12日目
性行為に及ぶ冒頭のみ公開
サイラスは後方を振り返り、蝋燭に手を伸ばした。明かりが消えて、気付く。
今夜は月が見えない。
「……そういえば」
暗闇の中で、サイラスが密やかに笑った。
「キミがこれを恋愛感情だと名付けていたら、どうなっていたのだろうね」
「忘れろ」
酔いが冷めてきた今、まともに思い返すのも嫌だった。咄嗟に口元に手をやる。ほとんど無意識に唇を湿らせた。思い出してしまった。キスをしたところで関係は変わらない。そうのたまったのはサイラスの方だった。
「……逆に聞くが、好きだと言われていたら、なんて答えたんだ?」
これ以上会話を続けるのはやめておけと、盗賊の勘が働く。けれど同時に好奇心も強まった。
今この時ならば、その先を知ることができる──そんな気持ちが膨らむ。
「……キミの知る私なら、こんな時なんと言う?」
そしてそれは、向こうもそうなのだろうと直感した。
「『ありがとう。私も好きだが、それは友人や仲間としての好きであって、キミの言う好きとは別物だろう』……合ってるだろ?」
「それでもキミは私に告げるわけだ」
妙な空気だった。アーフェンの言葉を借りるなら、尻が落ち着かない。
だが生憎テリオンは好機を見誤らないたちだった。
彼もそうだろう。互いに同じことを思っていて、そうだと確かめるために無為な会話を続ける。素面の時に求めたそれが、奇妙な興奮と好奇心に後押しされて、別の形になっていく。
人の気配を感じて片足でその場所を蹴った。いた、と雰囲気も何もない悲鳴が上がって、押し倒される。首に、肩に男の腕が当たる。冷えたのか、服の表面はひんやりとしていた。
「いたた、脛が……」
サイラスの声が近い。片手がテリオンの頭に触れ、ぺたぺたと拙い手つきで肩まで降りてくる。脚に重心がかかり、仕方なく彼の脇の下を掴んで体勢を整えた。頬に触れるのを許す代わりに、テリオンも片手を伸ばす。もう片手で腹のあたりを撫でる。女の体と違って、筋肉の張りを感じた。
彼の前髪が頬に当たった。顔は、暗くて見えない。
「……どういうつもりだ」
「率直に言うなら、嬉しい。喜ばしい、と思う」
「なにが」
性愛はないと言ったものの、テリオンはこのまま口付けてやってもいいと考えた。しかしサイラスから、より密着するように抱きしめられ、大人しくされるがままでいてやる。許可もなく接触するのは無礼だとかなんとか、故郷ではそういう意識があると言っていたあの彼が、こんな行動に出るのは珍しい。
触れた胸から鼓動を感じる。速い。それはきっとテリオンも同じだった。
「キミが盗賊であるから出会えた。どうかな、盗賊と学者は両立できると思うのだが」
「……なると言った覚えは一度もないぞ」
「それでも、言わせてくれ。私は貴重な瞬間に立ち合ったのだと思った。──らしくない行動を取るほどには、興奮したんだ」
彼は離れようと腕の力を緩めたが、もう一度、テリオンを抱きしめる。
「本当のところ、キミに納得してもらえてて安心している。恋愛感情や性愛ではないとキミは言ったが、キスはできただろう? 万一先程の話が否定されたら、そういったものだと説明しなくてはならなかった」
「別に、好きである必要はないだろ。娼婦なんてものがあるくらいだ」
「それもそうだ。彼女たちの境遇は決して良いとは思わないが、肉欲さえあれば交わることができてしまえる」
けれど、と前置きをして、ようやっとサイラスは上体を起こした。テリオンの腹の上に乗り上がったまま、両手をそこについて、まともな声で唱える。
「これは、相手を知る行為そのものだ。直接的だからこそ、互いに知りたいと思う感情や心持ちが重要になる。恋愛や性愛と呼ぶことは簡単だが、運良く私たちの間にそう言った誤解や感情はなく、都合の良いことに、今この時、互いにこの先を知りたいと思っている」
無邪気に笑う。その表情は太陽の下で見るいつもの顔と何も違わない。地続きの信頼の上で、今、手を伸ばそうとしているのだとテリオンも理解した。
「そう。今回のことで初めて、キミという人間を知りたいと思った。……テリオン、キミはどうだろう。こういった行為は得意ではないと思うけれど」
「間抜けたことを言うな」
上腕を掴み、引き寄せた。勢い任せに口付けたが、それで十分だった。開いた口に舌を差し入れると胸板を押し返される。が、彼が笑ったことをテリオンは見逃さなかった。腕を引っ張り、上下を入れ替わる。ブラウスを引き上げると簡単に前が開いた。肌の青白さを視認する。同じく彼にも見えたのだろう、肩に両手が触れ、服を脱がされた。無言のまま、互いに肩から腰までの輪郭を辿るように手でなぞり、兆し始めた股間に触れた。テリオンと比べてサイラスの動きは拙かったが、指先で微細な刺激を与えるのは上手く、指を握る。滑らかな素肌は、汗ばんでいた。
「ん、……ッ」
吐息が頬に触れる。
腰布を解いて彼に性器を握らせた。そのまま唇も同時に奪って、呼気を混ぜ合わせる。薄い腹に先端を押し付けるようにして前後に揺らす。手で握ってくれてはいるが、ほとんど動いていない。仕方なくテリオンがその上に自分の手を重ねて握り、教えてやった。
こうやって雄を昂らせるのだ、と。
「は、あ、待って、くれ……息が」
「鼻ですればいいだろ」
「それは分かって──」
経験は浅いのだろうとは思っていたが、合っていたようだ。それとも、主導権を握られ慣れていないだけか。口こそ開けているが、舌の動きは鈍い。
下肢をはだけさせ、先端から先走りを零すその幹に自分の性器を重ねて、まとめて扱く。興奮を当てられ怯えたか、分かりやすく動きが鈍るので好きに暴く。零れ落ちる液体を手に絡め、先端の柔らかい部分を親指の腹で何度も撫でる。残りの指は適当な力加減で握っては絞るように動かし、陰囊、それからその下まで指でなぞる。
舌を差し入れ、歯列をなぞると唾液が伝ってサイラスの唇を濡らした。舌の表面を撫でてやれば手の中に握った男根が膨らんで、硬度が増す。性的なこととは全く縁のなさそうな男だが、こうなってしまえばテリオンと大して変わらない。長い腕がテリオンの背中へ伸び、肩を抱くようにしがみついてくる。皮膚を引っ掻かれた気がする。
善い反応を前にすると、テリオンとて悪い気はしない。
「……っはぁ、出る……ッ」
自分だけ果てるのが嫌で、射精を促す。口の端に噛み付いて、上半身を押し付けた。胸板がぶつかる。乳房があるわけでもなく、最初から感じるわけでもないことは知っていたが、予測しない刺激はいい発火剤になる。
「う、」
唇を離したかと思えば、サイラスは片手で自分の口を塞ぎ、もう片手はテリオンに縋りついたまま吐精した。テリオンも同じく射精して、雄臭さに顔をしかめた。
これだけでも満足はできたが、これで終わりというのも惜しい。中途半端に剝いでいた服を剥ぎ取り、自分も腰布など余分な装備や布を床へ落とす。
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