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ヒカ・キャス・テメに対する煩悩かべうち

No.179

#ヒカキャス
#ヒカキャス「花嫁探し」

第2話。セリフを一部加筆修正しました。



アグネアの舞台は見事なものだった。拍手の鳴り止まぬ空間の中、ヒカリも熱心に手を叩いて仲間の勇姿を称賛した。
案内の者に従い、拍手を止め、順に席を立つ。通路から数えて三番目に座っていたヒカリとキャスティは同じ頃に立ち上がり、目が合うや互いに微笑んだ。
「素敵だったわね」
「見事だったな」
唱和するように声が揃い、二人で笑う。
「この後はどうする予定なんでしょう」
劇場の外に出たところで後ろからテメノスが誰に聞くでもなく唱えた。
「私も今日明日は休みを取りましたので、食事に出かけるなら付き合いますよ」
「いーね! ちょうどハラ減ってたんだ〜」
「なら、もう場所は決まりだな」
オーシュットが言いながら干し肉を取り出し、パルテティオがコインを弾く。その手に掴んだところで目当ての人物──ギルが通りがかり、よお、と声を掛けに行く。
「泣いてる?」
「……涙腺が刺激されたらしい」
「フッ、いいじゃん」
ソローネが鼻をすするオズバルドと共に出てきた。キャスティが鞄の中からハンカチを取り出し、差し出す。
「どうぞ」
「……すまん」
穏やかなその横顔は旅中で見た頃と変わらない。
トン、と肩を小突くようにソローネがもたれてきた。
「どうした?」
「こっちのセリフ。キャスティがどうかした?」
「ああ。……少し話すことがあってな」
「なに?」
仲間達が歩き出したので、ソローネと並んで歩く。途中、臣下の一人、ライ・メイと出会ったので他の者には羽目を外さぬようにと一言付け足し、暇を与えた。
「ベンケイがな。妻をと言い出したんだが」
「へえ」
「簡単な話でもあるまいと、キャスティに話を聞いてもらおうと考えている」
「……なんで?」
ソローネが怪訝な顔をした。後継者の話も含めてこれまで大まかに考えたことを伝えると、ふうん、と相槌を打ったが、腑に落ちていないようだ。
「これからどうしたいかを考えたとき、彼女ならどう考えるだろうかと思った。それだけだ」
「まあ、……そうだろうね」
彼女が肩を竦める理由が分からず、ヒカリは首を傾げる。
「それほど変なことをしているか?」
「変とまではいわない。聞いておいた方がいいこともあるから。……でも、そこでキャスティに聞くっていうのがなんとも」
「……そうか」
確かにここにはオズバルドもいることだ。彼は統計的な知識もあれば歴史的な話にも造詣が深い。学者の知識を頼るのも手かと考え直し、皆の後について酒場へ向かった。


アグネアが合流して、少しした頃。
マヒナが窓から羽ばたき、外へ出た。室内を好まぬ彼女は、野外で過ごすことにしたらしい。ソローネが早速手すりにもたれ、マヒナと遊び始める。
「メシ〜!」
オーシュットの考えは明快で分かりやすい。村の守り人として、長として頭角を現した彼女は、聞けばケノモ村を率いる者として師匠からあれこれ話を聞かされているらしい。
テメノスにもうたいへんなんだ! と熱心に語るので、ヒカリも酒を片手に同席を願い、民を率いる難しさについて彼女の考えを聞く。
「二人とも、若いのに大変ですねえ」
しみじみとテメノスが感心するので、そういう彼も大変だろうとヒカリは言葉を返した。異端審問の職については旅の中で理解を深めた。あのような旅を繰り返し、事件を解決することが彼の仕事だと思っている。国や村といった境界線がない分、その大変さは想像すら難しい。
「ここ、空いてる?」
「キャスティ!」
オーシュットが嬉しそうな声をあげた。ヒカリの右手側に着席したのは、キャスティである。
「私も混ぜてもらえない?」
「もちろんだ」
酒を新たに頼み、四人で近況を語り合う。
それから少ししてヒカリはキャスティと二人で話す時間を得た。パルテティオやオズバルドも時折隣席にやってきては話をしたが、彼らはそれぞれ別の理由で席を移動した。パルテティオは集まった客たちと語り合うために。オズバルドは研究書を読み漁るために。
「みんな、相変わらずね」
話を締めくくるようにキャスティはそう言い、酒を飲み干した。忘れがちだが彼女は酒が入ると妙に隙が増える。脱いだ上着をまとめ、卓上へ置くと、はあ、とその上に頭を置く。
「そなた、ここで寝るなよ」
「寝ないわよ。……みんなの声を聞いていたいもの」
ぱっと上げられたその顔は輝いていた。
「ねえ、それよりさっきの。話したいことってなにかしら」
誰かの助けになることを喜ぶ彼女は、ヒカリの方へ身体を向ける。
「ああ、それは……」
ソローネにも話したことを語ると、ふむふむと彼女は親身に耳を傾ける。
「私は王様じゃないから分からないけど……でも、あなたの言うことは分かるわ。結局、一人一人が変わらないと、どうにもならないことだってあるもの」
「そうだな。だが、時間のかかる話でもある……」
「そうねえ」
うーんと首をひねっていた彼女だったが、おもむろにぽんと両手を叩いた。
「私が探してあげましょうか?」
「うん?」
「お嫁さん……とまではいかなくても、ほら、色んな国を見て回るから、同じようなことを考えている人もいると思うのよね。王様に会うのは難しくても、領主様とか……ティンバーレインだったらお姫様も出歩いていらっしゃるし。なにか参考になる考えがあるかもしれないわ」
「いや、それはそなたに負担をかける」
「いいのよ。私の旅路があなたのためになるということじゃない」
それからキャスティは手帳とインク瓶とペンを取り出し、さらさらとメモを取り始めた。
「話を聞けたら、手紙を書くわね」
「う……うむ」
「ああでも、不要になったらちゃんと言ってちょうだいね」
「? どういう意味だ」
「あら」
キャスティは書き終えたところで顔を上げ、はにかむようにこう言った。
「好きな人ができたら、また、考えることが変わるでしょう?」
それに対しては曖昧な返答しかできなかった。
好きだという感情に思い当たることがなかったからでもあるし、──ほかでもない彼女が最もな発言をしたことが予想外だったから。


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大まかな流れは考えてるんですが、そこまでたどり着けるのか……。

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