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ヒカ・キャス・テメに対する煩悩かべうち

No.287

#ヒカキャス
#ヒカキャス短い話

アグちゃんとヒカくんでは何も始まらないためソロちゃんが入り、やっと始まるヒカキャス……みたいなやつ。



終わったのか?」
キャスティが患者の家から出ると、壁から背を離したヒカリが声を掛けてきた。
「待っててくれたの? 随分と待たせたでしょう、ごめんなさいね」
「そうでもない。それに、ここからもアグネアの舞台はよく見えた」
「あっ……! そうだったわ。今日だったのに、私ったら……」
酒場の方へ共に向かいながら、キャスティは自らの過ちを悔やむ。
ここカナルブラインでは、港祭りが開かれており、連日踊子や吟遊詩人を舞台に立たせて盛り上がっていた。アグネアもまた無事舞台に上がる権利を勝ち得、まさに今夜美しい歌と踊りを披露することになっていたわけだが……どうやらキャスティは急病の患者の対応に追われ、その時を見逃してしまったらしい。
「そなたも知る通りだ。見事な舞だった」
「そうよね。アグネアちゃんだもの……」
何気なく返答してから、ふと、気付く。
ヒカリとはこんなふうにアグネアの話をすることが多い。それも、キャスティではなくヒカリから話題を振ってくるのがほとんどだ。
(もしかして……私って二人の邪魔をしちゃってるのかしら)
「キャスティ? どうした。もう酒場に着くが……」
「ううん、大丈夫よ」
ヒカリに問われ、咄嗟に首を振り、そのまま皆と合流した。

パルテティオとソローネと酒を酌み交わす。オーシュットやテメノスと料理を分け合いながら談笑し、コーヒーを頼むというオズバルドに続いて紅茶を注文しにテーブルを離れたとき、何気なく仲間達を振り返って、思ってしまった。
オーシュットはテメノスとよく話すので、必然的にヒカリとアグネア、ソローネとパルテティオの四人で会話をする。そうなれば年の近い者同士で距離が近くなるもので──有り体に言えば、ヒカリもアグネアも楽しそうに談笑していた。
今日のようなことはこれまでに何度もあった。
その度にヒカリがアグネアの姿を近くで見られないなんて……そんなこと、あっていいはずがないだろう。
「持てるのか?」
「大丈夫よ」
人数分の紅茶をトレイに載せ、オズバルドと並んでテーブルへ戻る。
頃合いを見て、伝えよう。酒で程よく血の巡りが良くなった頭でキャスティはそんな決意をした。

---

それから時間は数カ月流れ。
モンテワイズの酒場で、ヒカリはキャスティ達の帰りを待っていた。
「どうしたの? ヒカリくん。難しい顔だね」
「ああ。少し……考え事をな」
「王様だもんね。考えること、たくさんあるよね」
働いていた分慣れているのか、アグネアはパルテティオに次いで酒場の客達とよく話す。彼女は酒を飲まないので、ヒカリも酒を頼まず、果実水を頼んだ。
「……キャスティのことを考えていた」
「えっ……! そ、それって……どういう……?」
アグネアはキャスティと同じく、親身になって話を聞いてくれる人間だ。彼女の舞が人を励ますのも、キャスティがよく踊子を担うのも、それ故だと解釈しているヒカリは、アグネアへの信頼から、頭を悩ませていることについてそのまま口にした。
「俺は望んで彼女について行っているのに、無理はするなと言われてしまってな……」
「あ~……キャスティさん、そういうところあるよね」
「この前は『アグネアの舞台を見たいなら、行ってもらって構わない』と言われてな。場所を移動せずとも見られたし、そのときは人助けを優先したわけだが、後になって謝られた」
「そ、そうなんだ……? なんでだろう」
果実水で唇を湿らせながら、二人して首をひねる。アグネアもなぜキャスティがそのような発言をするのか理由が推測しづらいようで、酒場に入ってきたソローネを見るや、片手を上げて呼び寄せた。
「ソローネさんなら分かるかも!」
確かに同じ女性に聞く方が理由がわかるかもしれないと、アグネアに言われるままに同じことを語ったところ、ソローネからはいくつか質問を受けた。
キャスティに行った言葉と、状況とを聞きたいのだろうと答えたわけだが、ソローネは大きなため息をついた後、ヒカリを見つめてこう言った。
「そんなに気になるなら、次はヒカリの思っていることをそのまま言えばいいよ」
キャスティには既に伝えていると言い返したが、何度でも伝えると良いと言われたので、そうかと頷いた。
ともかく自分は迷惑など思っておらず、何の制限も、遠慮もしていないと伝えることが大事なのだろう。ヒカリはソローネのアドバイスをそう受け止め、キャスティ達が戻るのを待った。
──そして、その時が来た。酒場からの帰り道にいつものようにキャスティの隣に並んで、ヒカリは彼女と雑談をしていたわけだが、彼女がおもむろに「アグネアちゃんと話さなくていいの?」と聞いてきたのだ。
「……何度かそなたからそのような提案を受けているが、話すこともないのに何故話しに行くんだ?」
「それを言われると、返答しにくいわね。……まあ、話すことがないなら、いいのかしらね」
どことなく曖昧な言い方だった。
ヒカリはキャスティに言い聞かせるよう、普段よりもゆっくりと、落ち着いた声音で告げる。
「俺はそなたと話をしていたいから隣にいる」
「あら、そうなの? 嬉しいわ、ありがとう」
「……キャスティ」
年の功だろうか。真剣ではあるだろうが、真面目に聞き分けたとは思えない返答だったので、ヒカリはもう少しはっきりと言葉にした。
「俺は俺の意思でそなたの隣を選び、そばにいると決めた。そこにそなたへの気遣いはあれど、遠慮や世辞はない」
「え? ええ……分かったわ」
キャスティは圧されるままに頷き、しかし、ややあって考えるような仕草を見せ、真剣な面持ちで、小声で訪ねてきた。
「……ヒカリくんって、誰かに片想いをしているわけではない……のかしら?」
密やかな声だったから、なのか、それとも別の理由からか。ヒカリは咄嗟に足を止め、キャスティを見た。


ここからヒカくんのターン!という感じで……?
なんかそういう誤解から始まる話を読みたくなりました。
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