顔が見えるということは

長く生きていると人の顔というのは移ろい流れる風のように儚い。
剣を交え、言葉を刻み合い、長い年月を経て一匙残る程度。
もとより感情の機微に配慮できるほど繊細でも言葉巧みでもないので、生来のものだと半分は諦めていたオルベリクであったが、ふと、最近はそうでもないなと思うようになっていた。

「オルベリクさん!こっちこっち!」
「いい感じだろ?」

火の番をしていたトレサとアーフェンが片手を上げる。その奥、テリオンの包丁さばきに感心していたオフィーリアとプリムロゼが、揃ってこちらを見上げた。

「今日は山羊のチーズに羊肉が手に入った」
「近くに住むご婦人がブレッドを分けてくれたよ」

左右で溌剌と言葉を交わし合うのはハンイットとサイラスで、彼らは報告を終えるやオルベリクへ視線を寄越す。

「あなたも報告があるのでは?」
「あ、ああ。……俺は、珈琲と酒を分けてもらった」

歓声を上げたのはアーフェンで、テリオンも微かに口元を緩める。
彼らの表情がよく見えるなと思って、ようやく悟った。
背の高さゆえ、どうしても人の頭や頭頂部に話しかけがちなオルベリクだが、彼らと話すときはそうではない。

「さ、そうと決まれば準備よ!準備!」

盛り上がる笑顔が眩しい。
身体の奥底から広がる感覚にむず痒さを覚えて、我ながら下手な笑いが滲み出た。

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