夢を見た


朝、目が覚めたとき、カーテンが風に揺れていることがある。
「……おはよう」
「起きたか」
テリオンはそう言って腰を上げた。
窓枠に座って、あるいはソファに座って、時々はベッドの端に座ってサイラスが目覚めるのを待ち、
「譲ってくれ」
「……どうぞ」
こちらが起き上がると言いながらベッドに入ってくる。宿に行けばいいものを、金が無いのかと尋ねるのも野暮であるし、サイラス自身、寝台を共有することへの躊躇いはあまりなく、名残惜しく思うこともなく明け渡す。
そうして支度を済ませて出かけて、家へ戻ると二人分の食事が用意されていることもあれば、
「酒場に行くぞ」
と、連れ出されることもある。
そうした場合、酒の肴は決まって彼の盗みの話となるが、これが不思議と、うまく行ったという話しか聞かない。嘘か真か疑ったことはなく、毎度、彼はうまくいったと話すのでそう聞いている。
大抵、彼はその夜だけ飲みすぎることが多く、一度だけ気分の高揚のまま女を抱いたという話があってからは香りも隠さなくなり、発散してもなお抑えきれないからここまで来るのだろうと見守っていた。

ある日のことだ。
「先生、申し訳ないね。今日は部屋がいっぱいなんだ」
「そうか……。いや、構わないよ。私の家があることだし」
宿屋の主人に謝られては強くは出られない。
主人の伝手で一人分のシーツと毛布を借り、酔ったテリオンを連れて自宅へ戻る。
我ながら、旅をしていなければこんなことまでできなかっただろうなと苦笑した。
ずるずると半ば引きずりながら、テリオンを寝台まで運ぶ。今日は彼に譲るとして、自分はどこで寝ようか。ソファで寝るか。
「……よし、と」
倒れ込むように寝台に横たわった彼にシーツを掛けて、自分はシーツと毛布をソファへ置く。そこまで肌寒い季節でもない。ローブは肩が凝るのでハンガーに、ベストも背もたれに掛けてソファへ落ち着く。
シーツと毛布を重ねて、横になった。
その夜、夢を見た。
ふわふわと夜空に雲が浮かんでおり、そこに自分が立っている。浮いているのが不安定に思われて、近くに手を伸ばすと掴めるものがあった。
「……テリオン?」
「落ちるぞ」
テリオンの肩、あるいは腕を掴んだと思えば急に落下する。
とっさに目を瞑ったが衝撃はなく、次に目を開けたときには彼の顔が目の前にあった。
「……もう寝ろ」
掴んだはずの手に指が絡み合う。どうしてそのような接触をしているのかわからないが、その後テリオンの顔が迫ってサイラスは混乱した。唇に、触れたのだ。いわゆるそれがキスだと知っていたから、さらに困惑した。

目が覚めると、既に彼はいなかった。

サイラスはソファではなくベッドに寝かせられていて、まだ眠り足りないのかどことなく頭が重い。妙に身体がスッキリしているような、腰のあたりに妙な違和感があるような気がするが、起き上がり、朝食に出かける頃にはすっかり忘れた。