#テメキャス#テメキャス「サイコロを振る」いわゆる媚薬ネタです。何も起きません。今日誕生日なので好きなように書いていいだろ!!の気持ちで自分を慰めるために書きました。タイトル「Roll the dice」続きを読む一、あれは確か、ニューデルスタを目指して山を下りた後のことだった。近くにクロックバンクがあるから、そこで一晩足を休ませようという話になった。生憎、到着は夜となったため、宿は二人用の部屋が二つしか空いてなかった。女性一人に男性三人だ。女性一人に部屋を渡したいところだが、体格的にも男性三人で一部屋を使うにはあまりに窮屈だった。「じゃあ、くじを引いて色のついていた人が私と同じ部屋にしましょう」「キャスティ。何を言って……」ヒカリが慌てたように口を挟むが、彼女の表情は変わらない。「雑魚寝をしてきた仲だもの、一晩同じ部屋になったところで心配してないわ」部屋割りなど気にしないオズバルドと、彼女が言うならば致し方なしと頷くヒカリに挟まれ、嫌な予感を覚えつつもテメノスは一言、それでもこれきりとしてくださいね、と釘を刺し、彼女の差し出す小瓶から一本引いた。この行動がそもそも誤りだったかどうかは、聖火のみぞ知る。「じゃあ、テメノス。よろしくね」「……はい」宿に到着する前、彼女が診た患者のことを少しでも思い出していれば、ここでの選択は変えられたのかもしれない。二、テメノスがついていくことにした三人は、各々が目的を持った一時的な旅人集団だった。脱獄犯らしき様相の学者オズバルド、西大陸ヒノエウマ地方独特の装束の剣士ヒカリ、そして空色の制服と思しき装いの薬師キャスティ。テメノスが話しかけたのはキャスティだった。オズバルドは多くを語らず、ヒカリも話しにくさこそないが事情があるようではじめは警戒されていた。それだけでなくこの三人の見た目から話しかけやすいのはキャスティであったので、選択自体は間違ってはいないだろう。自分とは何か。それに答えることはできない状態ではあったが、彼女は、男性二人に付き従うでもなく、するべきことを自覚し、取り組んでいた。人が迷うとき、頼りとするのはその者の近くにあり、最も安心のできるなにかである。彼女はそれをすぐに見出していた。であれば、分かっている『今』と『これから』の話をすればいいだけ。ほか二人はどうであったか知らぬが、元よりテメノスは『傷心旅行』と称しての旅なので話し相手がいるだけで良かった。そして彼女は、適任だった。それだけのはずだった。酒場で食事を終え、オズバルドが先に席を離れ、キャスティも調合したい薬があるからと酒も飲まずに宿へ戻った。テメノスは眠気が忍び寄るぎりぎりまで酒場で過ごすことに決めていたので、ヒカリが酒を飲めるのをいいことに引き止め、色々と話をした。とはいえ、ほとんどが雑談だ。小麦を使った酒があるように、米を使った酒があるだとか、別のテーブルで遊ばれている絵札合わせは何であるとか。ヒカリは初めて東大陸を訪れたというので、物珍しさが合ったのだろう。おかげでテメノスは気楽に話ができた。「付き合ってもらって助かりました」「彼女を気づかってのことだろう?」「ええ、まあ……」「……こちらでも未婚の男女が同室となるのは、避けた方がいいことなのか?」「それは勿論。と言いたいところですが、旅人には適用が難しいでしょう。むしろお互いに知っている仲であることが幸運かと」「なるほどな」旅をしていると、性別は無関係に同じ部屋に通されることもある。そこで事故が起きてしまうことも否定できず、だからこそ旅をする女性は皆自衛の手段を持っている。──手段を持つかどうかに関わらず、旅を始めたばかりのテメノスが旅慣れている彼女に敵うわけがない。なのでキャスティの判断も間違いではなかった。「俺は鍛錬のために早く起きる。もし不都合があれば、こちらに来てくれ」「それはありがたい。では、おやすみなさい」ヒカリと苦笑し合い、奥の部屋へ向かう。一度息をついて、キャスティが寝ていることを期待しながら、そっと鍵を差し込んだ。「ああ、テメノス……。おかえりなさい」声を聞いてすぐ、衝動的に扉を閉じたくなった。「……キャスティ。何があったんです?」それでも熱に浮かされたような顔で、部屋に備え付けのテーブルに片手で額を押さえるようにして座っている彼女を無視できず、部屋の中に入ってしまう。「大丈夫。あと三分だけだから……」卓上には調合のメモと調合に使ったのであろうすり潰された材料がいくつか、それから薬を保存するための小瓶が置かれていた。さらさらと音を立てているのは手のひら大の砂時計である。砂は残り半分といったところ。「もしかしなくても、薬を試していたんですか?」「ええ、そうなの。人がいるなら、万一倒れても見つけてもらえるし、」「そんな薬をひとりで試さないでください」酒を飲んで時間を潰したとはいえ、そのまま深夜を超えるまで居座っていた可能性もある。部屋に戻ったら仲間が倒れていた、なんてことはあってほしくないことだ。もしそうなったとしたら、悔やんでも悔やみきれない。彼女には多少、自分のことを話している。だからだろう、じっとテメノスの顔を見上げていたかと思えば、カチューシャを外しただけのいつもの顔で、ごめんなさい、と素直に謝罪を唱えた。「危ない薬じゃないから、安心して。滋養強壮剤を作っていただけだから」「……であれば、今のあなたの状況は変では?」「そうね。あなたには話さないといけないわね……」心臓に病を抱える若い男性が、つい最近結婚したという。様々な障害と悩みを乗り越えての結婚だ。夫婦で子供も望んでおり、可能ならば早いうちに授かりたいとのことで、心臓に負担をかけないやり方で努めてきたが、なかなか芽が出ない。それで、少しだけ過激な手段に出てはどうか、と夫婦で話し合い、町の薬師に相談したが、材料が足りず、薬の調合を諦めていたという。「それで私に話が来て……そういったことはよくあることなのか、手帳にも記載があったのよ。だから試してみて、明日渡そうと思ったの」「キャスティ」言いながらも上着を脱ぎ、襟元を寛げようとするので制止する。「ああ、ごめんなさい。つい、……熱くて」それはそうだろう。今の説明でどういったものか察したテメノスは、それが健康に良いだけの意味を持つ薬とは思わなかった。「時間ね」テメノスのため息が落ちる前に、砂が落ちきった。キャスティは手早く摺り皿に水を入れ、一気に飲む。粉末であったので香りが立ち、テメノスにもそれがなにか理解できた。健全化で彼女が使う薬だった。「……もう大丈夫。あとは寝て起きて何もないかを確認するだけ」「やれやれ……」エプロンと上着を脱ぎ、椅子にかけると彼女は髪を解いてベッドへ向かう。「心臓に負担がかかりすぎるといけないから、確認したかったのよ。驚かせてごめんなさい」置いていた鞄から櫛を取り出し、髪を整えると彼女はさっさとシーツの中に潜った。テメノスが再び目を覚ましたのは、窓から差し込む光も見えない、まだ夜の時間のことだ。くぐもった声がした気がして、もしかして不審者が侵入したのかと身を起こし、灯りを点ける。幸いにも、隣のベッドで何かが起きているといったことはなかった。だが、明かりの中にぼんやりと白い手が伸びて、「……テメ、ノス」か細い声に呼ばれ、慌てて立ち上がる。「どうしました?」「水……飲み物を、」「分かりました」卓上の水筒をグラスへ移す。汗を浮かべて苦しそうな彼女を抱き起こし、水を飲ませた。「効果が強すぎたのでは」「そう、そうね……。でも、おかしいわね、時間も経ったのに……身体が怠いわ」「……それは単純に体調が悪いのでは」「ああ、……うん。そうかも」もう一度水を飲ませてから、上着をかけてやる。彼女に言われるままに調合の道具と、材料を手渡した。自分で調合するというのだ。町の薬師を連れてきた方がいいのではと何度か声をかけたが、様子見が必要だと彼女に留められた。「あなたには悪いけど……私が落ち着くまでは、ヒカリくんたちの部屋には入らないで。風邪だとしても、移ると大変だわ」「それは構いませんが……」良くはない。良くはないが、こればかりはどうしようもない。(嫌な予感とは、当たるものだ)金輪際、例の薬の調合を引き受けないよう念を押して、テメノスはひとまず状況を伝えるべく隣室の扉をノックした。扉越しに状況を伝え、再び部屋へ戻る。それからキャスティの体調が落ち着くまで、数日町で休むこととなった。意外にもオズバルドがこの手の処置に慣れており、キャスティが眠っている間は彼にも話を伺いながら熱を測り、町の薬師に相談することができた。そうして再び動けるようになったキャスティと共に、ニューデルスタへ向かい、彼女が見知らぬ美しい女性と子犬を拾い、旅の仲間はこれで五人となった。五人目の仲間は盗賊ソローネと名乗った。女性が二人となったことで、同室となる心配をしなくて済む。密かにテメノスは安堵した。さて、皆の目的地が西大陸にあるとのことで、定期船に乗って海を渡ることになった。この船はトト・ハハ島でカナルブライン行きの船と連携するらしい。波に揺られながら、数日の船旅だ。「テメノス。ちょっといい?」彼女に呼び止められたのは、船の上で気紛らわしに海を眺めていたときだった。話し相手だったオズバルドやソローネはヒカリと談笑中で、キャスティが来たことにも気付いていない。「なんです?」「この間のお礼をしようと思って」「もう十分もらいましたが」オズバルド、ヒカリも揃っていたときにお礼だと言って彼女からは一食、豪華な食事を振る舞ってもらっている。「もし気になるというのなら、また食事を作ってください」「あら、嬉しいことを言ってくれるのね。でも、これはそれとは別にあげるわ」「……これは?」手渡されたのは小さな薬小瓶だった。中の粉末にはどこか見覚えがある──「改良したものよ。好きに使うといいわ」「ええと、キャスティ?」どう対応したものかを迷い、まずは彼女の様子を見る。「何を考えているんです?」「え? ソローネから、こういうのは色々と自白に使えて便利って聞いたから」「なるほど、そういうことでしたか……」「半年程度なら使えるわ」例えば、これが『好きな相手と盛り上がるために』と言われたなら突き返せた。審問官としての仕事を支援するためのお礼だ、邪推をして受け取らないのは、それこそ彼女に失礼だと思い、テメノスは渋々それを受け取った。三、あれから数ヶ月が経ち、八人の旅団となった自分達は、各々旅の目的を果たし、別れの時を決めようとしていた。突如訪れた『夜』が続く日々に困惑こそしたが、最終的には皆で夜明けを──朝を迎えることができた。「何を考えているところ?」「……今夜のことですかね」その過程を経て、テメノスはキャスティと新たな関係を築いた。聖職者である以上、そのつもりはまったくなかったのだが、考えが変わるほどには彼女に惹かれ、腕に抱いていたいと強く思うようになってしまったのである。不運なことにキャスティはその類には疎い女性であったが、今となっては可愛らしい頃があったと振り返るだけの余裕がある。要するに、両想いとなり、晴れて恋人となれたのである。「いい部屋だものね」フフ、と微笑みながら隣席する彼女にもまた、八人でいた頃と違ってゆとりがある。それが自分の前でだけ見せてもらえる姿なのだと理解しているので、テメノスは彼女が開いたメニューの一部を手で隠した。「テメノス?」「今夜は酒を控えてください」「……何かするの?」「ええ、まあ」仲間達の目を避け、オーシュットやソローネからも悟られない形で、初夜は済ませた。その後も、肌を重ね合わせることこそしなかったが、人目を避ける形で思いを伝え合うことは何度もしている。ゆえに、テメノスが話題を不透明にしただけで、彼女もすぐに察してくれた。どこか気まずそうに、分かったわ、と答え、話題を変えるように今日の出来事を話し始める。ティンバーレイン王国の王都を救った彼女へ、礼として、高級宿を自由に使える権利が送られた。王国の兵士達からの強い働きかけで叶ったらしく、酒場で再会したエドマンドとグリフはそれは嬉しそうに話していた(テメノスがわざとらしくキャスティを抱き寄せたとき、彼らが示した反応はいま思い返しても笑ってしまう)。「この地域なら水回りも期待できそうですね」「そうなの。綺麗な清水が流れているだけで、治療もしやすくて助かるわ」彼女がいつもの雰囲気に戻ったところで、テメノスが先に頼んでいた食事が届いた。追加で食べたいものを彼女に頼んでもらい、腹を満たす。「さて、キャスティ。こちらを覚えていますか?」「え? これ……」懐から取り出したのは、かつて彼女からもらった例の薬である。調合した当人は覚えてないのか、テメノスに薬を渡した経緯から何から確認してくるので、丁寧に話してやる。「……つまり、これ……それからずっと、持っていたの?」「あなたが言ったんですよ。使用期限は半年程だと」「そ、そうだったかしら」指折り数え、でもやはり不安だからと、彼女はこう言い出す。「使うのなら安全性を確かめてからじゃないと、」「そうですよね。ということで、今夜使ってみませんか?」「……」「……」「…………えっ?」「決まりですね」言い切ることでそれ以上の質問を拒み、テメノスは静かになったキャスティを気づかうように、彼女を待っている間に遊んだ子どもたちの話を語り聞かせた。畳むなおこの続きの展開は後で別記事であげます。 favorite やった〜! わーい! 嬉しいです! ありがとうございます! 感謝! 2024.12.19(Thu) 17:56:19 小説 edit
#テメキャス「サイコロを振る」
いわゆる媚薬ネタです。何も起きません。
今日誕生日なので好きなように書いていいだろ!!の気持ちで自分を慰めるために書きました。
タイトル「Roll the dice」
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なおこの続きの展開は後で別記事であげます。