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#ヒカキャス成人向け
#ヒカキャス「知らない夢の話」
タコの夢に悩まされるヒカくんと夢に出てくるキャスの話。昨日の漫画の「悪夢」部分。
漫画で出すには時間がかかるため小説でなぞりました。そろそろちゃんとしたストーリー性のあるヒカキャス出したいですね……。
セリフと文章を微調整しました。セリフ練度が低すぎる。
⚠️R18
パスはいつもの。
#ヒカキャス「知らない夢の話」
タコの夢に悩まされるヒカくんと夢に出てくるキャスの話。昨日の漫画の「悪夢」部分。
漫画で出すには時間がかかるため小説でなぞりました。そろそろちゃんとしたストーリー性のあるヒカキャス出したいですね……。
セリフと文章を微調整しました。セリフ練度が低すぎる。
⚠️R18
パスはいつもの。
#テメキャス成人向け
#テメキャス「サイコロを振る」
⚠️R18
続きです。パスはいつものです。
大事なシーンを書き漏らしていたり、動作が抜けていたりしたので追記しました。そして終わりを付け足しました。これ以上は続きませんが、気が向いたら書きます(?)
#テメキャス「サイコロを振る」
⚠️R18
続きです。パスはいつものです。
大事なシーンを書き漏らしていたり、動作が抜けていたりしたので追記しました。そして終わりを付け足しました。これ以上は続きませんが、気が向いたら書きます(?)
#テメキャス
#テメキャス「サイコロを振る」
いわゆる媚薬ネタです。何も起きません。
今日誕生日なので好きなように書いていいだろ!!の気持ちで自分を慰めるために書きました。
タイトル「Roll the dice」
畳む
なおこの続きの展開は後で別記事であげます。
#テメキャス「サイコロを振る」
いわゆる媚薬ネタです。何も起きません。
今日誕生日なので好きなように書いていいだろ!!の気持ちで自分を慰めるために書きました。
タイトル「Roll the dice」
一、
あれは確か、ニューデルスタを目指して山を下りた後のことだった。近くにクロックバンクがあるから、そこで一晩足を休ませようという話になった。
生憎、到着は夜となったため、宿は二人用の部屋が二つしか空いてなかった。女性一人に男性三人だ。女性一人に部屋を渡したいところだが、体格的にも男性三人で一部屋を使うにはあまりに窮屈だった。
「じゃあ、くじを引いて色のついていた人が私と同じ部屋にしましょう」
「キャスティ。何を言って……」
ヒカリが慌てたように口を挟むが、彼女の表情は変わらない。
「雑魚寝をしてきた仲だもの、一晩同じ部屋になったところで心配してないわ」
部屋割りなど気にしないオズバルドと、彼女が言うならば致し方なしと頷くヒカリに挟まれ、嫌な予感を覚えつつもテメノスは一言、それでもこれきりとしてくださいね、と釘を刺し、彼女の差し出す小瓶から一本引いた。
この行動がそもそも誤りだったかどうかは、聖火のみぞ知る。
「じゃあ、テメノス。よろしくね」
「……はい」
宿に到着する前、彼女が診た患者のことを少しでも思い出していれば、ここでの選択は変えられたのかもしれない。
二、
テメノスがついていくことにした三人は、各々が目的を持った一時的な旅人集団だった。
脱獄犯らしき様相の学者オズバルド、西大陸ヒノエウマ地方独特の装束の剣士ヒカリ、そして空色の制服と思しき装いの薬師キャスティ。
テメノスが話しかけたのはキャスティだった。
オズバルドは多くを語らず、ヒカリも話しにくさこそないが事情があるようではじめは警戒されていた。それだけでなくこの三人の見た目から話しかけやすいのはキャスティであったので、選択自体は間違ってはいないだろう。
自分とは何か。それに答えることはできない状態ではあったが、彼女は、男性二人に付き従うでもなく、するべきことを自覚し、取り組んでいた。
人が迷うとき、頼りとするのはその者の近くにあり、最も安心のできるなにかである。
彼女はそれをすぐに見出していた。であれば、分かっている『今』と『これから』の話をすればいいだけ。
ほか二人はどうであったか知らぬが、元よりテメノスは『傷心旅行』と称しての旅なので話し相手がいるだけで良かった。そして彼女は、適任だった。
それだけのはずだった。
酒場で食事を終え、オズバルドが先に席を離れ、キャスティも調合したい薬があるからと酒も飲まずに宿へ戻った。テメノスは眠気が忍び寄るぎりぎりまで酒場で過ごすことに決めていたので、ヒカリが酒を飲めるのをいいことに引き止め、色々と話をした。とはいえ、ほとんどが雑談だ。
小麦を使った酒があるように、米を使った酒があるだとか、別のテーブルで遊ばれている絵札合わせは何であるとか。ヒカリは初めて東大陸を訪れたというので、物珍しさが合ったのだろう。おかげでテメノスは気楽に話ができた。
「付き合ってもらって助かりました」
「彼女を気づかってのことだろう?」
「ええ、まあ……」
「……こちらでも未婚の男女が同室となるのは、避けた方がいいことなのか?」
「それは勿論。と言いたいところですが、旅人には適用が難しいでしょう。むしろお互いに知っている仲であることが幸運かと」
「なるほどな」
旅をしていると、性別は無関係に同じ部屋に通されることもある。そこで事故が起きてしまうことも否定できず、だからこそ旅をする女性は皆自衛の手段を持っている。
──手段を持つかどうかに関わらず、旅を始めたばかりのテメノスが旅慣れている彼女に敵うわけがない。なのでキャスティの判断も間違いではなかった。
「俺は鍛錬のために早く起きる。もし不都合があれば、こちらに来てくれ」
「それはありがたい。では、おやすみなさい」
ヒカリと苦笑し合い、奥の部屋へ向かう。
一度息をついて、キャスティが寝ていることを期待しながら、そっと鍵を差し込んだ。
「ああ、テメノス……。おかえりなさい」
声を聞いてすぐ、衝動的に扉を閉じたくなった。
「……キャスティ。何があったんです?」
それでも熱に浮かされたような顔で、部屋に備え付けのテーブルに片手で額を押さえるようにして座っている彼女を無視できず、部屋の中に入ってしまう。
「大丈夫。あと三分だけだから……」
卓上には調合のメモと調合に使ったのであろうすり潰された材料がいくつか、それから薬を保存するための小瓶が置かれていた。
さらさらと音を立てているのは手のひら大の砂時計である。
砂は残り半分といったところ。
「もしかしなくても、薬を試していたんですか?」
「ええ、そうなの。人がいるなら、万一倒れても見つけてもらえるし、」
「そんな薬をひとりで試さないでください」
酒を飲んで時間を潰したとはいえ、そのまま深夜を超えるまで居座っていた可能性もある。部屋に戻ったら仲間が倒れていた、なんてことはあってほしくないことだ。もしそうなったとしたら、悔やんでも悔やみきれない。
彼女には多少、自分のことを話している。だからだろう、じっとテメノスの顔を見上げていたかと思えば、カチューシャを外しただけのいつもの顔で、ごめんなさい、と素直に謝罪を唱えた。
「危ない薬じゃないから、安心して。滋養強壮剤を作っていただけだから」
「……であれば、今のあなたの状況は変では?」
「そうね。あなたには話さないといけないわね……」
心臓に病を抱える若い男性が、つい最近結婚したという。様々な障害と悩みを乗り越えての結婚だ。夫婦で子供も望んでおり、可能ならば早いうちに授かりたいとのことで、心臓に負担をかけないやり方で努めてきたが、なかなか芽が出ない。
それで、少しだけ過激な手段に出てはどうか、と夫婦で話し合い、町の薬師に相談したが、材料が足りず、薬の調合を諦めていたという。
「それで私に話が来て……そういったことはよくあることなのか、手帳にも記載があったのよ。だから試してみて、明日渡そうと思ったの」
「キャスティ」
言いながらも上着を脱ぎ、襟元を寛げようとするので制止する。
「ああ、ごめんなさい。つい、……熱くて」
それはそうだろう。今の説明でどういったものか察したテメノスは、それが健康に良いだけの意味を持つ薬とは思わなかった。
「時間ね」
テメノスのため息が落ちる前に、砂が落ちきった。
キャスティは手早く摺り皿に水を入れ、一気に飲む。粉末であったので香りが立ち、テメノスにもそれがなにか理解できた。健全化で彼女が使う薬だった。
「……もう大丈夫。あとは寝て起きて何もないかを確認するだけ」
「やれやれ……」
エプロンと上着を脱ぎ、椅子にかけると彼女は髪を解いてベッドへ向かう。
「心臓に負担がかかりすぎるといけないから、確認したかったのよ。驚かせてごめんなさい」
置いていた鞄から櫛を取り出し、髪を整えると彼女はさっさとシーツの中に潜った。
テメノスが再び目を覚ましたのは、窓から差し込む光も見えない、まだ夜の時間のことだ。くぐもった声がした気がして、もしかして不審者が侵入したのかと身を起こし、灯りを点ける。
幸いにも、隣のベッドで何かが起きているといったことはなかった。だが、明かりの中にぼんやりと白い手が伸びて、
「……テメ、ノス」
か細い声に呼ばれ、慌てて立ち上がる。
「どうしました?」
「水……飲み物を、」
「分かりました」
卓上の水筒をグラスへ移す。汗を浮かべて苦しそうな彼女を抱き起こし、水を飲ませた。
「効果が強すぎたのでは」
「そう、そうね……。でも、おかしいわね、時間も経ったのに……身体が怠いわ」
「……それは単純に体調が悪いのでは」
「ああ、……うん。そうかも」
もう一度水を飲ませてから、上着をかけてやる。彼女に言われるままに調合の道具と、材料を手渡した。自分で調合するというのだ。
町の薬師を連れてきた方がいいのではと何度か声をかけたが、様子見が必要だと彼女に留められた。
「あなたには悪いけど……私が落ち着くまでは、ヒカリくんたちの部屋には入らないで。風邪だとしても、移ると大変だわ」
「それは構いませんが……」
良くはない。良くはないが、こればかりはどうしようもない。
(嫌な予感とは、当たるものだ)
金輪際、例の薬の調合を引き受けないよう念を押して、テメノスはひとまず状況を伝えるべく隣室の扉をノックした。扉越しに状況を伝え、再び部屋へ戻る。
それからキャスティの体調が落ち着くまで、数日町で休むこととなった。
意外にもオズバルドがこの手の処置に慣れており、キャスティが眠っている間は彼にも話を伺いながら熱を測り、町の薬師に相談することができた。
そうして再び動けるようになったキャスティと共に、ニューデルスタへ向かい、彼女が見知らぬ美しい女性と子犬を拾い、旅の仲間はこれで五人となった。五人目の仲間は盗賊ソローネと名乗った。
女性が二人となったことで、同室となる心配をしなくて済む。密かにテメノスは安堵した。
さて、皆の目的地が西大陸にあるとのことで、定期船に乗って海を渡ることになった。この船はトト・ハハ島でカナルブライン行きの船と連携するらしい。
波に揺られながら、数日の船旅だ。
「テメノス。ちょっといい?」
彼女に呼び止められたのは、船の上で気紛らわしに海を眺めていたときだった。話し相手だったオズバルドやソローネはヒカリと談笑中で、キャスティが来たことにも気付いていない。
「なんです?」
「この間のお礼をしようと思って」
「もう十分もらいましたが」
オズバルド、ヒカリも揃っていたときにお礼だと言って彼女からは一食、豪華な食事を振る舞ってもらっている。
「もし気になるというのなら、また食事を作ってください」
「あら、嬉しいことを言ってくれるのね。でも、これはそれとは別にあげるわ」
「……これは?」
手渡されたのは小さな薬小瓶だった。中の粉末にはどこか見覚えがある──
「改良したものよ。好きに使うといいわ」
「ええと、キャスティ?」
どう対応したものかを迷い、まずは彼女の様子を見る。
「何を考えているんです?」
「え? ソローネから、こういうのは色々と自白に使えて便利って聞いたから」
「なるほど、そういうことでしたか……」
「半年程度なら使えるわ」
例えば、これが『好きな相手と盛り上がるために』と言われたなら突き返せた。審問官としての仕事を支援するためのお礼だ、邪推をして受け取らないのは、それこそ彼女に失礼だと思い、テメノスは渋々それを受け取った。
三、
あれから数ヶ月が経ち、八人の旅団となった自分達は、各々旅の目的を果たし、別れの時を決めようとしていた。
突如訪れた『夜』が続く日々に困惑こそしたが、最終的には皆で夜明けを──朝を迎えることができた。
「何を考えているところ?」
「……今夜のことですかね」
その過程を経て、テメノスはキャスティと新たな関係を築いた。聖職者である以上、そのつもりはまったくなかったのだが、考えが変わるほどには彼女に惹かれ、腕に抱いていたいと強く思うようになってしまったのである。
不運なことにキャスティはその類には疎い女性であったが、今となっては可愛らしい頃があったと振り返るだけの余裕がある。要するに、両想いとなり、晴れて恋人となれたのである。
「いい部屋だものね」
フフ、と微笑みながら隣席する彼女にもまた、八人でいた頃と違ってゆとりがある。それが自分の前でだけ見せてもらえる姿なのだと理解しているので、テメノスは彼女が開いたメニューの一部を手で隠した。
「テメノス?」
「今夜は酒を控えてください」
「……何かするの?」
「ええ、まあ」
仲間達の目を避け、オーシュットやソローネからも悟られない形で、初夜は済ませた。その後も、肌を重ね合わせることこそしなかったが、人目を避ける形で思いを伝え合うことは何度もしている。
ゆえに、テメノスが話題を不透明にしただけで、彼女もすぐに察してくれた。
どこか気まずそうに、分かったわ、と答え、話題を変えるように今日の出来事を話し始める。
ティンバーレイン王国の王都を救った彼女へ、礼として、高級宿を自由に使える権利が送られた。王国の兵士達からの強い働きかけで叶ったらしく、酒場で再会したエドマンドとグリフはそれは嬉しそうに話していた(テメノスがわざとらしくキャスティを抱き寄せたとき、彼らが示した反応はいま思い返しても笑ってしまう)。
「この地域なら水回りも期待できそうですね」
「そうなの。綺麗な清水が流れているだけで、治療もしやすくて助かるわ」
彼女がいつもの雰囲気に戻ったところで、テメノスが先に頼んでいた食事が届いた。追加で食べたいものを彼女に頼んでもらい、腹を満たす。
「さて、キャスティ。こちらを覚えていますか?」
「え? これ……」
懐から取り出したのは、かつて彼女からもらった例の薬である。
調合した当人は覚えてないのか、テメノスに薬を渡した経緯から何から確認してくるので、丁寧に話してやる。
「……つまり、これ……それからずっと、持っていたの?」
「あなたが言ったんですよ。使用期限は半年程だと」
「そ、そうだったかしら」
指折り数え、でもやはり不安だからと、彼女はこう言い出す。
「使うのなら安全性を確かめてからじゃないと、」
「そうですよね。ということで、今夜使ってみませんか?」
「……」
「……」
「…………えっ?」
「決まりですね」
言い切ることでそれ以上の質問を拒み、テメノスは静かになったキャスティを気づかうように、彼女を待っている間に遊んだ子どもたちの話を語り聞かせた。
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なおこの続きの展開は後で別記事であげます。
#ヒカキャス
#ヒカキャス「共に在るために」
思ったより長くなりそうなので置いておきます。両片思いになるまではいけるかな……と思ってます。ヒカ/キャスよりです。
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#ヒカキャス「共に在るために」
思ったより長くなりそうなので置いておきます。両片思いになるまではいけるかな……と思ってます。ヒカ/キャスよりです。
その知らせが届いたとき、ヒカリは朝餉を堪能している真っ最中だった。
見慣れた部屋、ベンケイ、ライメイ。ミッカは一緒の場は緊張しますからと言って同席を辞退し続けており、新しい日常の始まりはこの光景から始まる。
「エイル薬師団なる薬師の噂が届いています。なんでも、リューの宿場町付近で現れたサンドワームを撃退し、負傷者を救ったとか」
「……キャスティだな。彼らの所在は?」
「数日前はサイにて姿が見えたとのこと、もし砂漠を越えてやってくるならば、次の目的地はク国かと」
「そうか」
ヒカリは皿の上を綺麗に平らげると、急ぎ、膝を立てた。
「外に出る」
「は。……というと、出迎えなさるので?」
「いや、周囲を見るだけだ。いつやって来るか分からぬからな」
「承知しました。キャスティ殿は戦後も兵士や民の治療に尽力頂いた御方、盛大に迎えるとしましょう」
「……ほどほどに頼む」
「ええ!」
ベンケイが明るく胸を打つ。ライメイも静かに食事を終えると、城下の様子を見てくると言って席を立った。
ヒカリがク国を統治して、約一年が経過していた。
鎮魂祭の時と比べ、建物の多くは修繕されたが柱から焼け落ちたものは未だ建築の目処が立っていない。パルテティオに頼り、材料を仕入れ、大工を連れてきてはもらったが、ク国特有の建築手法は並の大工でも手こずるようで、通常より時間がかかっていた。
なにより、戦火の傷跡はク国以外にも多く残る。
ヒカリは剣で敵を打ち払い、民を守ることはできるが、癒やすことはできない。だからキャスティのような、戦や国など関係なく傷を癒そうと働きかける薬師の存在には心の底から尊敬の念を抱いており、その志に共感すら覚える。
『……多くを救うには、必要な犠牲だった』
紫の雨が降る中、かつての同胞と対峙し、打ち勝った彼女の寂しげな後ろ姿が今でも目に焼き付いている。
志を違えた友と、ヒカリも剣を交えた。剣を抜けば容赦はできず、せめてその刃を下げてくれたならこちらとて配慮ができた。
だが、そう甘いことを言ってはいられないのが現実だ。
リツの墓の前で黙祷を捧げたヒカリは、髪を風に靡かせ、急坂を降りていった。ここにはク国の正門を守護する陣営が天幕を下ろし、修練場も備わっている。
兵士達と剣の稽古を終え、砂漠へ向かった。
無論、軽装備でそう遠くへ行くつもりはない。
ただ、もしかすると、あの空色が見えるかもしれないという思いはあった。
地響きが轟いた。地震かと疑うような地面の揺れ。大きな魔物が近くに潜むというなら、今ここで打ち落としておくべきだ。
震源地を目指して走れば、見覚えのある色を纏った人間が一人と──緋色の衣装を靡かせる者が、一人。
「今よ!」
さみだれ切りで敵を怯ませ、仲間へ叫ぶ。すかさず毒液が投げ付けられたが、消滅にまでは到らない。
「助太刀する」
駆け出し、剣を抜く。魔物は一体だ、ならばさみだれ切りで十分。
「! 待って、殺しちゃだめ!」
「……!」
袈裟がけに、あるいは真横に剣を払い、切り刻む。三枚に下ろしてやれば、流石に魔物も虫の息だ。
「ああ、良かった。ありがとう、ヒカリくん」
「やはりそなたか。殺すなとは、一体……」
「解毒薬を作らないといけなくて。そのために毒の分析が必要だったの」
魔物──サソリの胴部から内蔵を取り出し、どろどろとした液体を小瓶へ移す。
「これでよし……と。それじゃあ、行きましょうか」
「戻るのか? 少し休んではどうだ。ク国も近い」
ヒカリが訊ねれば、キャスティはその柔和な顔に笑みを浮かべて頷いた。
「もちろん、ク国へ。私達、予備の解毒薬を作るためにここへ来たのよ」
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#テメキャス
#テメキャス「いつもの仕事」
タイトル「stellar work」
英語版のテメがキャスに治療受けるとこの発言をするんですよね。いつものお仕事ですよ、みたいな翻訳になるのかな?←素晴らしいなどの意味もあるから流石です、とかかも。
それと風邪引いたテメと治療に来てくれるキャスの話を紐づけてみました。
思ったより長くなったし予定と違うオチになったけど、まあいいかなと思ってあげてみます。
短編です。
友情出演:オルトさん、フレイムチャーチの薬師さん
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#テメキャス「いつもの仕事」
タイトル「stellar work」
英語版のテメがキャスに治療受けるとこの発言をするんですよね。いつものお仕事ですよ、みたいな翻訳になるのかな?←素晴らしいなどの意味もあるから流石です、とかかも。
それと風邪引いたテメと治療に来てくれるキャスの話を紐づけてみました。
思ったより長くなったし予定と違うオチになったけど、まあいいかなと思ってあげてみます。
短編です。
友情出演:オルトさん、フレイムチャーチの薬師さん
何気なく咳をしたことが、全ての始まりだった。
子供達に揶揄われ、シスター達からは気づかわれ、そういえば旅中では優秀な薬師がいたからあまり風邪を引かなかったのだと思い出し、大人しく町の薬師を頼って薬をもらった。
数日経過。喉の痛みが出てきた。これはただの風邪ではなさそうだと旅路で得た知識を元に薬師に相談したが、その材料での調合には明るくないという。
これではまずいなと回復魔法で一旦の緩和を試み、そういうわけで治しに来てくれないかと、かつて共に旅をした薬師に手紙を書くことにした。
(……『まずは調合について教えてください』と書き直すか)
彼女はテメノスと違い、決まった場所に居座らず、旅を続ける者だ。東大陸にいるかもしれないし、西大陸の端にいる可能性もある。フレイムチャーチにわざわざ来てもらうより、調合方法を返事に書いてもらうほうが効率が良い。
(しかしまあ、『こうでもしないと顔を見ることもないでしょうから、』と付け足して)
来てくれてもいいし、来なくてもいい。その自由は彼女にあるべきで、こちらが願うことではない。
「テメノスさん、お加減はどうです?」
「ああ……ありがとうございます。あまり良いとは言えませんが、昨日よりはましですね」
「そうですか……。すみません、私も近くの町まで出かけたのですが、旅の薬師にもなかなか会えず」
「いいんですよ。それより、この手紙を早急に飛ばしてもらえますか? 特徴を伝えておきますので」
「いいですよ。……もしかして恋人へのお手紙です?」
「はは、まさか」
空咳を何度か繰り返しながらやり取りを済ませ、扉を締める。喉が痛むし咳はひどい。何度吐きそうになったことやら、数えるのも億劫になっていた。
頭痛、耳鳴り。熱は出ていないが、この様子ではいつ熱が上がってしまうかもわからない。
大人しくベッドに横たわる。
翌日、オルトが顔を見せに来た。
移ってはいけないからと忠告していたのに、彼は飲み物に食料と、新たな情報を持ってやってきた。
「ニューデルスタ停泊所で、エイル薬師団の姿が目撃された。近く、こちらにやってくるはずだ」
「……そうですか」
「死にそうな顔をしないでくれ。俺は風邪を拗らせたことがないから、気持ちは分かってやれないが……あんたの元気がないのは、落ち着かない」
「やれやれ……随分と角が取れてしまいましたね」
初めの頃の堅苦しさを思い出して笑うと、彼もまた小さく笑った。
「早く元気になれよ、テメノス」
そうして彼が扉を閉ざしたところまでは、記憶がある。
──複数人の足音、息遣い。飛び交う声。
熱の上がった頭部を誰かが支え、口に何かを押し付け、無理矢理に流し込んでくる。
「もう一口飲むのよ。大丈夫、必ず治すから」
どこか聞き覚えのある声だったが、意識が朦朧としていて判別はつかない。言われるままに苦いそれを飲み干し、再びベッドに寝かされた。
冷たい指先だった。額に、頬に指先が触れて心地良く、熱が冷えていく。
水の音に目を覚ました。額に濡れ布巾が載せられたことで、あの音は布巾を絞る音だったのだと理解する。目を開けると、視界が眩しい。室内だというのに、一体どうしてこうも明るく感じるのか──
「目が覚めたのね」
傍らに座っていたのは、かつて共に旅をした優秀な薬師、キャスティだった。
「まさか久しぶりの再会がこんなふうになるなんて。随分と無理をしたんじゃない? だめよ、いくら仕事が楽しくても、ちゃんと身体を労ってあげなきゃ……テメノス?」
いや、まさか。手紙の返事は来ていない。オルトからなにか話を聞いたような気もするが、思い出せない。
膝の上に置かれていた彼女の手首を取り、見つめる。
本物のように見えるし、一方で、自分の作り出した幻覚のようにも思えた。
「大丈夫? ぼんやりとしているみたい……意識はあるようだけど、テメノス、返事をして」
肩を強い力で叩かれた。それが意識の確認法だと気付かず、痛みに顔をしかめ、反射的に彼女の手を引いてしまう。
「きゃ、」
自分の上に倒れ込んできた身体は、思うよりも軽かった。当然だ。彼女がどれほど強く在っても、性差は越えられない。
「ごめんなさい。上に乗っちゃって……」
薬草と、花の香りがした。それでもまだ信じられなかった。夢だろうと思い、夢ならばいいかと開き直って、一度だけ唇に触れて、抱き締めた。
実を言えば、明かすつもりのない好意を抱えていた。
それが好意だと気付いたのは旅を終えてからになる。離れてから分かることもあるものだと理解し、現状をただ受け入れようとしていたつもりだったが、ここまではっきりとした幻覚を見ては堪らえようもなかった。
せめて一言、それらしいことでも伝えればよかったと。
せめて、別れの抱擁だと言って抱きしめておけばよかったと。
細やかながらも欲深い感情が今更意識され、それが行動に出た。
彼女は黙って見下ろしていたが、テメノスが何かを言わんとしたところで黙って安眠草の薬を口に押し当てた。
よって、テメノスの意識はそこで再び途切れ、──それが夢ではなかったらしいという実感とともに、つい先程、飛び起きた。
見慣れた自分の家だが、自分以外の人間の姿がある。鞄が、荷物が、そこらに置かれてある。
コポコポと卓上から音がしている。炎の精霊石を使った簡易コンロ、その上に置かれた円筒から湯気が立っていた。湿度を保つための装置なのか、沸騰して危うくなる気配はない。ベッドの足元側にキャスティは埋まるように眠っていた。若干の距離を感じるのは、まあ、当然の対応ではあるのだが、いくらなんでもそんな場所で眠るのは彼女の健康を害す。
ベッドサイドにたたみ直されていた自分のローブを取り、上からかけてやる。
靴音を忍ばせ、机のそばへ移動した。
粉末がいくつか、メモも複数ある。これが今回の自分に必要な薬だったのだろう。
「……起こしてくれてもいいのに」
「すみません。起こすつもりはなかったのですが」
「いいのよ、気にしないで。経過を見たいから、座ってほしいわ」
眠たそうに目をこすりながらも、はきはきとキャスティは指示をする。メモなどをひとまず机上へ戻し、ベッドへ腰掛ける。
両頬を包み込むようにして顔を向き合わされ、緊張した。
「熱はないわね。瞳孔の開きもなし、……呼吸も安定しているし、脈も……少し早いかしら? まあ、許容範囲ではあるわね。どこか、身体に違和感はある?」
動かしてみて、と言われるままに両手足を動かし、問題ないと告げる。それでようやく肩の荷が下りたように彼女は大きく息をついた。
「良かった……。間に合って」
「ありがとうございます、キャスティ。あなたが治してくれたんですね」
「ええ。あなたの手紙を受け取って……なんだか様子がおかしかったから、立ち寄ったのよ。町の薬師から詳しいことは聞いてはいたけど……そうだわ!」
はっと何かに気づいたように立ち上がると、キャスティはいそいそと鞄を身につけ扉に手をかけた。
「私、あなたが治ったことを報せてくるわね。ひどく心配していたみたいだし、あなたも恋人がそばにいた方が嬉しいでしょう?」
「……少し待ってください、キャスティ」
理由の分からぬことを言い置いて出ていこうとするので、急ぎ、内側に開きかけた扉を押さえた。体重をかけてやれば、流石の彼女も扉を開けきらない。
「町の薬師に報告するというのは、まあ、旅をしていたときにも見てきましたから納得はできますが……その後なんといいました?」
「え、恋人なのでしょう? 町の薬師と」
「違います」
「ええっ?!」
「どうしてそこでそれほど驚くんです……」
「だって、それじゃあどうして……」
驚かせたことで、キャスティが扉から手を離してくれた。予想外の反応だったが、これでひとまず引き止めには成功した。テメノスは頭痛もなくなったスッキリとした頭を片手で押さえつつ、深呼吸をする。
「同意なく迫ったことは謝ります。すみませんでした。あのときは意識が朦朧としていました。……ですが、あれは町の薬師と恋仲であるから取ったわけではなく、あなたがいることを夢だと思って……恥ずかしい話、夢ならばいいかと動いてしまった結果です」
「……ええと、」
まだ話の主旨が掴めぬのだろう。仕方のないことだ。彼女にはそういった素振りはこれまで一度も見せてこなかったのだから──
「つまり、熱で幻覚を見ていたということ?」
「どうしてそうなるんです?」
「違うの? でも、あるのよ。熱で頭が錯乱して、治療者を襲ってしまうことが……私も過去に何度かあったし」
思わず、彼女の右手を掴んでいた。扉と自分で彼女を挟み込んで、掴んだ右手を押さえつければ、逃げ出すことはできなくなる。
「違います。他と一緒にしないでください。私は……、」
このまま彼女の髪を撫で、あるいは頬を撫で、そのまま好意を告げることもできたが、テメノスはそこで大きなため息をついた。
好意を押し付けたいわけではない。ただ、誤解してほしくないだけなのだ。
「……あなただから、手が出てしまった、と。まあ、これも結局は身勝手な話ですね、すみません」
名残惜しいが、手を離す。
「え、ええ……」
「もう一度、ここへ来た経緯を聞かせてもらえますか?」
先程まで彼女が座っていた椅子を引きずり、自分はベッドに腰掛け、座るよう促した。
キャスティから聞いた話によれば、テメノスはもう七日ほど熱に浮かされ寝込んでいたらしい。
日に日に顔色の悪くなっていくテメノスを、町の薬師をはじめ町の者も皆心配しており、その矢先にキャスティが到着した。状態と経過、症状を見て最近東大陸で流行り始めた感染病だと察した彼女は、直ぐにテメノスと接触した人々へ予防薬を調合、同時にテメノスに現れた症状緩和の調合と、特効薬のためにオルトと共に採取に出かけ、そうしてやっと経過が落ち着いてきたのが一昨日だという。
「副作用に幻覚や混乱が生じるから、普段は使わないのだけど、今回は急がないといけなくて少量だけ調合したの。……その、ごめんなさい。幻覚だと疑って」
「いえ……」
「でも、本当に驚いたのよ。あなた、何も言わないから……」
「言ってませんでした? あなたの名前を呼んだつもりでしたが」
「言ってないわ」
「……はい」
薬が効いて早くに目覚めたは良かったが、それによって手が出たというのは、なかなかにいたたまれない。
なにより、キャスティの様子が最初から最後までいつも通りであることが、テメノスの恋心をひどく傷付けた。もう少し照れるとか、焦るとか、何らかの変化があれば慰められたものだが、事実としては許可もなく口づけた乱暴者であるので、仕方ないといえば仕方ない。
「……エイル薬師団といえば、あなた以外にもメンバーがいるのでは? 彼等に変わっても良かったでしょうに」
「急いできたのよ。それに、仲間は船で西へ旅立った後で」
「そうですか。すみません、わざわざ来ていただいて」
「いいのよ。あなたの病を治せて、本当に良かった」
それからは空気も解れ、近況報告が続いた。
旅をしていた頃には戻れないが、こうして旅の後の彼らの様子を語り合えるのは良いことだと思う。
そのまま話し込んでいると、話し声を聞きつけたのか近所の者が様子見に訪れ、あっという間にテメノスは町の皆からも快方を喜ばれる結果となった。
キャスティはその間に宿で休むと言って家を出ていってしまったので、健康になったテメノスが落ち着いてキャスティと顔を合わせたのは翌日の昼になる。
「広い庭園ね」
「薬草園もありますよ」
「後で見に行くわね」
大聖堂の直ぐ側には開けた土地があり、そこをいくつかの区画に分けて植物を栽培したり庭園としたりして景観を作っている。
そのうちの一つには外でティータイムができるようガーデンチェアとテーブルが用意されており、今日はそこでちょっとした茶会を開くことにした。
青と白のテーブルクロスを敷き、上にスコーンやビスケットの入った籠と、ジャムやチーズ、紅茶の入った瓶の籠とが置かれた。
口に合ったようで、キャスティは嬉しそうにこれらを食べた。テメノスもそれなりに食欲が戻っていたので、スコーンにジャムを付けてゆっくりと味わう。
「それで、この間のことですが」
テメノスを見つめるキャスティの目はいつも通りで、だからこそはっきりと口にすると決めた。
「私はあなたのことが好きなんですよ、キャスティ」
「……」
「今回はお陰で命が助かりましたが、次回からは、それを理解したうえで来てください。あのようなことは二度としないと誓いますが、また混乱しないとも限りませんし……」
「別に、私は嫌だなんて言ったつもりはないわよ」
「はい?」
「そりゃあ初めてのことで驚いたけれど、錯乱してたみたいだし、仕方ないかしら……と思って」
「……そうですか」
そう言ってビスケット咀嚼し、紅茶で喉を潤す姿は平然としていて、隙がない。
やはり病み上がりで判断力が鈍っているのか。一度ならず二度までも失態を繰り返した自分を反省しつつ、テメノスは諦めて紅茶を飲んだ。
「こういうのって、返事をした方がいいものなのかしら」
「……掘り返さなくて構いませんよ。忘れてください」
「あら、拗ねないで。少し時間が欲しいだけよ」
瓶から新たに紅茶を注ぎ入れつつ、何の、と短く問う。断るための時間など不要なように思うが。
「あなたと過ごす時間を考えないといけなくなるでしょう? テメノス」
「……キャスティ、それは」
「だから、返事は考えがまとまるまでお預けにするわ」
笑顔で無慈悲に告げ、キャスティはスコーンを手に取る。
穏やかな昼下がり、平和な日常風景。
見慣れた景色の中で、彼女が楽しげにティータイムを楽しむ姿を見て、テメノスはやれやれと肩を竦めるほかなかった。
「ちなみに、返事は後で構いませんが、手を出すのは早めてもいいということです?」
「あんなことは二度としないって言ったものね。信用しているわ」
「……大人しく返事を待つとします」
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追記。
思ったよりまとまってたので公開し続けます。微調整しました。
#テメキャス
#テメキャス「貴方に溺れる」
正式タイトル「Dive Into You」の冒頭。
自分で校正をかける用に置かせてください。
友情出演:
オシュ
注釈:
ジョブ関連や戦闘・力関係の話などは基本的に実プレイベースで話をさせてもらってます。
都合良い感じに英語版の呼び名や詠唱を織り交ぜています。
余談:
キャスから見たテメがかっこいいとかより美しい人だと私が嬉しいのでそういう描写があります。
大事なこと:色々間違ってても実際には修正されるので見逃してください。
------
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#テメキャス「貴方に溺れる」
正式タイトル「Dive Into You」の冒頭。
自分で校正をかける用に置かせてください。
友情出演:
オシュ
注釈:
ジョブ関連や戦闘・力関係の話などは基本的に実プレイベースで話をさせてもらってます。
都合良い感じに英語版の呼び名や詠唱を織り交ぜています。
余談:
キャスから見たテメがかっこいいとかより美しい人だと私が嬉しいのでそういう描写があります。
大事なこと:色々間違ってても実際には修正されるので見逃してください。
------
覚悟しておいてください」
夕陽の沈んでいく海を背に、彼は運命を告げるように静かな声を発した。
意図するところは分からなくとも、陽の光が銀髪や白のローブの端を輝かせ、まるで淡い光が包むように彼を象った、その美しい瞬間だけははっきりと、キャスティの脳裏に刻まれたことだろう。
「……なんの?」
かろうじて問い返した声は掠れていた。フ、と指先で隠した口元から小さな笑い声を零してテメノスは答える。
「肩肘を張るようなことは致しませんよ──恋人なのですから。ね?」
「まあ、そうよね」
彼は気付いているだろうか。
いま、ほんの少しだけ困ったように笑ったことを。
それが、親しい人を亡くして旅に出た、始まりの頃の様子と似ていたことを、気付いているだろうか。
(きっと……自覚がないのよね)
彼にそんな顔をさせたのはおそらく自分なのだが、生憎とキャスティには思い当たることがない。彼の言う通り、これからじっくり互いの話をしていけば、多少は気付けるだろうか。
頬に触れる指先は温かく、眼差しに揺らぎはない。瞳孔の大きさに変化がないことを確認していると、唇を塞がれた。キスされたのだ。
「な、なに? 急に」
「考えごとをしていたようなので。さあ、行きましょう」
いくら新しい関係を受け入れたからと言って、触れ合いにすぐ慣れるわけではない。
一歩後退ったキャスティの手を取ると、テメノスは平然と歩き出した。
「行くって……どこに」
「着替えましょう。まずは」
「え?」
「お互い、仕事着では気も休まらないでしょうから」
提案されるがままに商人の衣装に着替える。
そうして降りましょうかと促されるまま、トト・ハハ島へ上陸した。
一、
男女が付き合うとなると、将来的な話が絡むのが常識だ。
結婚はするのか。子供は、住む家は、等々。
ソリスティアでは性別の違いが収入や職業を制限するようなことは少ないが、テメノスはフレイムチャーチに自宅を持ち、キャスティはいわゆる流れ者であるため、定住となると、どうしても彼の家に上がり込むことになるだろう。
だが、キャスティは一つ所に留まるつもりがないため、定住するという選択肢はできるだけ選びたくない。
それこそ、子供が生まれ、育てるとなった場合に考えればいいわけで、つまるところ問題は、テメノスが本当に婚姻関係を結ぶつもりがあるのか、ということと、子供を考えているか、ということの二つになる。
(年齢で言えば、そういう年頃ではあるけど)
見てきた限りでは、結婚し、子供を生み育てる年齢も地域によって様々だ。キャスティは記憶によれば今年二十九なので、身体的には適齢期ではある。
(なんて、考えすぎかしら)
生まれてこの方、誰かと付き合ったことなどない。
口説かれた経験こそあれど、キャスティは己のしたいことが明白であったので、あまりそういった気持ちを抱くことなくここまできてしまった。だから、むしろテメノスに対してそういう気持ちを抱いている今の方が珍しく、どう考えればよいのか分からない。
「ねー、聞いてる? Mom?」
「ごめんなさい、ぼうっとしてたわ。なにかしら、オーシュット」
「いーよ。それでさ、これをすり潰すんだっけ?」
「そうね。ドクダミの実はすり潰して乾燥させると、色んな怪我や病気に使えるわ」
トト・ハハ島西側──ケノモ村にて、キャスティはオーシュットと村の子供達と置き薬の調合を行っていた。
東にあるリゾート地トロップホップでの滞在を予定していたが、コテージの予約が二日後からしか取れないとのことで、それまでケノモ村に世話になることにしたのだ。
緋月の夜を経て、同じ島民として人間たちが獣人に歩み寄りを見せており、キャスティ達以外にも数人、獣人達と交流する姿が見られる。
オーシュットと再会したのは到着して翌日のことだ。
「うわっほーーーい! みんなー、ただいまー!」
海の魔物の背に乗り、大波を引き連れ彼女はマヒナと共に戻ってきた。ジュバをはじめ獣人達はそんなオーシュットを笑顔で迎え、キャスティも一緒におかえり、と告げる。
「あれれ? なんでキャスティがここにいるの?」
「テメノスと東大陸へ向かう途中なの。ここで休んでから行こうという話になって」
「へえー。まあ、なんでもいいや。会えて嬉しい!」
「私もよ……会えて嬉しい」
再会の抱擁をして、思う。一度は別れなくてはならなかったが、こうしてまたそれぞれ会いに行けばいいのだと──それが難しくとも、努めることはできる。
ウッドランドの森で闇を打ち払ってくれた小さな身体を抱きしめ、キャスティは頬をほころばせた。
オーシュットと再会してからは、狩人の衣装に着替え、彼等と一緒に行動した。
なお、テメノスはというと、キャスティの滞在先を決めると、調べたいことがあるからと言ってナ・ナシの里へと向かってしまったので、彼はまだオーシュットと再会していない。
「キャスティー! 狩りに行こうよ」
「いいわよ。薬草採取もしたいところだし」
オーシュット達の背を追いかけるように浜辺を歩く。
彼女達との再会はただの偶然なので仕方ないものの、テメノスもここにいれば良いのに、と思った。オーシュットを前にした彼は、どこか肩の力が抜けていて気安さがにじみ出ていたから。それはオーシュットがいつだって裏表なく接し、テメノスを信頼していたからだと見ている 。
彼女は人の感情や機微に聡い。それは人間が何かを理解するという行動と似て非なるものではあったが、オーシュットがよく利く鼻で察知したものはテメノスも警戒している相手であることが多く、ソローネと並んでいい助手だと眺めていた──またあの三人の後ろ姿を見たいものだ。
薬草を採取し、オーシュットに言われるまま浜辺で待機する。最近小さな魚を食べ過ぎな海の魔物を狩るということで、オーシュットが追い込み、キャスティと挟み撃ちする予定だ。
日は既に傾きはじめ、海面がきらきらと光って眩しい。
一点の影のようなものを薄目で追いかける。
ズアッと突然海が山のように起こり、大きな魔物が現れた。ウミボウズ、というのだったか。それだけで荒波が立つ。跳躍でなんとか波をやり過ごし、オーシュットとタイミングを合わせて目を狙った。
捕獲していた魔物達も総出で怯ませる。ヒカリやアグネアがここにいてくれたら、多少は手数が増やせたのに。そう考えてしまって、苦笑を隠せなかった。矢を放つ。
「オーシュット!」
「うがあ!」
一際大きな咆哮が響く。分かっていても、びりびりと肌を震わすその気迫に怯えてしまう。
「──手を貸しましょう」
「テメノス!」
淡い緑の光が辺りを包み込む。オーシュットの嬉しそうな声が浜辺に響いた。
それから三人と獣人の加勢を受け、狩りを終える。
「キャスティ、オーシュット、お疲れ様です」
「久しぶり!」
再会の抱擁を済ませるとオーシュットは解体作業に取り掛かる。
もう一人の獣人も手伝うと言ってテメノスの側を離れ、解体を手伝うには頼りない二人が残された。
「これを」
おもむろにテメノスが咳払いをして、着ていた学者のコートをキャスティに羽織らせる。
「そのままだと風邪を引きますよ」
なるべく浜辺に居たつもりだが、海水を吸って衣服は随分と湿っていた。気候は温暖であるから気にしていなかったが、水気があるとあっという間に体温は冷えやすい。
「そうね、村へ戻って着替えるわ。オーシュット、他に手は必要?」
「頼んだー!」
穫った魔物は皮と牙、肉と内臓に分けられた。
戦闘の影響で浜辺に打ち上げられた魚も獲り、食べきれないということで人間達の里にも食糧を分けに向かう。
一息ついた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
アグネアが披露したことで踊りが定着したらしく、焚き火を囲んで数人が踊り始める。
「はー食った食った。お腹いっぱーい」
「よく食べたわねえ」
膨らんだ腹をぽんぽんと叩くオーシュットを見て、フフと笑う。果実を絞ったジュースを飲んでいると、ある女性の獣人に呼ばれた。
「キャスティ、おどる」
「私?」
狩人の衣装は濡れてしまったので、今は踊子の衣装を着ていた。アグネアの服装と似ていたから、誘われたのだろう。オーシュットに、いいね! と背中を押されて、焚き火の前に立たされる。
「え? あら」
手を取られるままに身体を動かす。
踊りと言うにはあまりにぎこちないものだったが、彼等の余興にはなったようで、少しすると解放された。
テメノスとオーシュットが会話をしていたので、そちらへ戻る。
「戻ったわ」
「おかえりー」
「おかえりなさい。上手でしたね」
「そうかしら。……変じゃなかった?」
「いいえ、そんなことは」
オーシュットの隣の流木に腰掛けたキャスティだったが、ふと、狩人の彼女にじっと見つめられていることに気付き、首を傾げた。
「どうかした? オーシュット」
「んー……なんでもない」
オーシュットは上半分の際に沿うようにしっかり半周分眼球を動かして迷い、しかし口を噤んだ。マヒナがホロロ……とか細い声を出す。
「二人はいつまでここにいるの?」
「一週間だから……あと三日は居る予定よね?」
「明日からはコテージ泊にはなりますが、まあ、島にはまだ居ますかね」
「じゃあ、また寄って」
背伸びをしながら答え、オーシュットは立ち上がる。
「今度はテメノスも、三人で狩りに行こうよ」
「私もですか? 困りましたね……」
「メシも食わせられないオスは、直ぐに愛想を尽かされるって言うよ」
「……覚えておきます。やれやれ」
テメノスが本当に困り果てたように肩を落とすので、オーシュットはそれを快活に笑い飛ばし、がんばれ、と背を叩いた。
「師匠が呼んでる。行ってくるね」
「いってらっしゃい」
キャスティと抱擁を交わし、マヒナを連れて彼女は元気に岬の方へ走り去っていった。
「……今、あなた、釘を刺されてたわよね。どういうこと?」
「あなたが踊っている間に、こう言われまして」
夜風を受けて、テメノスの銀髪が揺れる。焚き火の明かりで淡い暖色の影が落ちるその顔に苦笑いのような、渋いような表情を乗せて、彼は説明を始めた。
キャスティが手を取られて焚き火の方へ連れて行かれる。オーシュットがいいぞいいぞと手を叩いているので、テメノスも特に何も言うことなく彼女を送り出したわけだが。
「ねー、テメノス」
「はい」
「キャスティからテメノスの匂いがしたよ。なんで?」
それは唐突な問いかけだった。真っ直ぐにこちらを見つめる瞳に、どこまで本当のところを告げるかを迷う。
「……先程上着を貸しましたから、匂いが移ったのでは?」
「違う。その匂いじゃない」
(これは……)
彼女自身も気付いているのだろうと思った。ただ、それならもう少し違う聞き方をするような気もして、判断に迷う。嘘はつきたくないが、かと言って本当のところを明かすには、日が浅い。
「番になったの?」
直接的な問いを重ねられて、逃げ道がなくなる。皮肉にも、その分、回答しやすくなった。
「……夫婦になった、という意味なら、違いますね。人間には番う前の段階があり、これを恋人といいます」
「番わないのにコイビトなの?」
「そうですねえ、そういう場合もあります。ちなみに、オーシュット」
「うん」
「獣人達は番うとどうなるんです?」
「ん~、村のみんなでお祝いして、森に籠もって、一年くらいして子供を連れて返ってきてたかな。メスにはオスの匂いが染み付くから、すぐに分かるよ」
「……なるほど」
人間でいう婚姻が、獣人における『番う』という言葉になるようだ。人間語を教えたのは師匠(ジュバ)だそうだが、その辺りはよく考えて学ばせたらしい。
「話を戻すと、彼女から私の匂いがしたから、そうだと思った、と……。いいでしょう、白状します」
ため息をついたはずなのに、オーシュットは耳をピンと立てて迫る。彼女の聴力ならば聞き逃すことなどないだろうに、わざわざ近寄ってまで聞きたがるのは、なぜだろうか。
テメノスはオーシュットの純真無垢な一面を好んでおり、旅路を経て別れた今でも信頼を置いている。だから、祝いたいだとか、喜ばしいだとか、そういった感情的な話ではなく──推測だが、誰かが番ったことで開かれる祝宴だので旨い料理が食べられるといった──食欲的な意味での好奇心だろうと期待して、続きを語った。
「定期船では寝床が少なくて、どうしても一緒に寝ざるを得なかったんです。そのせいで匂いが移ったんでしょう」
「なんだ~。残念」
途端に耳が垂れ、渋い顔をするのでテメノスは思わず笑ってしまいそうだった。
「何が残念なんです?」
「新しい番ができたら、みんなでウマい肉を食べて祝うんだよねー。あーあ食べたかったなあ……」
「……それは残念でしたね」
マヒナが肉を啄む姿を横目に、オーシュットは、まあいっか、とどこからか肉を取り出す。
「でもさ、テメノスはキャスティのこと好きだよね」
可愛らしい外見とは裏腹に豪快な食べっぷりで骨付き肉の半分ほどをたいらげ、唇に付いた油を舌で舐め取る。彼女は人間よりも大きな瞳でテメノスを見つめて、揶揄するでもなく、淡々とこう言った。
「私のMomを泣かさないでね」
──この、風格。テメノスとは十は年が離れているはずで、体格も小柄だが、力関係で言えば圧倒的に彼女の方が上回る。
例えばこれをソローネやアグネアに言われたなら、テメノスも軽い口ぶりで答えただろうが、オーシュットにおいてはそれができない。肌が緊張し、言葉を選ぶための沈黙を返してしまう。
「……肝に銘じておきます」
「肝?」
「しっかり覚えておくという意味ですよ」
ようやっと答えれば、普段通りの彼女らしい反応があった。それから肉を勧められ、食事と雑談を楽しんでいるところに、キャスティが戻ってきた。
「じゃあ、オーシュットには話しちゃったのね」
「隠すようなことでもないでしょう」
「……まあ、そうよね」
どこか言い聞かせるように頷いたのは、まだ、新しい関係性に馴染めていないからだ。
好きではあるし、手を繋がれると安心するのは間違いないが、周りから見て変ではないだろうかと意識してしまう。
実のところ、コテージ泊までの間、テメノスと別行動でほっとしていたのだ。
恋人となった自分達の姿を仲間に見られるにはまだ緊張するし、特にオーシュットにはママだなんて言われているから、余計に気を使う。
でも、その彼女に一番に知られてしまった。態度に変化はなかったから、気にしすぎだったのは間違いないとして、やはり気恥ずかしい。
「慣れませんか?」
気付けば、テメノスが隣りに座っていた。
旅路の間ほとんど彼は学者の格好をしていたので、一層、恋人として気遣われている今の状況に照れてしまう。
「……ええ……」
「大丈夫ですよ。明日から嫌でも慣れます」
「い、言わないで……!」
「フフ」
今夜はケノモ村の宿に泊まるから、二人きりにはなれない。
だが、明日からのコテージ泊では間違いなく夜は二人きりとなるだろうし、あわや同衾となる可能性の方が高い訳で。
(参ったわね……)
キャスティは今更ながら、テメノスの言う『覚悟』の意味を理解し始めていた。
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#ヒカキャス成人向け
#ヒカキャス「あなたの色」
ヒカキャス成人向けの雰囲気を考えたくて書いてみました。
⚠️成人済みの方のみ閲覧いただけます⚠️
パス:成人しているか?の返答を英語で+ヒカキャスを小文字英語で(合計10文字くらい)
#ヒカキャス「あなたの色」
ヒカキャス成人向けの雰囲気を考えたくて書いてみました。
⚠️成人済みの方のみ閲覧いただけます⚠️
パス:成人しているか?の返答を英語で+ヒカキャスを小文字英語で(合計10文字くらい)
#テメキャス
#テメキャス「紅茶と雨宿り」
続きです。4話構成と言ってましたが、3話構成になりました。これでおしまいです。
これはこれでいい気がしています。
テメについての考えが浅い気がしますので、ゆるっと見逃してください🙇
全部ノリと私の好きな雰囲気でできてます。
追記:自分メモ
ヘアバンドじゃなくてカチューシャでした。
二、ティータイムの続き
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三、雨上がりにキスをして
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後書き的な
おっっっかしいな……えっちなことをしてもらうはずだったんですが?なぜ?
キャスがテメを持ち上げて落としかけてたのですが、まあうまいことまとまりました。よかった。
ところでキャスに「もう!」て言わせたくなるんですが、これはオシュへの態度からの妄想な気がしてます。
そしてこの話はここで終わってしまったのですが、続きを少し書いて本にしようかなって思います。船の上での話というか。
で、やっとこのあとテメが、へーそういうなら本気でいかせてもらいますかねみたいな感じで、トトハハ島のあの……アグちゃん2章のところにキャスを連れ込んで仲良くする感じの2冊目を作りたいです。
うまくかけるかわからないのですが、(見ての通り小説書くのがヘロヘロになってきてるので)、テメがキャスに注ぎ込んだ分、キャスもテメを救ってる……という感じを書きたいなと思ってます。書けるかわからないのでここに書き残しておきます。
畳む
#テメキャス「紅茶と雨宿り」
続きです。4話構成と言ってましたが、3話構成になりました。これでおしまいです。
これはこれでいい気がしています。
テメについての考えが浅い気がしますので、ゆるっと見逃してください🙇
全部ノリと私の好きな雰囲気でできてます。
追記:自分メモ
ヘアバンドじゃなくてカチューシャでした。
二、ティータイムの続き
顔も見れないほどの近さに戸惑う。
背中を撫でられ、ぎくりとした。温もりが直接触れたように錯覚するほど、体温を感じる。それほどまでにその手に熱を帯びているのだと分かって、緊張なのか、拒絶なのか、肌が粟立つ。手の震えを感じた。
「嫌なら、拒むべきです」
「……あなたは、」
声が掠れる。緊張によるものではない。
まさに今、変わってしまいそうな『なにか』を失わぬよう、見極めようとしているだけ。
「私と、どうにかなりたいというの」
「その道もあるでしょう。聖火教会は審問官の婚姻を認めています」
(婚姻……)
少し前に自分はこの部屋に何を思ったか。
夫婦の部屋のようだ、と思った。
なぜそんなふうに思ったのか。男女で一室を借りているから?
本当に、それだけだろうか。
情はある。これだけ肌が触れ合っていて心地の良い関係なんて、そうないことも理解している。
けれど、確信はない。
「……好きだと思う?」
「そうだと、嬉しいですね」
考える。何をもって判断すればいいか分からないから、分かることを拾い上げる。
苦しくない抱きしめ方。温かい。彼の言わんとするところはおそらく性愛的な好ましさで──とすれば、ここで応えてしまうとどうなるのかというと。
「……」
熱がさっと顔に集まった気がした。
できるだろうか。知らず手指に力が入り、シーツを掴む。
同じタイミングで、テメノスは腕の力を弱めた。
「……驚かせてすみません。頭を冷やしてきますから、先に寝ていてください」
「待って」
表情を見られたくないのか、離れてすぐに立ち上がってしまう彼を思わず引き止める。掴んだシャツの裾がずる、とはみ出たが、それよりも。
「肝心なことを、言い忘れてるわ」
長いため息をついた後、ようやく彼は振り返った。
「なんです?」
普段は飄然としていながら、大切な仲間が傷つけられようものなら誰よりも熱く敵の前に立ち向かう──どんなに建前で取り繕っても、彼の本当の心は隠しきれないほど真っ直ぐで、素直だ。
「私にだけ言わせるつもり?」
「……何を言うつもりか知りませんが、不公平では?」
「そうかしら」
目元の赤らみが分かるほどまで近付いてくると、テメノスは毛布をかけるようなゆっくりとした手付きでキャスティを押し倒した。ベッドが軋む。手のひらを重ねるだけと思えば、指を絡め取られる。肌の触れ合う場所が増えただけで不思議と安心感が得られた。
「言ってくれたら、変わるかもしれないじゃない」
「やれやれ……あなたには敵いませんね」
それは一瞬のことだった。その言葉を言ってくれるのかと期待したのに、響いたのは窓を打つ雨の音だけで、互いが息を吐く音すら聞こえなかった。
「──」
「ん、……いま、」
耳を食むように囁かれた。聞き返そうとした唇をもう一度塞がれて言葉を失う。
啄まれるような軽い触れ合いが続いた。片手を繋いだまま、静かに吐息だけを交換する。
「はは、いい顔ですよ。キャスティ」
ようやく解放されたと思えば、そんなことを言われた。唇を親指の腹でなぞられ、そこで初めて唾液で濡れていたのだと知った。
「……どんな顔よ、もう……」
「気持ちは変わりましたか?」
手を引かれて上体を起こす。乱れたキャスティの髪に触れ、耳にかけながらテメノスはいつもの楽しげな表情に戻ってそう訊ねた。
これは、分かっていて聞いている。
「そうねえ……」髪の毛先をくすぐる指先を見つめ、言葉を探すような間を置く。楽しげなテメノスの薄青の瞳を見つめて、ふ、と微笑んだ。
「もっとしてくれたら、考えるわ。──おやすみなさい」
今度は捕まる前に自分のベッドへ滑り込み、シーツを被る。
なんだか子供の頃に戻ったように、胸がどきどきと高鳴っていた。
ため息が聞こえた。からかいすぎただろうか。
部屋が暗い。テメノスが明かりを消したらしい。
キシ、とベッドに乗り上がる音と、衣擦れの音が近くから聞こえた。
シーツの中を探るように迷い込んできた手に、左手を握られた。
彼は何も言わない。その手は温かいまま。
ふ、と小さく笑ってしまった。
遠雷が聞こえる。また雨が降るらしい。頭痛はなく、このまま眠れそうだ。
たまにはこんなふうに一緒に寝てもらうのもいいかもしれない。そんなことを考えながら、キャスティはゆっくりと意識を手放した。
畳む
三、雨上がりにキスをして
人を疑う仕事はまさしく自分には天職だった。テメノスはその言葉を本心のように告げることも、建前のように話すこともできる。
聖職者として暮らす中見えてきたものは、いつだって人は都合の良い嘘をつくということだ。だからせめて自分だけはと、建前の裏側に本音を隠し、本当でも嘘でもないことを口にするようになった。
善良な人間が殺され、悪が生き延びる。そんなことがあっていいものかと怒りが内側に満ちるとき、同じくらい悪の存在に気付く立場であってよかったと思う。
何も知らないまま、人の死を惜しむことはできない。
身近な人の死にすら、貪欲に理由を求める。
今回は、それが良い結果となっただろう。聖火教会に巣食う闇を払った。若い命を守れなかったことは悔やまれ、かつての友や親しんだ人々の死を仕方ないことだったなどとは微塵も思わないが、彼らの死が無駄にならずに済んでよかったと思う。
仲間と共に夜明けを取り戻したことで気がかりは晴れた。
それぞれ目的を持つ面々だった。テメノスは幸いにして職や故郷を追われることはなく、謎という美酒は既に食らった。
またあの場所に戻り、子供たちに紙芝居を語り聞かせ、次なる美酒の香りに思いを馳せるだけ。
だが、そう──一つだけ。魚の小骨が喉に刺さったかのような、そんな引っ掛かりがまだあった。
事件性のないものであったので放っておいたが、知らずそれは言動に表れ、返答があると喜びを伴った。
この正体を知らぬほど無知でもなく、子供でもない。彼女のやりたいことを思えば、自分は教会にいますよと無害な顔をして寄り添うことが望ましいとすら思っていたので、さしたる問題もなかった。
なかったのだが。
魔物が迫ることにも気付かず、片手で頭を押さえて立ち尽くす彼女を──キャスティを見つけたときは、身体が勝手に動いていた。
そうして理解した。知らぬところで、彼女が命を落とすこともある。
彼女はヒカリに次いで戦闘面でも回復面でも頼もしい存在だった。それなのに、今のように恐ろしいほど無防備になるときがある。
思いは叶わずとも、せめて少しの間だけでも彼女を守れたら。気付けばテメノスは旅の同行を申し出ていた。
自覚した。思ったより自分は、彼女を心配している。
記憶を取り戻してからの彼女に対し、記憶を失う前と大きく変わったところはない。時折見せる表情だとか、歳の離れた仲間への態度に余裕が出たといったくらいの変化はあったが、どんな記憶であれ、今の彼女となるに必要な軌跡だったのだろうと思えるほどには、彼女はいつも通りだった。
ティンバーレインで彼女の身に起きたことを知るまで、呑気にもテメノスはそう思っていたのだ。
紫の雨に振られる中、一心に薬を調合する姿は研究者じみていた。自ら飲み、効果を試したときは肝を冷やした。自分こそ休むべきであるというのに、その場にいた仲間達の他、雨に濡れた患者全てに薬が行き届くまで動き続け、彼女が眠ったのは夜半時だ。
ヒカリが抱きとめるのを見ていた。ク国の王はそうやって、彼女が記憶を取り戻したときも支えたのだ。
オズバルドに抱き上げられた彼女は、肩を並べて話すときより小さく見え、ベッドへ寝かせてもなお離れがたかった。
献身的な振る舞いに共感していたし、それによってたしかに彼女が多くの人を救ったことに、静かに感動していたのだ。
それまでの印象に上書きするように尊敬が芽生え、敬愛となり、そこからさらに変容していった。
オーシュットとキャスティが森に入った時、薄暗い闇がキャスティを襲ったと聞いた。その話の詳細は彼女自身の口から語られたわけだが、話を聞いたテメノスが思ったことといえば、この人は強くあるほどいつか儚く切れてしまうのだろうということだけだった。
弦を弾けば美しい音色が響くが、弾き続ければ摩耗する。
そんな一面が彼女にあり──それが記憶喪失に繋がったのではないかと閃いたとき、まず、首を振って考えを否定した。
しかし、気付いてしまえば見逃せないものでもある。仲間達を見つめる横顔を盗み見ては、考え、テメノスには分かりようのない儚さだから惹かれるのだろうかと──いつの間にかそれが他より強い感情になっていた。
美しい弦が切れてほしくないくせに、その音が最も美しく響くようつま弾きたいとでもいうように、その感覚はやがて思考を侵食する。
恋は盲目というべきか、傲慢というべきか。
なんだっていい、どうせこれは示すことなく抱えるものだ。
そう思っていたはずなのだ。
聖堂機関に連絡を済ませたあと。テメノスは聖堂機関から案内された宿屋の様子を見に行き、空いていた一室を予約した。ベッドが二つあるということで、本来なら部屋を分けるべきだと分かっていたが、まあ彼女のことだから警戒などしないだろうと一つにした。
ただ、彼女がもし……二人きりを気にするようなら、その時は聖堂機関の部屋を借りようと考えた。
鍵を受け取り、外を出歩く。この町はクリックや仲間達と歩いた町だ。懐かしい、旅の思い出が詰まった町。
「また、報告に行きましょうか」
空へ、穏やかな海風が流れていく。
気の向くままに町を散策していると。
「あの……俺、キャスティさんの考えが好きで、ずっと一緒にいたくて」
「それって、薬師として人を助けたいということ?」
「あ……えっと、俺、キャスティさんに見てもらえるなら、どんなことでもやります!」
「動機はなんでもいいのよ。でも、患者さん一人ひとりに向き合う気持ちは持ってほしいわね。……エイル薬師団に入ってくれる人を探してはいるの。あなたはどう?」
噛み合わない会話に足を止めたテメノスはすぐに裏手に回った。道が狭ければ、斧は振るえない。あのまま路地裏に連れ込まれては、流石のキャスティも動きにくいはずだ。
幸いにして、男はキャスティの鈍さに頭を抱えて去っていった。
名前を呼ぶと、やはりよく分かっていないのだろう困惑顔の彼女が振り返る。忠告を唱えたが、ぴんときていないようだった。
やはり不安だ。背中を押して彼女を大通りへ戻し、酒場へ向かう。
さて、彼女について忘れてはならないことが一つある。
キャスティという女は素面の時から恐ろしいほどに男のツボを突くのが上手い上、酒が入ると隙が増える。つまり、酒場で酒を飲ませてしまうと、必然的に男の目を集める。
彼女にとっては一仕事終えた後のねぎらいであるので、控えるよう忠告するのも忍びなく、……つまり今、テメノスは理性を試されている。
「それで最後にしてくださいね」
一言二言言い返されたが、その後、彼女はジェラートと果実水を頼んだ。頭を冷やしてから戻るらしい。
上着を渡し、鞄と杖を片手に彼女を連れ出す。
細く、小さな手のひらだ。ひとたび斧を振るえば大型の魔物をも圧倒する力を持っているはずなのに、不思議なものだ。
「……ニューデルスタも夜が賑やかだけど、ここもまあまあ活気があるわよね」
知り合いの多い町だという自覚がないのか、彼女は手を振り払わない。デートか? などとこちらを探るような会話もあちこちで聞こえていたから──このまま同じ宿に入ったとなれば、言い訳は通用しないだろう。
外堀を勝手に埋めている自覚はある。
だが、彼女には言わない。
「そうですね。……キャスティ、ちゃんと前を見て歩いてください」
「歩いているわよ。だって……あら、いつの間に」
ようやく気付いたようで、キャスティが手を離そうとする。
「迷子になっては困りますから」
強く握り返すと、苦笑された。
「……私が子羊なのね」
察しが良くて助かるが、本当のところはおそらく伝わっていない。そのまま何も気づかずにいてくれと願いながら、部屋まで連れ込む。
成功などしてほしくはなかった。少しは警戒をしてくれないだろうか。全くどうしてこの人は。文句を抱きながらも喜ぶ顔を見ると絆されてしまい、先にシャワーを進めた。
(……どうしたものですかね)
紙芝居で間をもたせるか。それとも。
散々考えたが、最悪の流れになった場合に備えて、宿の主人に朝食を分けてもらうよう、部屋の外に出た。
そして。
結局、彼女は寝てしまった。
テメノスが手を握ったことで安心したのだろう。その寝顔は穏やかだ。添い寝のつもりではなかったのだが、これもまあ想定していたことではある。
空いている左手を口元へ添え、考え込む。
キスだけで踏み止まることができてよかった。彼女がこういったことに鈍いだろうことは推測していて、ほとんど躱されるかと思っていたからこそ、先程の問答と触れ合いが幻のように思える。
『言ってくれたら、変わるかもしれないじゃない』
──あんなふうに煽られるとは思いもしなかった。
好きだと言い続ければ、好いてくれるのか。それは他の男に対してもそうなのか。
弱々しく手を握られ、顔を上げた。彼女の手が離れる。背中を向けられる。
しばし月色の後頭部を見つめていたが、ため息をついた。
ベッドを軋ませぬよう、重心移動に気を付けながら彼女の髪を背に払う。覗いた項にそっと口づけてから自分もベッドに横たわった。
寝られるかはともかく、身体は疲れていた。
翌朝、目覚めると隣に彼女の姿は見当たらなかった。
朝食を載せたトレイはテメノスが置いた場所にあり、料理も手を付けた様子がない。
昨晩使った茶器もそのまま残っていた。
シーツに触れる。体温は残っていない。
念の為水場も確認したが、姿はなかった。
「おはよう、起きたのね」
探し人自ら部屋へ戻ってきた。いつもの格好だ。こんな朝早くから診てきたのだろう。勤勉なことだ。
「おはよう。よく眠れましたか?」
「ええ。おかげさまで」
変わりない笑顔に肩透かしを食らって、視線を外す。
とにかく服を着るかといつもの神官服を手に取ろうとして、止められた。
自らも上着とヘアバンドを外しながら、キャスティは微笑む。
「暖かいから、外で食べましょう?」
「外、ですか?」
「そう。宿のご婦人に薬を調合したら、裏手にバルコニーがあるから、使うといいって鍵を貰ったの」
カナルブラインは町の半分が海に突き出しており、窓の外が海である家も少なくない。
朝食を持って彼女についていくと、なるほど庭のような空間が裏手にあった。荷物置き場として使っているらしく、テーブルと椅子、薪や樽が置いてある以外、なにもない。
穏やかな波の音が響く。
「休日はここに座って夫婦でゆったり海を眺めるんですって」
「それはなんとも良い過ごし方ですね」
「でしょう?」
食器の音を最小限に抑えてテーブルに並べる。冷めたスープにスライスしたパン、チーズに燻製肉、あとはラディッシュやトマトなどの果実が並ぶ。
食事中はいつも通りだった。紅茶を作ってくるわとキャスティが席を立ち、少しの間一人になる。
風が髪をさらう。この程度の風なら、今日、出航するだろう。道具を調達して乗り込めば、後は船が運んでくれる。
「お待たせ」
「ありがとうございます」
キャスティが小さなトレイに紅茶を載せて戻ってきた。
ハーブティーのようにみえるが、爽やかというより、薬草らしい香りがする。一瞬飲むのを躊躇ったが、彼女の淹れてくれた紅茶が不味かったことはないので、一口含んだ。
「夫婦になったら、こんな感じなのかしら」
対面に座り、海を眺めながらキャスティが呟く。彼女はテメノスの視線に気付いて、ぱち、と瞬きをした。
「どうかした?」
「……いえ」
昨日の会話を振り返ってみるが、了承を得た記憶はない。
「キャスティ」
「なあに」
「私が忘れているのでしたら、怒ってくれて構いません。が……昨日、あなたは何も言っていませんよね?」
「なんのこと?」
「……」
本気で思い当たらないのか、とぼけているのか、判別できない。テメノスはなんでもないような顔を見せながら、内心、必死に考えを巡らせる。
どちらだ。これは。
その間にもキャスティはのんびりと紅茶を飲む。
「あっ、ごめんなさい。茶葉を間違えたみたい」
「そうですか」
「薬みたいに飲みにくいでしょう? すぐに淹れ直すわね」
「ええ……」
てきぱきと小さなトレイに茶器を戻すと、キャスティは足早に室内へ戻ろうとする。
「待ちなさい」
トレイとその細腕の両方を手で掴む。彼女は顔を見せてはくれなかったが、その耳は妙に赤い。
そんな姿はこれまでに一度も見たことがない。
つい今の今まで、平然としていたはずの彼女の腕は冷え切っていて、吐息と共に微かに揺れた。
「な、なにか忘れ物でもしたかしら」
ぎこちない返答。なるほどそういうことかと納得し、苦笑した。
「好きですよ、キャスティ」
「……」
「言えば、返してくれるんでしたよね?」
「…………どうだったかしら」
こちらへ腕を引くと、キャスティが観念して振り返る。珍しく目元に赤い化粧をさして、綺麗だった。
トレイを脇へ置き、両手を繋ぐ。あやすように揺らして促せば、はあ、と大きなため息をつかれた。
「やりたいことがあるから、一緒に居られないわ。それでもいいの?」
「構いませんよ。私もこうして仕事であちこち出かけますから、それと同じことでしょう」
「……寂しくなったら?」
「手紙を書きます。場所が分かれば、私の方から会いに行きます」
「困ったわ。断ろうと思ってたのに」
ふっ、と彼女は吹き出してそう言った。
「あなたのそういう素直なところ、好きよ」
「おや? 間違えていますよ、キャスティ」
「え? なにかしら……」
空気が緩んだ隙に逃げようとする彼女の手をやはり掴んだまま、じっと見つめる。促されたように首を傾げて考えていたキャスティだったが、不意に回答を閃いたようで、はっと目を逸らした。
少しの間、白波が二人を見守る。
「──あなたのことが好きみたい」
「よくできました」
「もう……」
彼女を手伝い、トレイを持つ。店の主人へ戻すものと、二人で飲むための紅茶を載せたものとを持ち上げ、キャスティに扉を開けてもらおうと呼びかけ、動けなくなる。
「テメノス」
一瞬のことだった。肩と顔が下に引き寄せられて、唇に柔らかいものが触れた。薬草の残り香が鼻腔をくすぐり、彼女の小さな笑い声が耳に残る。
「両手が使えないときにしないでください」
「そんなこと言わないで。嬉しくないならやめるから」
ズレた返答をするのは、彼女自身がよく分かっていないからだろう。
「そうではないから困るんですよ」
そして自分も、結局素直に嬉しいとは言えないまま、後に続いて部屋へと戻ったのだった。
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後書き的な
おっっっかしいな……えっちなことをしてもらうはずだったんですが?なぜ?
キャスがテメを持ち上げて落としかけてたのですが、まあうまいことまとまりました。よかった。
ところでキャスに「もう!」て言わせたくなるんですが、これはオシュへの態度からの妄想な気がしてます。
そしてこの話はここで終わってしまったのですが、続きを少し書いて本にしようかなって思います。船の上での話というか。
で、やっとこのあとテメが、へーそういうなら本気でいかせてもらいますかねみたいな感じで、トトハハ島のあの……アグちゃん2章のところにキャスを連れ込んで仲良くする感じの2冊目を作りたいです。
うまくかけるかわからないのですが、(見ての通り小説書くのがヘロヘロになってきてるので)、テメがキャスに注ぎ込んだ分、キャスもテメを救ってる……という感じを書きたいなと思ってます。書けるかわからないのでここに書き残しておきます。
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#[テメキャスメリクリ2024]
2025/1/3追記
眠気と時間の都合に押し負けました。
変なところは追って修正。
タイトルは「Behind the scenes」
※ヤドリギ周りの話はこの話の中だけそうなんだなあ、で受け入れてください。幻覚設定です。ファンタジー。
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書き終えました。以下余談。
オチをカプ寄りに修正しました。なのでカプ作品かなと思う。付き合ってるかは知りません。翌日から何もなかった顔して旅に出るキャス&見送るテメがいてもいい。
私はこれを平気でReSo(恋愛感情のない二人)と呼ぶし、海外作品での親愛表現を見てるとそう思えるんですが、実際は海外作品でも恋愛として取り扱われてるのかもしれないし、結局私の中だけの感覚なのかもしれないな……と思いました。
クリスマスとかそういう雰囲気の時だけカップルみたいな顔して遊ぶテメとキャス、私の好みな気がします。
ただ、遊ぶ回数が増えていくならそれはカプだと思うんですよね。やることやりまくったあとに告白になる二人の世界線ですかね。それもいいな。
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