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たゆたうような会話に意味はなく、それが続けば続くほど、この男が柄にもなく隙を見せているのだとテリオンは察した。
「長く誰かと眠っていると、このように、」
学者がテリオンの腰の近くまで頭を寄せ、横向きに眠る。
「体温のある方へ近寄るという」
長いまつ毛が繊細な影を頬に落とす。室内光によって青みを失った、色素の薄い瞳が覗いて、テリオンを写した。
「……キミは以前、誰かとこうして眠っていたことがあるのだろう」
問いかけるわけでも、探るわけでもなく、上目遣いにこちらを見たその顔は淡々としているように見えた。ベッドが軋む。テリオンが屈むと学者の顔は影に覆われ、見開いた目にかすかな光が反射するだけだった。
リップ音が鳴り、蝋燭の火が揺れる。
シーツの上に投げ出された手に自分の手を重ねて、問いかけた。
「──人肌でも恋しくなったか?」
愛を告げたことも恋を明かしたこともない。雰囲気に流され、学者が正論を言わないのをいいことに、クラバットに手をかけた。が、学者は先にローブの留め具を外し、チュニックの前合わせを開き始める。
「おい、」
テリオンが止める間もなく起き上がり、ブラウスだけになったところでブローチとクラバットを外した。ブラウスには留め具がないのだろう、平坦な胸や鎖骨が顕になる。ごくりと喉を鳴らしたのは、彼が何を思ってそうしたのか分からなかったからだ。
「言葉にして同意を示し合う方が、良好な関係を築くという」
「……は?」
「人肌が恋しいのではなく、私はキミと触れ合うことを望んでいる。キミはどうだろうか。先程の口付けの意味も問いたい」
「待て待て。状況と言動を一致させろ」
「なにか違うところでも?」
学者が──サイラスが無垢な顔つきでベッドに置かれたテリオンの手に触れる。
「キミのこの手が好きだよ。触れられると心地が良いし、器用な手つきで開錠する様子はいつ見ても驚きと楽しさを感じる」
指先を絡めることもしないで、言葉のみで口説く。平然として見える姿にため息をつきかけたが、躊躇うようにその手が離れていくので、そんな暇はなかった。手首を掴み、引き止める。テリオンの方へわずかに上体を傾けたサイラスは、不安定な体勢に慌ててもう一方の手をついた。
「テリオン?」
──彼は、周囲を見てから行動を起こす。周りの反応を見て予測を立て、検証する。だが、今このときにおいてそれは役に立たない。
だからだろうか。それとも、服を脱いだために寒いだけか。テリオンが肌を撫でると微かに身動いだ。
(……言葉にして同意を示せ、か)
テリオンが不得手とすることだ。言わずとも分かるだろうと思うから、改めて示せと言われると拙い言葉しか思い浮かばない。
「好きなのは俺の手だけか?」
「そんなことは。これまでキミと旅をしてきて、思──」
長くなりそうだと急いでベッドに押し倒した。驚きに目を瞑ったサイラスの隙をついて、口付ける。
「ん、テリ、お……ッ」
声も発せないよう舌で舌を舐め、押し返そうとする動きを利用して深く挿し入れる。歯列をなぞり、口蓋を撫でると押し返すように肩を掴まれたので、わずかに唇を離した。
「好きだ。抱きたい。……これでいいか?」
「あ、ああ。……うん、構わないよ」
この男が照れることがあるのかはともかくとして、見つめた目がそっと逸らされたのでテリオンの気分はこれ以上ないほど上向いた。