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ヒカ・キャス・テメに対する煩悩かべうち

No.176

#ヒカキャス
#ヒカキャス「花嫁探し」

漫画で描こうとしてるなれそめの話。
小説で書いてみます。
第一話。




アグネアから舞台の知らせと手紙が届いたのは、ヒカリが仲間達と別れて数ヶ月が経った頃だった。ベンケイから受け取った手紙はこれ以外にも二つあり、一つはキャスティから、もう一つはパルテティオからの鉄道の進捗の知らせだった。
「……相変わらずだな」
三人とも、文章から各々の様子が伺え、ヒカリは笑みを浮かべた。息災で何よりだと頷き、ベンケイへ手紙を返す。文箱へ片付けるよう頼んだわけだが、彼はやや神妙な面持ちでヒカリを見つめていた。
「どうかしたか」
「は。……いえ、陛下はこの先どうされるおつもりでいるのかと」
「? アグネアの舞台だ。そなた達も観に行くだろう?」
「それはもちろんではありますが!」
鎮魂祭の一件もあり、ヒカリの臣下達はアグネアの踊りにすっかり魅入られていた。特にベンケイはミッカの着物を繕ってくれたブリスターニ家に恩義を感じており、その感謝の力強さはヒカリも驚くほどだ。
「例えば、その……差し出がましい話ではありますが、どなたかを娶られては如何と」
「ベンケイ。ク国はまだ復興の途中だぞ」
「めでたい話は、民を勇気付けます。ご一考を」
ク国のために粉骨砕身で生きてきたが、まさかその延長で妻を娶れと言われるとは。
ヒカリはうんざりとして、稽古に出ると言って外へ出た。
庭で剣を振る。こうして稽古の時間を取れるようになったのも、民と手を取り合って助け合って来たからだ。
(それがまさか、夫婦の話にまで飛ぶとは……)
急な変化は民を混乱させるからと、ヒカリはク国が落ち着くまでは王の座に居るつもりだ。だが、ゆくゆくは町ごとに自立できるよう、整備しなくてはならないとも考えている。
ヒカリがこの世を去ってもク国が穏やかでいられるように──自分と友の行く末が明るいものであることを願うからこそ、そのように考えているわけだが、臣下達にもそれぞれ思いがあるようだ。
ヒカリは今年二十歳になる。父ジゴはどうであったかと振り返り、首を横に振った。
正室と側室と。女性を複数人娶るような真似はしたくない。
それよりは親を失った子供達を城で育て、その中で後継者を選んだほうが──と考えたところでソローネのことが思い浮かび、これもまた、単純な話ではないなとため息をついた。
どうしたいかを考える。妻を娶らず一人で生きるにせよ、ヒカリが年を取ればどのみち誰かに国を委ねる日が来る。
その時に、どうであってほしいか。──一人でも多くの民が、ク国を思い、共に助け合える道を選べれば良いと思う。
『一人でも多くを、救うために』
この時過ったのは仲間の一人、救いの手とまで呼ばれた薬師の姿だった。
(……そうだな。これは、彼女の考えと似ている)
同じ思想を持つ者で集まり、一人でも多くを助けて回る。彼女はその中で知識や経験を継承し、多くを救えるようにと今このときも旅をしている。
最後の一振りを終え、汗を拭う。
アグネアの手紙によれば、仲間全員に声を掛けているようなので、彼女にも──キャスティにも会えるだろう。
彼女ならば、どう答えるだろうか。話をしてみたくなり、ヒカリはそこでこの話について考えることをやめた。



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