ませた。
「……ッ、あ」
びくんと背筋を逸らすようにサイラスが息を吐いた。うつ伏せだったはずが、四つん這いのような格好に自ら態勢を変え、腰を揺らす。オルベリクが指を曲げると分かりやすく中が収縮し、もう一本差し込むと一層吸い付く。そのたびに反応を変えるサイラスの、あまりに淫靡な身体が、放たれる香りがますますオルベリクを興奮させた。
お互いに乗り気ではなかったはずなのに、まるでこれを望んでいたかのように夢中になっていく。
とうとうオルベリクは自分の下肢を外気に晒した。太く短い屹立を寄せると、向こうの方から臀部を差し出すようにして吸い付いてきた。亀頭に愛液が触れる。その時の気分の高揚は筆舌し難いものだった。
誘惑されるまま、潤い満ちた肉壺に己を埋め込む。隙間なくぴったりと吸い付く中はあまりに心地よい。腰を引くと震え、穿つともっと奥へと誘うように根本を締め付けられる。
「あ、うあっ、は、あっ、や、激し……っ」
気付けば、サイラスの柳腰を掴み、狭いそこに形を刻むように押し込んでいた。大きく腰を引くのではなく、背中側へ先端が向かうように角度を変えると、サイラスがとうとう枕から顔を上げた。すでに上半身を支えることはできず、ローブが波を作り彼の肩に伸し掛かる。揺らすたびに装飾品がかすかな音を立て、祈るようにシーツを掴むその手は震えていた。
喘ぎ声が大きくなり始めたのを感じてもう一方の手で口を塞いだ。指の隙間に舌が差し出され、唾液で濡れる。
「ん、ンッ! んう、うっ、ッ……!」
ひときわ強く中を締め付けられた。その収縮が収まらないうちに仲を拡げるように腰を縦に動かす。びくびくと大腿が震え、内股になった。膝の間にポタポタと精液が落ちていき、オルベリクの動きを止めるようにぎゅうと再び強く収縮する。
「く……っ」
あまりの気持ちよさにそのまま押し込み、射精する瞬間、慌てて腰を引いた。太腿から膝の後ろにかけてを白濁で汚してしまう。
短く肩で息を繰り返しているうちにサイラスが起き上がる。このような行為とは無縁の、潔癖さすら感じさせる鈍い男が、そうすることがわかっているようにオルベリクの前で身を屈めた。止める間もなくその口に性器を含み、こちらが総毛立ったことを喜ぶように指で扱く。単調な動きで指が動き、舌先で舐められる。その刺激よりも形の良い唇が己を咥えているという状況に目眩すら覚えた。
「やめてくれ」
「……無理な相談だ」
彼は口を離したが、手は遠慮なく粘着質な音を立ててオルベリクを追い詰める。
再び屹立したところで今度はサイラスが自ら上に跨った。こちらに背中を見せて、大事な場所を晒して腰を上下させる。
脳裏に、旅初めの頃の彼の姿が浮かんだ。とても今の彼とは結び付かないその澄ました表情が、涼やかな目元が、なによりも自分は好んでいたのだと自覚した。
背を押さえる。サイラスの身体を押さえつけて、この行為は一方的なものではないと──互いに望んで罪を選んだのだと伝えるように、自ら腰を打ちつけた。
そんなものがこの男の救いになるわけがないと思いながら。