記憶の中では何度も抱かれていたが、実際に抱かれるとなるとやはり感じ方が異なる。
テリオンの息づかい、汗の匂い、互いの鼓動、そして触れ合った肌から伝わる体温。こればかりは今感じているものが全てだ。
(……そうか、私は)
もう、彼を知ってしまったのだ。
子供の姿から見守ってきた、愛しい面影の残る彼──テリオンはというと、サイラスがじっと顔を見つめていることに気が付き、気怠げに「……なんだよ」と言った。円みのあった頬はいつの間にか青年らしく引き締まり、首から胸元までを撫でると引き締まった肉の厚みを感じる。
「キミは、……こんな形をしていたんだね」
成長する姿を見守ってきた。既視感を覚えるたびに身体が疼いて、己の欲をぶつけてはならないと自制し、時に距離を置こうとしたのに、結局サイラスはテリオンを手放せずに身体の中まで許してしまった。
「それは……いや、それがわかっているなら、話が早い」
「ん……? ん?」
なにか言いたげな口振りだったが、頭を振ってテリオンはサイラスを抱きしめた。一度は存在感を失っていたはずの彼の性器が、確かな質量を持って再び中で蠢く。
「え、あ、っん……したい、のかな……?」
喘ぎ、その合間にテリオンの首に手を回すと、恥ずかしいのか、首筋に頭を埋めるようにテリオンがのしかかる。こくんとわずかに顎を引いて頷き、ややあって、口付けられた。
「したい。……気が済むまで」
「──……っいいよ。キミの好きなように」
頷く前から一番太い部分で浅瀬を撫でられ、サイラスとて期待している。馴染めば次は、互いが満たされるまで触れ合うだけ。
「好きだよ。テリオン」
このとき、快楽の波に晒されながらもはっきりと呼び掛けたのは、自分が誰のものかを理解したゆえだった。
「悪かった」
「いいや、それを言うなら私もだ」
あれから──二人の気の済むまで抱き合った結果、四時間が経過し、時計は深夜の一時を回っていた。
自分の限界に挑戦したせいか、股関節がよく開く。膝を抱えても痛みを感じることがなく、サイラスは自分の中から出てくる精液に指を絡めながら、身を清めなければと思った。
「私の説明が悪かったんだ。記憶にはあるけど、今の私は誰にも抱かれては……いや、いまキミに抱かれてしまったのだがね?」
テリオンは何かを言いかけ、しかしムスと口をすぼめた。
「……ずっとあんたが好きだったから、それで……今回は欲が出た」
「うん。分かっているよ」
その唇に軽く自分のそれを触れ合わせて、サイラスは立ち上がる。
「立てるのか? 無理をさせた」
「大丈夫だよ、このくらい。それに」
肩越しに振り返り、テリオンの気掛かりを振り払うように笑いかける。
「若いキミに付き合うのなら、鍛えておかないといけないしね」
腹筋がついているだろう? と腹をなでて見せて、脱衣場へ向かう。
汗も冷えてきた。張り付いていた髪を指先で解きながら、脱ぎ散らかしたスーツを拾い上げる。
中から溢れてくる精液をタオルで拭こうと、歩幅を小さくして洗面台に向かった。
「……サイラス」
「ん? キミもシャワーを、」
追いかけてきたテリオンはサイラスと同じく裸のままで、その中心にそびえ立つモノが視界に入ったとき、既にそれはサイラスの臀部に添えられていた。
「もう一回だけ」
「な、なら、寝室に……」
「ここでいい。鏡越しにあんたの顔が見られる」
「え──あっ」
指が入ると隙間から精液が溢れ、太腿を伝って床に落ちた。逆流してきたそれを潤滑油代わりにテリオンが中に押し入ってくる。
「はあ……。さっきは言い忘れたが、……俺も、あんたが好きだ。サイラス」
「ん……っ! あっ、ああ、あうっ、アッ!」
耳朶を食むように囁かれると、それだけで締め付けてしまう。ぎゅうと収縮するほど熱いテリオンの性器が意識されて、期待に自分まで興奮した。
ともすれば洗面台に当たってしまいそうな先端を、テリオンの熱い手が包み込む。男性らしい骨ばった指が、絶妙な加減でサイラスを高める。
「はあ……っだめ、今は、か、感じやすくなって、る、からあっ!」
堪えきれず、床を汚した。
は、と目を開け──忘れていたが、鏡の前でやっていたのだった──自分のとろけきった顔と、その背後で獣欲をにじませる男の表情に、また中が反応する。
「ああ……っかわいいな。愛してる、もっと……っ」
「やっ、ああ──!」
反論の余地もなく、サイラスはそのまま立てなくなるまでテリオンに愛を囁かれたのだった。