百年河清
前書き
ジョブの神様的な概念の人たちが好きなので書きました。弊オルステラのみの妄想です。
盗公子×碩学王ベースの雷剣将×碩学王という誰得?俺得!しかない小話です。
何が言いたいかというと、
ジョブの神様的な人たちを偶像化するとき、主要キャラがその依代になっても問題なさそうですよねって話です。(???)
イメージは神話なので、貞操観念・世界観その他諸々好きにしました。
ハープの調べが耳に届いてアレファンは顔を上げた。
「シルティージか」
月夜を歌う舞踏姫は、今宵は一人で過ごすらしい。星の輝く澄んだ空を見上げて、窓辺に置いた手燭の火を消す。白亜の窓は開け放たれ、そよぐ風にレースのカーテンが揺れている。実に穏やかな、いい夜だ。
純白の夜着に身を包み、アレファンは手元の本を傍らに避けた。窓辺に沿って敷き詰められたソファにもたれ、シルティージの旋律に耳を傾ける。彼女の魅せてくれる、美しく活き活きとした世界がアレファンは好きだった。
音の外れた鼻唄が夜風に乗って室内に響く。
「──大層な歓迎だな」
声がして、それから、足音と影がアレファンに寄り添う。
アレファンは頬杖をついたまま、来訪者を静かに見上げた。
白は、城内での高貴を意味する。ふわりとなびく上着も下履きも全てをその色でまとめた彼は確かに高位の存在だが、紫と金の刺繍がなされたマフラーを首に巻いていた。盗公子エベルである。
白銀に見紛う髪の下、マラカイトの瞳が一つ輝く。
「今夜は来ると思っていなかったよ」
「どの口が」
溜息と共に窓辺に腰を下ろし、エベルは粗雑に足を組む。ぴ、と指先で弾いた紙がアレファンの手元に落ちた。指先で挟み、拾い上げる。
『月夜の歌う夜に』
ただ一言、見覚えのある文字が記されている。
「あんたの字だろう」
こちらを射抜く瞳には確信しかなく、情熱的とも呼べる真っ直ぐさにアレファンは目を細めた。
立ち上がり、水場へと足を向ける。
「君の目は紳商伯にも負けないね。なにか飲むかい?」
「アレファン」
追い掛けてきたエベルがアレファンの手を取る。首を傾げて次の言葉を待つ間もなく、宝箱を開けるような自然な手付きで、彼はアレファンの痩身を担ぎ上げた。
「わ。君はいつも行動が突然だ」
「やることを指定しておいて何を言うか」
アレファンは碩学の名を冠しているが、それを支える好奇心と興味は底知れず、相手をする者にも限りがあった。
満たされることがあるのかも分からないまま、貪欲に知識を欲し、その為に他者を利用することにも躊躇いがない彼を制するとなれば、尚更だ。──それは、夜伽、すなわち色事に置いても同様で、かろうじて働いた理性からアレファン自らエベルに話を持ち掛けたのが何年も前となる。
結局、彼が相手をするということで話が落ち着き、それからは夜遊びと並ぶ程には同じ夜を過ごしている。
迷いなく寝室の扉を開け放ち、寝台の上にアレファンを放り投げる。転がり落ちる心配もない広さだ。エベルが乗り上がり、近寄る姿を目で楽しむ。
「水差しくらい、侍女が置いているだろう。寝かせろ」
「そうだね、仕方ない。寝ながら君の話を聞かせてもらうとしよう」
エベルの手が裾の長い夜着を捲くり、すかさずアレファンの衣服を脱がす。アレファンもマフラーに手を伸ばし、上衣共々、留め具を外して寝台の下に落としてやった。
互いに上半身が薄手の下着だけとなったところで、唇を合わせる。
エベルの肩にアレファンの腕が回り、二人、折り重なるように寝台に沈んだ。
「さて、どこから話を聞こうかな」
呑気なアレファンの声に、密やかな水音が重なる。
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夜伽の相手といえば、誰もが王に遊ばれることを想像する。
地理も歴史も文学も、魔法の摂理もあらゆる事象全てに造詣の深い王のことだ。相手の反応からその心の内まで、すべてを掘り下げ知り尽くすのだろう。
畏怖も混ざって創り上げられたその想像が、ただの幻想であることを知るのは城の一部の者だけだ。
(王は、今夜は一人にしろと仰っていたはずだ)
先程から何度も繰り返しては、こめかみを押さえる。
雷剣将と誉れ高い彼──ブランドは、王の自室へ向かう廊下の入り口で、つい先刻、部下より聞き入れた情報を王に伝えるかで悩んでいた。
盗公子エベルは、舞踏姫シルティージと並ぶ高位の人物だ。
しかし、その振る舞いと義賊との関連から、城に定住することを許されておらず、月一の定期報告以外で立ち寄ることを禁じられている。
はずだ。
これを言い渡したのが碩学王アレファンであり、故に、彼の命に背くような行動があったのなら、報告するのが道理である。
「いや、まさかな……まさか……な」
分かっていても、懸念が彼の脳裏に過る。
前に一度だけ、ブランドは王の寝室へ招かれたことがあった。
酒と王の言葉に酔い、一線を踏み外しそうになったことをブランドはとても後悔していて、一方で、王がそちらの方に明るいことに衝撃を受けたがために、この出来事をよく覚えていた。
色欲に溺れるような王ではない。ないが、あのときブランドを誘う手付きは慣れていて、もう少し酒に酔っていれば不敬罪に触れる振る舞いをしていたかもしれないという不安は付きまとう。
性別問わず、アレファンは人の懐に容易く入りこむ。王としてはあまりに能力が高すぎた。
思い出すだけで熱が集まる己も些か滑稽だが、あの色香に当てられてまともでいられる者がいるなら、見てみたいというもの。
ましてや、その相手がエベルというならば。
そう思う己の内で燻る感情が、好奇心か嫉妬か、はたまた異なるものなのか。今のブランドには判別が付かない。
「……いかん。まずは報告だ」
考えているうちに、突き当りにある、両開きの扉の前へ辿り着く。
ここまで来ると、舞踏姫の調べがブランドの耳にも届いて、ふ、と口元が緩んだ。美しい旋律だ。勇気を握り拳に変え、扉を叩く。
返事は無く、就寝なさったのだろうか、と一言を添えて静かに扉を開けた。室内は暗く、窓が一つ開いているのみ。
「──南の地域では、……で」
「それなら……っあぁ、うん、」
囁くような話し声がしたのは寝室の方で、聞き覚えのある低音にざわりと肌が粟立った。
扉を締め、廊下には漏れぬよう喉を震わせる。
「陛下。お休みのところ失礼します」
何かが倒れるような鈍い音がして、ぱたぱたと床を踏む音が近付く。顔を出した王の姿を見て、ブランドは堪えきれず片手で顔を覆った。予想は当たっていたらしい。
「ブランド!いつから部屋に……どうかしたかい?」
「盗公子の姿を見た者がおりまして、報告に上がりました。が、王がお呼びになさったのですね」
「え」
寝起きにしてははっきりした応対と、夜着の裾から見え隠れする赤い痕に溜息が出る。一言謝ってから、留めきれていない首元の釦を付け直してやる。
「陛下。止めろとは言いませんが、盗公子を呼ぶ場合は事前にお伝え頂ければ、我らの手間も省けます。お邪魔をすることもないかと」
「ああ、うん。……そうだね」
バツが悪そうにしていた彼も、最後には苦笑いを浮かべる。
「あんたも苦労するな」
「殿下も、ご連絡いただければ迎えをやります」
「俺はあいにく、仕える奴が居なくてね」
話している間に着替えたか、いつもの格好をした盗公子が寝室から顔を出した。王の下までやってくると、挨拶と同じ要領で口付けを交わし、窓枠へ足をかける。
「じゃあな。碩学王」
「気をつけて帰るんだよ」
睦言を交わしていたとは思えない淡白さを見せ付けられて、ブランドは次の言葉を思い悩む。
姿が見えなくなるまで見送ると、王──アレファンはそっと窓を閉めた。
「ところで、君は、エベルの報告のためにここまで来たのかな」
「はっ、今夜は定期報告不要とのことでしたので」
「──では、今から友人として話をしよう、ブランド。付き合ってくれるね?」
「は……。……分かった」
にこりと綺麗な笑みを浮かべて、アレファンが水場へ向かう。有無を言わさぬ雰囲気に、ブランドは緊張を覚えた。
「茶を淹れよう。寛いでいてくれ」
果たして、己はこの部屋から無事に出られるのだろうか。聖火公の顔を思い浮かべて、胸の内で密やかに祈った。
芳しい香りが漂う。銀枠の施された茶器には温かな紅茶が注がれ、最後の一滴が月の雫のように波紋を広げる。
室内の明かりは、円卓の中央で揺らぐ蝋燭一つだけ。窓から差し込む星明かりだけでも、十分に互いの顔色を伺えた。アレファンは椅子に座るや唇を潤して、手元に茶器を戻した。
「この間の活躍は素晴らしいものだった。エベルも関心していたよ、山賊たちの動きも大人しい、と」
「……そうか」
普段の会話が始まって、ほ、と気を緩める。
「お陰で、しばらく城で道楽するしかなさそうだ」
「見逃せない冗談は止めてくれ。アレファン」
「なら、あなたも公私を混ぜないでくれるかい? ブランド。今は友人として会話をしたいんだ」
「……わかった」
自分は紅茶を楽しみながら、ブランドには冷たく軽い手振りで紅茶を促す。二度も忠告を受けては次が怖いなと、苦笑で誤魔化し両手で小さな茶器を持ち上げた。
「言わせてもらうが。盗公子に斥候のような真似をさせずとも、兵がいくらでも報告をしているだろう。何故、彼を城の外へ追い出した?」
優しい香りだ。緊張を解きほぐす果実のやわらかな甘みと、植物の爽やかな青さが鼻腔を抜ける。一口を飲んで、喉奥につっかえるような甘さに、次を急いで嚥下した。
蜂蜜でも入っていただろうか。首を傾げながら、元へ戻す。
「何か?」
「いや……喉に、引っかかってな」
「水差しなら寝室にあるよ。取って来るとしよう」
止める間も無く、ひたひたと床の上を素足で歩き、アレファンは寝室へ消える。部下であれば自ら率先して取りに行くところだが、先刻まで行われていたことを考えると、あまり近寄りたくないのが本音だった。
沈黙が横たわる前に、アレファンが姿を現す。
「ここに閉じ込められるのは、私一人だけでいいと思ったからさ」
水を注いだ小さなカップを円卓において、そのまま、卓上に腰を下ろす。先ほどの問いに対する答えなのだと気付くには十分なほど含みがあり、舞踏姫ならまだ自然に思えた行動と合わせて、ブランドの心に不安を呼ぶ。
水を飲んで、部屋を出よう。まだこの距離なら、ブランドが動いた方が早い。
不自然にならぬよう、しかし一息に水を飲み干し、席を立つ。
「さっきから俺を友人と呼んで、いいように話すのは止めてくれ。それほどこの城が嫌か」
「そうだね。閉じ込められるというのは大げさだ。謝ろう」
手首を取られた。手袋と服の裾の隙間に指先が入り込み、その冷ややかな体温に背筋に悪寒が走る。
「アレファン……?」
ばちんと何かが弾かれるような音がして、四肢が強張った。
カッと頭に血が上って、湯を浴びたような心地になる。身体がふらついたことに意識が向く。
「ただ、あなたが私の邪魔をしたことは確かでね。一晩付き合ってもらおうか、ブランド」
「ッなにを」
手が触れ、迫られていると分かって顔を背けたが、その肩を押し退けることは叶わない。アレファンが首筋に顔を埋めて、何事か呟く。自分以外の吐息に、嫌な刺激を覚えた。
次にこちらを見上げた顔は、王とも友人とも呼びがたい妖艶な微笑みを浮かべて、ブランドに擦り寄る。
「霊薬公からいいものをもらったんだ」
顔横にアレファンが掲げたのは小瓶で、中の液体は半分ほどしか残っていない。なんの薬か、はたまた毒か、逡巡したのは一瞬だ。その間に、アレファンは小瓶を開けて残りを飲み干してしまう。
毒味をする前に飲むなど、言いかけた言葉は現状にあまりに不似合いで、では何を言えばいいのかと考えた頃には、とうに彼の手中に収まっていた。
カタン。床に無造作に落として、アレファンがブランドを寝室へ誘う。
「来なさい」
「……エベルがいながら、何故」
最後までいい終わらぬうちに、手首に爪を立てられ、寝台へ押し倒される。
ブランドがその手で止めた釦を外し、夜着を脱ぎ捨てる。鬱血の残る青白い身体が馬乗りになって、思わず、喉を鳴らした。
造形の整った顔が眼前に迫り、熱い吐息が唇に触れる。
「憐憫の情があるなら、黙って抱いてくれないか」
指を絡め合わせるように手を重ねられた。
細かな設定とか
細々した設定的な妄想。
今回名前だけ出た五人のみです。
碩学王(Scholarking)……
舞踏姫と同じ王宮に住んでいる。雷剣将が部下。
全てのことに興味があって知識をしたためたいので、なんでも気になれば首を突っ込んでは雷剣将に連れ戻されている。雷剣将に手を出そうとしたら怒られたけど、機会があればイケるな……と踏んでいる(王の誘い受け的な意味)。
盗公子と夜遊びしたことがあって、たまに王宮を抜け出して遊んでる。紳商伯や狩王女とはいい仕事仲間。霊薬公と聖火公とは仲が良く、聖火公にはよくいさめられている。
盗公子(Prince of Thieves)……
義賊を応援してる。盗みのスキルが高いのと演技派なので甘いマスクで老若男女を手の上でくるくる回すのがうまい。彼の話には気をつけろ。酒を飲む相手は碩学王か霊薬公と決まっていて、他の者の前では適当なところで飲まなくなる。
雷剣将から小言をよく言われるので、文句があるならお前の王に言え、と言い返している。ただし聖火公にはいさめられると言い返せない。なぜか強く出られない。
碩学王の奔放なところはいいと思っているので反省はしてない。舞踏姫ともよく遊ぶ。狩王女と狩りに出かけることもある。紳商伯・霊薬公とはいい相棒関係。
雷剣将(ThunderBlade)……
苦労人。碩学王の奔放なところに困っているけど、仕事ぶりは信頼しかないので振り回されている。真面目に口説かれると弱い。舞踏姫や盗公子にもよくからかわれるので、王宮の中では誰が一番に彼を手中に収めるのか賭け事が行われている。(最低かよ)(すまない)
霊薬公・聖火公・紳商伯は護衛相手ということもあるが、それ以上に仲が良い。
狩王女とは盗公子と並ぶくらい一緒に出かける。手合わせもよくしている。
舞踏姫(Lady of Grace)……
日本語訳だとわかりにくいけれど、英語だと祝福をもたらす貴婦人的な感じだったので、祝福をもたらす姫って扱いだといいなと思う。同じくもたらす者である聖火公とは仲が良い。部屋に呼ぶことも多い。大体はおしゃべりしておいしいもの食べて寝てるだけ。
王には舞踏を教えてる。狩王女に甘えるのが好き。紳商伯からはこっそり美味しいものやいいものをもらってる。盗公子には王と同じように扱いなさいよと言って振られている。(それでもたまに遊びに連れて行ってもらってる)
雷剣将や霊薬公との関係はまだ不明。気になってる程度かもしれない。(姫だから)
聖火公(Flamebringer)……
アレファンの相談相手。性別不詳だが外見はオフィーリア。
城の隣の教会に住んでいる。舞踏姫や紳商伯、盗公子とよく話す。霊薬公とはいい茶飲み友達。雷剣将とは仕事仲間。
(正しくは聖火神だけど、英語ウィキを見ると炎をもたらす者という訳だった+12神という扱いを見るに、この人だけ神と言うのをつけるのは違うかもしれないと思った+あと神様なのに何故他の人と同格なの?という日本語文脈が紛らわしいので公にしました)