盗賊と学者
学者を睨むと、一呼吸の間を置いて微笑みが返された。
「……なんだ」
「キミは目で語ることが多いね」
プリムロゼの言う通りだと思ったんだ、と付け足されて、以前、酒場で二人揃って諭されたことを思い出す。
「さて、今キミが私を見た理由を考えるとしよう。話が長かったかな?」
「自覚があるなら、もう少し言葉を選んだらどうだ」
「それがどうにも難しい。私とキミはこれまで異なる道を歩んできたし、見え方、価値観、考え方も異なるだろう? 伝えたいところだけを切り取っても、その通りキミに伝えたことにはならない。……私はキミに話しかけているのだからね」
一理あるかと沈黙で受け止める。学者はカウンターに重心を傾け、グラスに手を伸ばした。
「それに、長いと言うならキミの方から言ってほしいものだ。知っていることがあるなら、説明も省略できる」
「どうだか」
ふふ、と口元だけの笑い声を最後に会話を切り上げる。
盗賊は酒場の壁にもたれ、天井を見上げた。学者の話に口を挟むことはやぶさかではない。それこそ話し始めから割り込んでやってもいい。
だが──楽しげに語っていた横顔を盗み見る。
こちらが伝えれば、彼は言った通り言葉を変えるだろう。話を変えるだろう。それは、こちらが示した分だけのことを頼りに『選ばせる』行為にも感じられて、盗賊には気味が悪い。
辿り着いた結論はありきたりだ。
盗賊は日常に割り込まない。見えない影であることこそが武器であり、身を護る盾である。即ち、学者が自然に振る舞う行為こそ、自分には都合が良い。
「……結論が出たかい?」
学者が気付き、盗賊はエールを飲む。
「考えただけ無駄だった」
「それは何より」
卓上の酒はまだ空きそうにない。