シランとトウカ、初期設定のトウカ

登場人物紹介

  •  透火(トウカ)
    |原作で主人公|17歳|「神の落とし子」と呼ばれる金髪金眼を持つ|種族代表の存在として戦争に駆り出される
  •  芝蘭(シラン)
    |原作で主人公の後見人、家族、元主人|22歳|王族、第一王子|なんとか透火を安全な場所(自分の側)にとどめるために翻弄する
  •  光河(コウガ)
    |原作でのサブキャラ|17歳|透火が従者を辞めた後に着任した従者
  •  トウカ
    |初期設定の主人公|17歳|澄清組と呼び、原作とは区別される|イフ世界の存在

夢でありますように

シランの目覚めは良いほうだ。
トウカと違って予定した時間の少し前には自然と目が覚めるし、それを見越して召使が部屋の扉を開けるので支度が滞った経験は一度もない。
王族たるもの、だらしのない生活を送っていては民に示しがつかないというもの。そんな言葉を文字通り素直に受け取り、父親に指摘を受けたくないあまりに早起きを身に付けたはずだが、この日、目覚めてすぐにシランはこれは明晰夢だと──とにかく自分の頭を疑った。
見知った顔が二つ、シランを覗き込んでいたのである。



トウカは父親に仕えていた騎士の息子であり、諸事情あってシランが引き取った子供だ。
シランより六つほど年下で、シラン側の家族事情と相まってきょうだいや家族のような距離感で十年を過ごした。
トウカにはひとり実の弟がいるが、弟は他国へ留学中であり、二人で彼を見送った日のことをシランは昨日のことのように思い出せる。
シランは二人のことを自分の子どものように、あるいは弟のように愛しているが、しかしその実、その愛情には多少どころかかなりの偏りがあることは弟の方から指摘されていた。
曰く、トウカの方を大事にしているよね、と。
これには一応の訳がある。トウカは、シランがかつて幼心に愛した婚約者と似た顔立ちをしている。性別こそ異なれど、年齢こそ違えど、愛した事実はシランに親しみを与え、懐くまでに手がかかった分の愛おしさがどうしてもあるのだ。親の顔の判別もつかない頃に引き取った弟の方とは、いかんせん始まりが異なる。

話を戻そう。
ともかく、愛情の掛け方に違いはありつつも、シランはトウカとその弟が健やかに成長することを願って育ててきた。そして、自分の従者としてその才能と持ちうる力のすべてを余すところなく発揮してきたトウカのことを、シランはいつだってすべての基準として考えるほどには盲目だ。

「さっきから瞬きすらしないね」
「目、乾くんじゃねえの?」
「俺の顔で話す割に口が悪いな……」

その彼が、いま、シランの目の前に『二人』いる。
彼らはベッドサイドに並び、膝立ちで、シランの顔を覗き込んでいた。
よく知る方のトウカは行儀よく両手を揃え、よく知らない方──どことなく目つきが悪い方は頬杖をついている。要は行儀よく座っているのがシランの知っている方のトウカで、行儀の悪いほうが初めて見るトウカなのだが、如何せんこれでは呼びづらい。
額を押さえながら起き上がり、呻くように一言、発する。

「……俺の見間違いでなければ、透火トウカが二人いる」
「合ってる」
「それなんだけどさ、起きたらこの部屋に居て、俺がもう一人居たんだよ」

夢であってくれとシランは願ったが、それも虚しく二人は平然と会話する。
素っ気なく答えた──目つきも口も悪い方を仮にトウカ、自分たちを芝蘭シラン透火トウカと表すとしよう。

「オレだけ除け者ってわけだ。あのクソ王子、ほんと役に立たねえ……」

ボソと聞こえた悪態が、自分に向けられたものではないと察しつつも、芝蘭はショックを受けた。彼の知る世界の透火はそんな罵倒を口にしたことがなく、特に芝蘭に対して「クソ王子」呼ばわりしたことなど一度もなかった。透火はそんなこと言わない、と思わず呟きそうになったが本人がいるので堪え、せめて仲はよくあってくれと思いつつ、次のように訊ねる。

「こっちは俺の知る透火だが……お前はなんだ?」
「俺もトウカだ。俺の知らない芝蘭王子。──自己紹介が終わったところで一ついいか? あんた達は恋人同士か?」
「えっなんでその質問? それに、違うよ。俺達は主人と元従者だって」
「……お前は見ただろ。扉の張り紙」
「それが?」
「俺達で性行為をしないと出られないって書いてたろ」
「は!?」
「うわっ、びっくりした。急にどうしたの、芝蘭」

なんだその質問は、と首を傾げていられる間は良かった。トウカの発した脱出要件に耳を疑い、それから透火に尋ねた意図を察して芝蘭は頭を抱える。

「……本当に、この部屋から出られないのか?」
「自分の足で調べろよ」
「芝蘭、気になるなら俺と見て回ろう?」
「あ、ああ……」

トウカの肩をばしんと叩いて窘めると、透火はいつもの愛らしい笑顔で慰め、芝蘭に手を差し伸べる。今でこそ従者ではなくなったが、彼が働く年齢になってからこれまでの月日が身に着けさせた所作は芝蘭に安心をもたらし、触れた温もりから嫌味なほど正しく今が現実なのだと教えた。

「……夢じゃ、ないんだな」
「夢だったら俺も助かるんだけど。芝蘭、ちょっと俺を殴って起こしてくれる?」
「嫌だ」
「嫌なんだ」
「お前を殴るわけないだろう。それより、扉はどこだ。あれか?」
「うん」

トウカには悪いが、一人でベッドのそばで待機してもらい、二人で扉に向かう。
見渡すと、芝蘭の私室とよく似た部屋だ。窓の外は薄暗く、燭台には日が灯され、調度品は見覚えのあるものばかり。靴を履いてないまま歩いたが床は絨毯で柔らかく、透火もまた素足だった。城で支給される素朴なロングシャツを着ており、ふくらはぎから下だけが見えている。

「ほら、ここ」

芝蘭の方は同じロングシャツに長ズボンを履いていて、見ようによってはおそろいと言えなくもない。だからトウカは先程あのようにおかしなことを聞いたのだろうか。
透火の示す先へ視線を転じると、そこには確かにこう書かれていた。

『三人で仲良く性行為ができたら開けてやる』
「……何故……」

知り合いの黒髪男が書きそうな文面だが、あいにくその男の筆跡とは異なる。なにより、彼が企画した悪趣味な催事なら彼自身による説明が入りそうなのでおそらく彼のせいではない。

「扉に彫られてるんだな、……文字が」

思わず手のひらで文字をなぞる。石碑のような見た目で、書いてあることがこんな内容だなんて素材が憐れに思えて仕方なかった。

「みたいだね。芝蘭はわかる? この意味」
「いや、さっぱりだが……」

透火に疑われぬよう、手で口元を隠す。
芝蘭も成人して二年が過ぎた。婚約者がいないとはいえ、夜伽については一通りの教育を受けているので、透火よりは知識があった。
故にはっきりと言える。性行為といえば二人でするものだ。
三人となるとひとり余るし、そもそもそういった行為を他人のいる場所でするなど信じられない。

「もう一人の俺は分かるっていうんだよ」
「なんだと?」

耳を疑った。見た目から判断するに、トウカの方も透火と同じ年のはずだ。それがどうして芝蘭すら知らない性の知識を知っているのか。誰かが教えたのか、あるいは彼のいる世界では早いうちに教育が行われるのだろうか。

「で、それによると芝蘭が竿役だって言ってた。意味わかる?」

──それまで考えていたことが吹き飛ぶほどの衝撃を受けて、目眩がした。

「……。……言いたいことは分かった」
「それなら話が早い。戻ろう」

透火に手を引かれる。無邪気に跳ねた金のくせ毛が彼の動きに合わせて左右に揺れていた。
芝蘭が寝ている間に二人はどんな話をしていたのだろう。この部屋を出るための算段を付けていたのだとしたら、おそらく、透火が芝蘭に部屋を案内したのも計画してのことだろう。
(つまり……俺に、こいつを抱けと?)
自分の知っている者に性行為を見られるのと、実際に行うのとではどちらがましだろうか。記憶も全て引き継いだ状態で元の世界に戻るというのなら、間違いなく前者だが、どのみち芝蘭が彼らのどちらかを犯す選択肢は残る。
(かといって俺が抱かれるのも……特に透火は気にするだろうな)
家族であり、主従の契りも交していた過去がある。従者としての意識が透火には残っているから、いくら芝蘭が問題ないと言ったところで彼は気にするに違いない。

「もう一人の俺〜、説明してきたよ」
「わかった。じゃあお前は服脱いで待っとけ」
「なんで?」
「必要だから」

芝蘭が悶々と考え込んでいる間に透火とトウカが話を進めていく。

「王子」
「な、なんだ」
「あんたの世界の俺に聞けば、まだ誰にも手を出してないってね。けど、生憎、俺の世界のシランはクズなんだ。──俺に手を出すくらいには、愛に盲目だ」
「あ、」

低く艶めいたトウカの声に緊張した瞬間、トン、と胸元を突き飛ばされ、後方のベッドに倒れ込んだ。

「なにを、」
「もう一人の俺に言っとく。この部屋から出たいなら、さっさと服を脱ぎなよ」

騒ぎ立てようとした透火に言い返すと、トウカが芝蘭の上に馬乗りになる。言い返そうとした口を手で掴まれ、咄嗟にその腕を掴み返す。
トウカは笑った。

「そうやってあのクソ王子も痕を残すんだ」
「っ!」

手の力を思わず緩めたそのとき、トウカの顔が近付き口付けられそうになった。顔を背けたものの彼は気にした風もなく首筋に吸い付き、残る片手で自重を支えながら衣服の上から体の線をなぞっていく。
ぞわぞわと這い上がる感覚に違和感と快感を覚えて、吐き気がした。

「っ透火! お前はあっち向いてろ!」

慌ててこれを見せられている身内に叫び、唐突に、嫌な予感を覚えた。
いつもの透火なら、芝蘭に害をなそうとするトウカを許しはしない。芝蘭を押し倒した段階で剣を抜くなり魔法を使うなりして護ろうとしてくれるはずだ。
どうしてそれがない?
寝間着のボタンが外され、リボンが解かれる。芝蘭の素肌にトウカの指先が触れたとき、衣服を脱ぐ音がした。
鍛えられて引き締まっていながら、まだまだ未熟さの残る白い素肌が視界に現れる。ギシ、と顔の横に膝を寄せて、透火は上から芝蘭の顔を覗き込む。

「……ごめん、芝蘭。俺、お前をここから出してあげたいからさ。聞いてあげられないや」

そうして、心に衝撃を受けて動けなくなった芝蘭に、自ら唇を押し当てたのだ。


--


突然だが説明させてほしい。芝蘭の住まう世界にはいくつか魔法が存在し、基本的には生まれ持つ魔法は一属性と決まっている。なんらかの理由によって多属性持ちとなることはあるが、例は少ない。さらに、魔法を使うには魔力が必要で、これの個人差が激しいために魔法の使えない人間もまた多く存在した。
芝蘭は、身体に影響を与える特殊な属性持ちである。例えば飲み物に毒を付与したり、反対に解毒作用を付与したりすることもできるし、相手を麻痺させたり、目眩を起こさせたり、体調不良によって起こりうるあらゆる不調を呼ぶこともできる。
ささやかで、暗殺向きの魔法のため、芝蘭は外向的には魔法があまり使えない人間として示してきた。人前では魔力の込められた術符を用いて魔法を使ってきたので、芝蘭の魔法について詳しく知る者は少ない。
そしてそれは、透火も例外ではない。
唇に彼のそれが触れ、目の前に整った顔がある、と意識したとき、芝蘭がなによりも恐れたのは自分の魔法のことだった。トウカを掴んでいた手を離し、透火を引きはがすために使う。
が、それすらもトウカには見抜かれていたようで、急所を握られた。咄嗟に、透火の舌を噛んでしまう。その弾みに、何かの異常を付与した、気がした。

「っい」
「だ、大丈夫か、透火」
「大丈夫じゃない……いって〜」

舌の痛みに顔をしかめ、透火が背を向ける。今すぐ治してやりたいが、今ここで魔法を使って万一透火の記憶に残ると困る。
芝蘭が頭を悩ませ焦りを感じ始める一方、トウカの方は取り出した芝蘭の性器を口に含み、舌で愛撫を始めていた。
冷や汗が出る。快感と興奮と、透火には見られたくないという羞恥心で頭に熱が集まる。自由になった手でトウカの頭を押し戻そうとしたが、彼は頑なに抵抗し、器用に裏筋をなぞって喉奥まで咥えこむ。

「っう、あ……は、やめ、やめてくれっ!」
「やめるくらいならやってない」
「うわ……すご」
「〜〜っ透火は見るな!」

あまりに気持ちが良くてどうにかなりそうになりながらも、情操教育としてよろしくないと透火の肩を押す。
口調の悪さこそあれど、透火が髪を伸ばして少し愛想をなくせばトウカと瓜二つになる。つまり芝蘭の好みの造形の、あまりに美しく愛らしい顔立ちをした彼が、今このときも芝蘭の男根を掴み、扱き、舌や口で慰めている現状は、まるで透火に奉仕をさせているような錯覚をさせるので非常に心臓に悪かった。
気持ちが良いのでどうしても興奮する。勃起するほど透火に劣情を抱いていると告白しているようにも見えて、そんなことはないのに、恥ずかしい。
口をすぼめて、トウカが強めに吸う。強い刺激に腰が震えた。

「も、……っ離せ!」

腰にトウカの手が触れて、びく、と身体が反応した。我慢できずに吐精し、残さずトウカに飲み下される。
息を切らしながら抜けた腰をなんとかずらし、距離を取る。
トウカは口の端からこぼれた白濁を親指で取ると、ニ、と笑みを浮かべた。透火の手首を掴み、引き寄せる。

「次はこっち」
「なにが?」
「準備がいるだろ」
「なんの?」
「待て! 透火はまだ何も知らないんだ。説明を」
「そんなの待ってる余裕があるんだ? ……さっさとこんなとこ出たいだろ、お互いに」

芝蘭の状態を理解した上でトウカはからかい、かと思えば急に声を落とした。

「いつまでもこんな怪しげな空間に主君を置くなんて、俺だったら考えられない」
「……!」
「ほら、そこに手をついて。四つん這いに」
「こう?」

彼が、どんな世界でどんなふうに生きてきたのかは分からない。けれど、その言葉は透火が言いそうなことでもあり、実際、芝蘭が止めても透火は構わずもう一人の自分──トウカに身を委ねていて、彼らに芝蘭の言葉は届かなかった。
今このときまでも、彼らの優先は芝蘭なのだ。
思わず視線を逸らす。何が行われるのか見届けなければいけない思いもあったが、見てはいけない気もして、耐えられなかった。
芝蘭の知っていることを当てはめていくなら、どうやらトウカは下準備を済ませようとしているらしい。
芝蘭の膝の上でうずくまる透火の頭を撫でる。

「透火、がんばれ……もう少しだからな」
「うん……ねえ、まだ?」

透火を挟んで芝蘭の向かいに座ったトウカは潤滑油を丹念に塗りながら、真剣な顔で透火の後孔を解す。

「初めてなんだろ。念入りにしておかないと」
「うう……」
「暇なら王子の性器でも舐めてろ。どうせ必要だ」
「お前な……っ!」
「文句があるならあんたが受け手になるか? 王子。たださあ、そんなことすれば俺達がどうなるかなんて、言わなくても分かるよな」

一国の王子を犯したとあらば、たとえ種族の中で重要な位置づけにある透火たちでも罰則は免れない。そのために彼らは自分の体を差し出すと言っているのだ。彼らの配慮を無下にしてはいけない。

「……舐めるって何?さっきのやつ?」
「そう。さっき俺がしたみたいにやってやれ」
「わかっ、た」

トウカの指が気になったのか、ひくりと透火の喉が震えた。
あまり良いとは言えない顔色で、透火が芝蘭を伺うように見上げる。頬を撫でると、少し熱い。
へいきだよ、とぎこちない笑顔が返された。
彼らは芝蘭を早くここから脱出させる──そしておそらくもう一人のシラン王子を助け出す──ために嫌なことでも取り組んでいる。
本来なら年長者である芝蘭が引き受けることだ。狼狽えてばかりではなく、彼らに協力し、さっさとここから脱出する方が余程彼らのためになるだろう。
意を決して、透火の頭を持ち上げた。


--


「ん、っん、ふ、……っぷは、うあ」
「休む暇ないぞ」
「んんっ」

透火が、トウカの性器を咥えている。その様子をまともに見られない位置で良かったのかどうか。ぱしん、と透火の背中が叩かれる音がして、それに応じて内側のほうが強く収縮する。
息を呑んで、思わず快楽を堪える。

「我慢してないで、早く出してほしいんだけどな?」
「っ悪い……」
「! おい、バカ!」

真正面から金眼に睨まれたかと思えば、透火が何か強い刺激を与えたらしい、トウカの顔が歪む。

「……っ芝蘭、は、自分のペースで、やればいいから……っ」

肩越しにこちらを見やる彼の姿に目眩を覚えて、前屈みになる。なんとか興奮を冷まさぬよう中を揺すってみるが、決定打には程遠い。
思うようには動けない己の優柔不断さに内心、頭を抱えた。
なんとか、そう、芝蘭はなんとか透火に挿入を果たしていた。
手塩にかけて育ててきた家族のような弟分に、まさか自分の欲望をぶつけなくてはならないなんて、悪夢以外の何物でもない。覚めるなら早く覚めてくれと願いながら、仄かに赤らんだ肌や男性にしては骨格も肉付きも中途半端な細身の身体に誘惑されてしまう。
透火の顔立ちゆえだ、と自分に言い聞かせる。透火の顔立ちは、今は亡き芝蘭の婚約者と似ていた。昔から可愛いと評判で、愛嬌のある、天使のような整った造形をしていて、詰まるところ女のように愛らしいのだ。彼自身は母親に似ただけと言うが、顔だけでは性別を判じようのないきれいな顔は、劣情を誘うのに向いていた。
だから肩越しに、涙目で、気持ちの悪さを堪えて芝蘭を必死に気遣うその姿を見ているだけで萎えることはなかった。が、射精をしろと言われても出来ないのが本音だ。というか、射精までしてしまえば、もう何もかもがおしまいだとすら思う。
それが求められていても、だ。
ふうと息を吐きながら、固定したままの透火の下半身に押し込む。今すぐ離れたい。けど、離したくない。気持ちがいい。だめだ、解放してやりたい。理性がねじ切れそうで、奥歯を噛んで襲い来る波をやり過ごす。

「──っあ、あぁっ!」

先端がしこりを押し上げた、様な気がした。ぎゅうと強く締め付けられて、思わず腰が引ける。気持ちが良くて反射で奥へと押し込み、ハッと慌てて意識を透火に向けた。

「わ、悪い、透火」
「だから……っ、いいって、ば……!」

唾液とトウカの精液を口の端から垂らして、透火が涙を浮かべて苦笑する。
その顎と頭をわしづかんで、トウカがその口に自身の性器を押し当てた。

「いい加減に分かれよ。王子がためらうほど長引くし、きついぞ」
「う……っ!」

隙間から押し込まれて、透火が顔を歪める。芝蘭からも見えるように横を向いての口淫で、必然的にこちらの体位も変わった。
深く、繋がる。さっきよりも進みやすくなった奥を突き上げると、透火が初めて噎せた。ガタガタと痙攣するように震えて、腹を押さえ、芝蘭の脚に爪を立てる。
カッと頭に血が上ると同時に、性器にも熱が集まった。思わず射精してしまったかのような、そんな感覚に焦って──いや、身体が急いて──激しい抽送となる。

「そうそう、さっさとしろ」
「あっ、う……っあ、や、しら、っん、それ、強す、ぎ」

この罪悪感も、背徳感も、彼らはわかって受け入れてくれている。その男気を無為にしてはならないと言い聞かせて、自分を高める。

「……っごめんな、透火」

射精する直前、トウカの精液を顔に受けた透火に覆い被さり、心からの謝罪を唱えた。
カチリ、と、音がして、意識が遠のく。
──目が覚めたとき、芝蘭が見たのは見慣れた自室の天井と、透火の顔だった。

「うわ」

勢いよく上半身を起こすと、透火がびくりと肩を揺らす。彼は、一人だけだった。いや、当たり前だ。彼はこの世に一人しかいないのだから。

「どうしたの、芝蘭。うなされてたよ」
「……嫌な夢を、見てな」
「そっか。光河コウガに美味しい紅茶でも淹れてもらったらいいよ」
「ああ……」

用事があって来ただけなんだ、と透火はのたまい、その通り芝蘭の机から書類を拾い上げると、軽い足取りで部屋を出ていった。
夢だ。そう、悪夢だった。間違いない。
乱れた息が止まらない。騒がしく脈打つ心臓を胸の上から押さえて、芝蘭は汗を拭った。


どうか、あれが夢のままでありますように。




セルフ二次創作|原作:一次創作「虹の向こうへ」


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