神様の悪戯、その後


前書き

以下は、英語版テリオンさん視点のオマケです。 サイラスの口淫のシーンから。


一方、随分と刺激のみを与えられて中途半端を強いられている盗賊は、そろそろ解放されたかった。興味がないといえば嘘にはなるものの、自分のいた世界のサイラスのことを優先したいのは彼も同じであったからだ。なにより、あの学者は今盗賊の亀頭を舐めているサイラスよりも、もう少しだけ上手かった。
拙さに可愛げは覚えるものの、長引けばそれも薄れる。できることなら元の世界に戻り、自分の知る相手と交わりたいとすら思い始めている。
盗賊は手っ取り早く、喉奥を犯すことにした。

「──噛むなよ」
「! お前、」
「悪いが、見逃せ」

サイラスの頭を両手でしっかりと固定し、大きく開けさせた口に更に押し込む。突然の質量にえづき、震え、反射で拒もうとする身体の動きを制して、突く。
んぐ、とくぐもった声が発され、喉が動いた。舌がなめらかに裏筋を撫で、欲しかった刺激に構わず射精する。
視界が、白く染まった。

「……起きたか」

声が降ると共に見覚えのない天井が目に入った。ゆるく頭を動かせば、盗賊は寝台に寝かされ、向かいの寝台は空で、すぐそばでは椅子に腰掛け本を閉じたばかりの学者がいる。

「キミは見知らぬ少女が魔物に襲われそうになったところを助けたが、その後攻撃を受けて倒れたのだよ。覚えているかい?」
「…………少し」
「ふむ、参ったな。アーフェンは出かけているんだ……探してくるよ」

小さな机に本を置き、学者は席を立った。

「空腹のようなら食事も取ってこよう。腹は、」
「待てよ」

寝起きの病人にも構わないその手を取ろうとして、盗賊はズキリと痛む頭を押さえた。それに気づいた学者がすぐに駆け寄り、氷嚢を押し当てる。

「寝ていなさい。強く頭を打ったのだから」

痛みはすぐに引いた。と、同時に盗賊は自分のいた世界に戻ってきたのだという実感を得た。これまでの旅路が脳裏を過り、別世界で生きているらしい自分たちの姿を見たときの、あの、強烈な羨望を思い出したのだ。
学者の手を取る。氷のせいか、部屋のせいか、その手はとても冷たかった。

「テリオン?」
「……いい。あんた一人に任せると、別の問題を持って来そうだ」
「やれやれ、キミは私を犬か猫だと思っているのかね」
「とんでもない」

立ち上がると軽い目眩を覚えたが、学者の手を借りて堪える。顔を覗き込んできたその顎を掴んで、口付ける。いつもより意識して優しく舌を絡め、リップ音を立てて唇を離した。

「……怪我をしたというのに、機嫌が良いのだね」
「まあな」

手を離すかわりに腰を引き寄せ、戸口へ向かう。
あれが夢だか何か知らないが、今回の奇妙な出来事は、盗賊に一つだけ救いを与えた。
実を言えば、彼らには肉体関係こそあれど、甘やかな言葉を交わしたこともなければ、向こうの世界の二人のように仲睦まじい関係でもない。それについて盗賊はうっすらと焦りと不安を感じ始めており、出来ることならこのまま繋がりを持っていたいと考えていた。
向こうの世界のサイラスは、条件に関する『可能性』について、『互いに互いのことを恋人と思っている間』ならば、と語った。それはつまり、盗賊が元の世界に戻ってきたのは、盗賊が思うように学者の方も思っているからだということであり──思うより、現実は都合良くできているのだと思えた。

「悪くない夢を見た。聖火神のおかげだな」

今度こそ共に生きる相手と出会えたのだと、それが未来にとんでもない勘違いを呼ぶとも思わず、柄にもなく盗賊は神に感謝したのだった。





このあと、英語版テリサイは学者が「盗賊は、さっき助けた少女に一目惚れしたのか」と考えたことにより、色々誤解が重なっててんやわんやした後にくっつくのだと思います。

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