#テメキャス #テメキャス「キスしないと出られない部屋」 書けないかと思ったけどなんとかまとまりました。2025/3/31修正しました。最終話を読む用事を思い出したから、後で聞くわね」キャスティが席を立った。引き止める隙もなく、早足で去っていく。酒場の扉の鈴が鳴り、テメノスは中途半端に浮かせた手を大人しく引き戻した。「これで何回目だ?」一つ空席を挟んだ隣に座っていたオズバルドが指摘する。耳の痛いそれに、ため息を返した。「数なんて数えていませんよ」「俺の見る限りで、十三回目だ」「……十二回目です」「……数が合わんな」「答え合わせは遠慮します」紅茶を含み、それ以上の問いかけを拒む。カウンターへ置いた紅茶の水面に写る酒場の照明を見つめて、思う。──まさか、ここまで手こずるとは思わなかった。ソローネの見つけた地下道を探索する途中、不可思議な部屋に落ちたことからテメノスとキャスティの関係は『少々』変化していた。これまではソローネも含めて冗談に乗っかる間柄だったというのに、あれからぴたりとキャスティがテメノスに関わってこなくなったのである。無論皆の前ではいつも通りに振る舞い、先程のように言葉を交わすこともあるが、そのまま話し込もうとすると断られる。ヒカリやパルテティオはいつもと変わらないだろうと言っており、オーシュットは変化にこそ気付いているが「ニンゲンも大変だな〜」の一言で片付け気にしていないようだ。残る女性二人はテメノスよりもキャスティに味方をしているようで、アグネアは申し訳なさそうに話しかけてくるが、ソローネはだから言ったのにと肩を竦めるだけで匙を投げている。つまり唯一の既婚者であるオズバルドがテメノスの味方とも呼べる訳だが、彼においては変化を記録しているだけで、アドバイスを求めようものなら市政の本を読めと言われるばかりだ。「──手強いな」密室で二人きりという、通常なら有効活用するべき場面で、密室の謎を解くという方向に頭を傾けてしまったことが良くなかった。いや、あの場面でなぜ口付けで鍵が開くのかという疑問を持たないことなど無理だ。鍵師や絡繰師など機会があれば、話を聞いてみたいものだ──と考えてしまったところでテメノスは肘をつき、組み合わせた両手に額をつけるようにして吐息した。(……やはり、このままがいいのだろうか)謎が何物にも代えがたいものであるから、惹きつけられる。人に向ける興味関心とは別のものであるので、こればかりはどうしょうもない。これまではそれで良かったはずだ。それなのに、どうしてこんなにも彼女に焦がれてしまうのだろう。「……」茶器を見下ろして、思う。──彼女の淹れる紅茶を、久しく飲んでいない。それから最後の夜を経て、二人の関係は再びもとに戻っていた。謎を解き明かす過程で、壮絶な闘いがあり、気まずいなどと言っていられない状況だったことも理由だろう。仲間を慰め、ときに慰められる側に立ちながら、死闘を乗り越え皆で待ち望んだ朝日を見た。──あの時の光景は、目に焼き付いて今も離れない。金色に輝く朝日を浴び、文字通り世界を救った彼女は、これからも多くの病や怪我に悩める者を救い、救う者を育てていくのだろう。その彼女が、どんな理由であれ自分を意識しているというなら?取り組む理由としてはそれで十分だと開き直った。もとより叶うはずもないと考えていたのだから、今更何を恐れよう。旅の目的も終え、世界を救い、共に旅をする理由は失った。カナルブラインに戻ってきた八人は、このままここで別れるのも寂しいから、というアグネアの提案に乗り、再び、あのキャンプ地へ向かうことにした。ここしかない、と思った。テメノスは静かに時を待った。腹を満たしたオーシュットがもう寝る、と言って地面に丸くなったとき、頃合いだと考えた。ヒカリが笛を鳴らし、アグネアが踊り始め、オズバルドが感嘆の息をこぼして二人を見守っている。パルテティオが注いだ酒を手にソローネに呼び掛けたのを見て、テメノスもまたオーシュットに持たされた干し肉を片手にキャスティの傍へ移動した。「食べませんか?」「有り難いけど、お腹はいっぱいなの。誰かに食べてもらいましょう」両手を上げて断る姿が妙に可愛らしい。地面に置かれた木皿の上へ肉を置き、よいしょ、とキャスティの隣に腰掛けた。「……いい夜ね」「ええ、本当に」キャスティがヒカリ達の方へ視線を向ける。その横顔を見守っていたかったが、テメノスは意を決してキャスティの手を取った。「散歩に行きたいので、付き合ってもらえませんか」「え?」断らないでほしいと願いながら、手を離す。キャスティはさして気にした風もなく頷いた。「じゃあ、ついでに水も汲みにいきましょうか」バケツを手に近くにある小さな湧水池を目指す。キャスティが事前に毒性について調べており、この池の水は飲んでも良いということになっていた。彼女は何も言わなかった。静かにテメノスの後をついてくる。「……長いようで、短い旅でしたね」「ええ、本当に」月の光が落ち、池の水面はキラキラと輝いていた。穏やかで、静かな水の音に耳をそばだてるように少しの間沈黙し、ややあって、キャスティに手を差し伸べる。「貸してください。掬いますよ」「ありがとう。お願いするわね」以前ヒカリと当番になったときは重く感じた水だが、旅を経て多少は筋肉がついたのだろうか。一つ程度ならふらつくこともなく、水を掬う。キャスティは直ぐ側に立っていた。水面に反射する彼女の顔色は伺えない。「私に話したいことがあるのでしょう?」顔を合わせると、キャスティはどこか苦笑するように言った。「ええ、まあ」バケツを置き、立ち上がる。「……聞いてくれますか?」「最後だもの。わだかまりを残したくないのは私も同じ。……覚悟はできているわ」「覚悟、ですか」妙な言い回しが引っ掛かり、テメノスは首を傾げた。「ちなみに、どうして覚悟が必要なんです?」「あなたの話を聞いてから答えるわね。どうぞ」そう言われると先に話したくなくなるものだが、キャスティの顔色は真剣そのものであったので、逡巡の末、ようやく時間を得られたのだからと思い直し、小さく息を吸った。「順番を間違えてしまったことを、反省していたんです。……いくら密室から出るためとはいえ、女性に乱暴を働くなど合ってはなりません。すみませんでした」「……私は早く出たかったから、気にしなくていいのよ」「それでも、ですよ。不本意な状況であれ、先に伝えるべきでした。……あなたと二人きりでいることも、口付けることも私にとっては幸運であり、不運などではなかった。私はあなたとだからあの状況を楽しめたのだと」「そう……。それなら、良かった」段々と俯きがちになる彼女の様子を見て、テメノスは言葉に迷った。「キャスティ。もう一度、私に機会をもらえませんか。──あなたの笑顔を一番近くで見られる人になりたいので」返答は、なかった。衣擦れの音がした。キャスティが握り合わせていた両手を顔に押し当てる。「どうしました?」「ごめんなさい、火照っちゃって。……まるで告白されたみたいに聞こえて、照れちゃったの」すぐに冷ますから、とこちらに背中を向け、氷柱を生み出そうとするキャスティに近寄り、両の手首を掴む。「え?」「……今のは告白のつもりだったので、熱を冷まさないでください」「えっ、ええっ?!」手を離し、代わりに後ろから抱き締める。思うより華奢な身体は想像以上に柔らかく、腕が吸い付いて離れない。「て、テメノス……ねえ、離れて……」「返事をくれるのなら考えます」ああ、だの、うう、だとキャスティは母音をブツブツと唱えて片手で額を押さえていたが、大きく深呼吸をした後、テメノスの腕を軽く引っ張った。「顔を見せてくれない? 見たいわ」「……いつもと変わりありませんよ──」腕の力を緩めるのと、頬に手が添えられたのは同時だった。リップ音と共に口端に触れた感触に目を瞠り、困ったように笑うその顔が月光に照らされてよく見えたとき、同じようにその下顎に手を添え、唇を触れ合わせていた。「……本当はね、忘れないといけないと思っていたの」バケツを片手に、もう片手にキャスティを引き連れ、テメノスは森の中を散歩していた。このまま仲間達のところへ戻っても良かったものの、まだお互いに話し足りない部分もあったからだ。「あなたの顔を見るたび思い出しちゃって……あなたは私のことをなんとも思っていないと思っていたから、余計に、気にし過ぎる自分が嫌だったのよね」「考え過ぎてしまったわけですね。……おかげでやきもきさせられましたよ」「悪かったと思ってるわ。でも、あなたは恋愛なんてしないのだと思っていたから」子供のように軽く手をゆすり、キャスティが近寄る。顔を覗き込むように彼女はその清らかな目にテメノスを写した。「謎は、何物にも代え難いごちそうなのでしょう?」「……ええ、否定はしません。なので考え直すことにしたんです」上体を屈め、キャスティの額に唇を寄せる。逃げることなく受け止めてくれた喜びをしっかりと味わい、薬草の香りと共に記憶する。「どちらも私には必要なものかもしれない、とね。……あなたにとって重荷とならないことを願いますよ、キャスティ」「あら、優しいのね」「私はいつでも優しいので」「うふふ。……そうだったわね」腕を組むように身を寄せてくれたことが何よりも喜ばしく、足を止める。少しの間、離れていた分の想いを分かち合うように二人静かに身を寄せ合っていた。畳む favorite やった〜! わーい! 嬉しいです! ありがとうございます! 感謝! 2025.3.25(Tue) 13:36:42 小説 edit
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