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BONNO!
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ヒカ・キャス・テメに対する煩悩かべうち

No.265

#コンビ以上カプ未満
#テメキャス短い話

何回告白しても伝わらないやつの派生。
通常なら好きって言わないんだよなあ……とおもったので、カプタグをつけて逃げます。雰囲気はコンビ寄りです。



好きですから」
「あら、嬉しい」
いつからかそんなやり取りが定番になった。嬉しい、と返すのは、実際に荷物を持ってくれただとか、手を貸してくれただとか、そんな理由からであって、時と場合によっては「からかわないで」と返す時もある。
「また始まったよ」
ソローネが笑う。アグネアは毎度新鮮な反応を示し、オーシュットにおいては「テメノスはほんとMomが好きだな」なんて言って流している。
「軽く受け流して良いものなのか?」と狼狽えていたヒカリですら、今日も元気そうで何よりだと頷いていた。
「テメノスも飽きねえなあ」
パルテティオもアグネアと同様初めは照れていたというのに、最近は苦笑いを隠さない。オズバルドに至っては、何回目だ、とコメントをするばかりだ。
「それはいいから、しっかり朝ごはんは食べてね。みんな」
だからキャスティもこうして受け流すしかないのだ。
だって、テメノスが「好きですよ」なんて直接的なことを言うのは、みんなの前だけと決まっているから。

最後のキャンプ地を決めてから、キャスティはこのことについて頭を悩ませていた。彼のその発言が冗談であれ、何であれ、受け止められないなら断るべきだし、そうでないにしても、確かめた方がいいと考えていた。
旅が終われば、きっともう、こんなふうに言い合うことはなくなる。
雪が降り積もっていけばその重みを段々と感じるものだ。しかしそれが溶けて流れていってしまえば、積もった想いは思い出に変わる。
そのどちらを選ぶのか、成り行きに身を任せるにしても、予感を抱いていたかった。

コニングクリーク近くのブドウ畑にて、キャスティはぼんやりと小屋の傍のベンチに腰掛けていた。
町を臨む丘の上にあり、海沿いであるから風がよく吹いて、水平線の向こうまで見渡せる。この景色が好きだった。
(……一等星)
暮れなずむ空ながら、輝く星を見つける。オズバルドの友人曰く、星はいつだってそこにあるものと、季節ごとに位置を変えるものとがあるらしい。
パルテティオに促されて眺めた望遠鏡の向こう側は、肉眼で見てもやはり美しいなと思う。
「こんなところにいたんですか」
遠目に見えていたから、近付いて来るのを待っていた。ふう、と一息ついたテメノスは首筋の汗を軽く拭い、決まっていたかのように隣りに座る。
「飲む?」
「いただきます」
水筒を渡すと彼は何口かまとめて飲み干し、大きく息を吐いた。
「おじいさんみたいね」
「まだおじさんでありたいものです」
ふふ、と笑って水筒を受け取る。
「なにかあった?」
キャスティがブドウ畑に出かけたことは、ヒカリとオーシュットにしか伝えられていなかった。どちらかまたは二人に聞いてここに来たというなら、なにか理由があったのだろうとおもったわけだが。
テメノスはゆるく首を振り、特に何も、と呟くように応えた。
「ここはやはり、眺めがいいですね」
「そうよね。好きなの」
「私もですよ」
何気なく感想を口にしたつもりだったのに、穏やかに返す、その横顔を見つめていると、もう一度言ったほうが良い気がしてしまった。
「ねえ、聞いてくれる?」
「なんでしょう」
「私も好きなの」
「? ええ、はい……」
景色が、と言いかけたのだろう口が何も言わなくなった。
瞬きを一つ。驚く顔はいつにも増して若く見え、苦笑した。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない」
「……驚きますよ」
「いつも言われる気持ちがわかった?」
「そうですねえ」
彼は壁にもたれるようにして背筋を伸ばし、藍色に染まりつつある空を見つめた。
「嬉しいものですね」
彼の目にも見えるだろうか。太陽の光が残るこの時間でも、その輝きが分かるあの星が。

あとで、教えてあげてもいいかもしれない。

カナルブラインで見た星空に感動したあの時のように、きっと今夜の星空は一層美しく目に映るだろうから。


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