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ヒカ・キャス・テメに対する煩悩かべうち

No.188

#ヒカキャス
#ヒカキャス「花嫁探し」

四話かな?
多分あと5000〜1万文字以内で終わる。
微調整入れる必要があるかもですが、一旦これで置きます。


その後、キャスティを部屋まで送り、ヒカリも寝床についた。
話すことで気が和らいだのだろう、頭を寝かせるとすぐに寝入り、次に目覚めたときには朝だった。眠る時間は普段より遅かったはずだが、妙にスッキリとしている。髪を結い、整えられた服を着替え、小手を付ける。
部屋の外へ出ると、向かい側の扉も開いたところだった。
目が合う。彼女は着物ではなく、いつもの空色の服装だった。
「おはよう、ヒカリくん」
「おはよう。……キャスティ」
朗らかな笑みを向けられ、ヒカリも釣られるように口元を緩める。
──胸にしっくりと来るものがあった。
「朝餉は皆で取ることにしている。そなたもどうだ」
「いいの? いただくわ」
「ああそれと、宿の者にはあの後言伝を頼んでおいた。今回の滞在は城を使ってくれ」
「ありがとう。とっても助かるわ」
宿や酒場でも十分だが、それでも調合するために道具を広げやすかったとキャスティはほのぼのと語る。
仕事熱心な彼女の話に耳を傾けながら、ヒカリは一つ決意を固めた。

信頼のおける相手で、自分のしたいことをもっと叶えられるなら──

民が一番とはいえ、国の境を越える越えないがヒカリの行動に制限をかけるかというと、そんなことはない。多くの民が困窮せず、共に明日を生きるためには、それ以上に多くの人との関わりが必要だ。
一人でも多くに、救いの手を差し伸べたい。ヒカリの見据える先は、彼女の行動を制限せず、文字通り一人でも多くに辿り着く手伝いになるだろう。
(……驚くだろうな)
彼女の希望も満たせるだろうと、ヒカリはどこか晴れやかな気持ちで食卓に付き、皆と和やかに朝食を取った。


ヒカリがキャスティに告げたのは、翌朝のことだった。
この日を最後にキャスティが旅立つと言うので、言ってしまう前に話しておきたかったのである。
「キャスティ、話があるのだが……」
「あら、なに?」
「……。……こちらに来てくれ」
臣下達からの妙な視線が気になり、城の外へ促す。見張りの兵士も遠く、町中の声があるのでここならヒカリ達の話し声も聞こえぬだろう。
「妻の話だが、」
「ああ、大丈夫よ。また話を聞くことがあったら、聞いておくわね」
「……そうではない」
はっきりと言えばいいだけのことが、照れくさい。ク国男児ならば、恥じらいを捨てろと言い聞かせ、キャスティを見据える。
「そなたに、……妻になってくれと言うのは、どうだろうか」
「え?」
「そなたも言っていただろう。信頼の置ける相手で、できることが叶えられるなら考える、と」
「え、ええ……」
相談をされていたのに、急に婚姻を申し込まれては戸惑うのも当然だ。ヒカリは考えられる限りの彼女の願いを叶える形の提案を唱え、それから、軽く息を吐くと胸を張った。
「俺はそなたのことを十分に信頼しているし、そなたからの信頼も感じている。もしそれでも足りぬと言うなら諦めるが……どうだ?」
「まあ、ヒカリくん。あなた」
一通り話を聞いてくれたキャスティは、ヒカリの差し伸べた手を取るのではなく、口元へ寄せ、驚いてみせた。それからビシ、と人差し指を立てる。
「ちょっと考えが甘いわね」
「な、そうか?」
「そうよ。だってあなた、婚姻は『あなたと結婚します』だけじゃないでしょう? ……あなたの暮らしのことも掛かってくる」
慰めるようにヒカリの肩をポンと叩くと、キャスティはいつものほほ笑みを浮かべた。
「あなたの提案はとても魅力的だけど、それだけじゃ受けられないわ。ごめんなさい」
「そ……そうか」
「……じゃあ、少し、出かけてくるわね」
「ああ」
片手を触り合って別れる。キャスティはこの夜まで城に泊まることになっているので、また帰ってくる。戻ってくる。
分かってはいるのだが。
「ヒカリ様ー! そろそろお休みになられては?」
剣の稽古をすると言って正門前の修練場に向かい、鍛錬をしていた。兵士に声を掛けられてようやく自分が何時間も剣を振り続けていたことに気づき、水をもらう。水分補給を怠ってはならないと、キャスティからも厳しく言われていた。
城下町の安全を確かめながら城へ戻り、ベンケイ、ライ・メイ達から各地の報告を受ける。
そうして気付けば、再び稽古用の木刀を掴んでいた。
「酷い汗ですな」
いつからそこにいたのか、ベンケイが手ぬぐいを差し出す。
「何か考え事でも?」
汗を拭いながら、彼の問いをぼんやりと聞いていた。
元はといえば彼の提案から始まった話だ。ヒカリも思わず愚痴の一つでも言いたくなる。
「……キャスティに」
「はい」
「妻にと話をしたら、断られた」
「なんと!」
ベンケイはライ・メイの雷槍を受けたかのように驚きよろめくと、ヒカリに詰め寄る。
「そ、それは……なんとお伝えになられたのです?」
身体を休ませるついでに今朝のことを語ると、ベンケイはつるりとした頭を撫でて唸った。彼ですらそんな反応をするのなら、当人のキャスティも余程困るものだったのだろう。
「それほど変な話だったか……」
「……いやはや、流石はヒカリ様のお仲間。手強いですな」
「ベンケイ?」
「このベンケイ、助太刀しましょう」
そうしてまずは場所を移しましょうと城の中へ促された。着替えを済ませ、座らされたのは玉座だ。
「非礼を承知で申し上げますが、陛下──ヒカリ様には残念ながら恋に疎く存じます。妻を娶るとはどういうことか、今一度、よくお考えください」
「……そなたが言い出したことだぞ」
「左様。そうでもしなくては、いえ、そうまでしても鈍いことが今明らかではありませんか」
む、と口を閉じたヒカリは先の問いについて考える。が、ベンケイの言わんとすることはさっぱり分からない。
「……なにを考えるんだ?」
「夫婦という言葉がございますように、」
最早ベンケイは何も言わず、説明を始めた。王が妻を娶るということはすなわち、王妃を据えるということになる。これまでク国は男性が主権を握ってきたので、実質的な権力が王妃に発生する訳では無いが、緊急時や王不在の際に王と同様の対応を求められる。
さらに、王に妻が求められる最大の理由は、世継ぎを産むためだ。
共に育み、ク国の未来を子に委ねる──ヒカリがどう思おうと、戦に苦しんできた民にいきなり全て一人で立てと言うのは現実的ではない。その時が来るまで庇護者が必要だ。
話を一通り聞き入れたところでヒカリは腕を組んだ。ク国の歴史は、ヒカリも継いだク家の血が築いてきたものでもある。闇の力が血によって継がれるものなら、事情を知る者の方が良さそうだ。
「ク家に嫁ぐとなると、それだけの制約と責任が課されるわけです。それを乗り越えるには信頼だけでは足りませぬ。互いを思い合う心があってこそ……!」
熱く語るベンケイの姿をよそに、ヒカリは思う。
彼女だから、考えたのだ。彼女とならどのような困難があっても乗り越えられるだろうし、何があっても任せられる。
人を助ける為に世界を歩き回りたいというなら、そうすれば良い。自分はこれまで通りク国で彼女の帰りを待つだけ──そう、彼女の帰る場所がここであればいいと思ったから、声をかけた。
「時に、ヒカリ様」
「なんだ」
「物事には順序というものがあります。いきなり妻になってくれというより、どうして妻に願うのか思いを伝えられては?」
「……なるほど。一理ある」
キャスティも『それだけでは受けられない』と言っただけだ。話を聞けば、考えを変えてくれるかもしれない。
「それと、これは忠告ですが」
早速彼女に伝えようと立ち上がったヒカリに、ベンケイはニヤリと口角を上げた。
「焦りは禁物、相手の気持ちを考えねば、逃げられますぞ」
「そうか。気を付けよう」
呼び寄せられ、嫁探しは急ぐ話ではなかったと聞かされ、その上で妻にと請われた彼女のことを思う。確かに、ヒカリの行動は急なものだった。
「ヒカリ。キャスティ殿が帰ったぞ」
「ああ、今行く」
ライ・メイに呼ばれ、部屋を出る。
まずは彼女と話をしよう。鼓動が早くなる中、ゆっくりと歩き、ヒカリは食事の間へ移動した。
食事の時間はこの日の出来事などを語り合い、湯浴みをするため一度別れた。
それから少しした後、ヒカリは酒と盃を二人分用意し、キャスティの部屋の前まで来ていた。
「外で酒を飲まないか。月も綺麗に見える」
「素敵ね。いいわよ」
今朝のことなど気にも留めていないように、キャスティはしとやかに応じた。寝間着はク国仕様の白地の浴衣で、こちらもよく似合っていた。
縁側に出て、互いに注ぎ合う。乾杯を唱えて、くい、と揃って酒を呷った。
「……美味しい!」
「にごり酒だ。口当たりが柔らかく、飲みやすいだろうと思ってな」
「ええ、本当に。これなら何杯でも飲めちゃうわ」
すぐに盃を空にしたので、ヒカリも小さく笑って追加を注ぐ。
「良い夜」
じっくりと酒を味わっていたキャスティが、しみじみとそう呟いた。
「ねえ、ヒカリくん。私、思うのだけど……そんなに焦ってお嫁さんを探さなくてもいいんじゃないかしら」
「なぜだ?」
「だって、あなたは若くて、これから多くのことを経験するでしょうし、色んな人に巡り会うと思うから」
月を見ていた目が伏せられる。
その横顔は美しかった。
「きっと、素敵な人と出会えるはずよ」
「……もう出会っている可能性もある」
「そうね」
「キャスティ」
「なあに?」
呼び掛けると、素直に彼女はこちらを見た。一仕事終えた後の酒が格別だと言う彼女は、すでにほんのりと頬を染めていて可愛らしい。
「今朝の話は、焦って口走った訳ではない」
「──え?」
「そなたとこうして話ができるなら、……そなたにとってここが安らぎの場となるなら、それがいいと思っただけだ。無理を強いるつもりもない」
「……ヒカリくん」
まじまじとキャスティが見つめる。ヒカリは空になった盃に自ら酌をして、酒を一口飲んだ。
「あなた、もう酔っちゃったのね」
「いや、酔ってないぞ」
「酔ってるわよ。このお酒、思ったより度が強いのね? さあ、立って。早く部屋へ戻らないと」
「酔ってないのだが……」
盃を奪われ、背中を押される。世話焼きの彼女にこうして構われるのは初めてのことで、少し楽しい。
それに、酔ったせいにされたところで、ヒカリの思いは変わらないので気にしなかった。
「しっかり寝てね。おやすみなさい」
「キャスティ、待て」
寝台に横になるまで見守り、ヒカリが布団を被ったところで彼女は立ち上がった。その指先に指を絡めるように引き止める。
「明日は、見送らせてくれ。先に行ってくれるな」
「分かったわ」
苦笑するので、大丈夫だろうと思った。おやすみなさい、の言葉に従い、目を瞑る。
襖の閉まる音が響いて、静かに人の気配が遠ざかった。

畳む


Q.一度振られる攻めが好きなんですか?
A.好きです。

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