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BONNO!
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ヒカ・キャス・テメに対する煩悩かべうち

No.196, No.195, No.194, No.193, No.192, No.191, No.1907件]

#ヒカキャス
#ヒカキャス「花嫁探し」

粗も多いけど!おしまいです!最終回!!
お付き合いくださった方いたらありがとうございますと言わせてください。ありがとうございます。



トルーソーを止めるために、仲間達に生かされた。治療法を、調合の仕方を知っているからとマレーヤに助けられ──その先で記憶を失って。
エイル薬師団の不名誉な噂を払拭するためにも、キャスティは世界中を旅して人々を助けなくてはならない。仲間を募り、人手を増やしていけば、キャスティがそこにいなくても人を助けることができる。
エイル薬師団を始めたのは、マレーヤと出会ったからだった。彼女と出会ったときは今よりも若い頃の話であったから、誰かとどうなっていく、なんて話は考えたこともなかった。考える余裕がなかった。
記憶を失ったことで変わったことがあるとするなら、そこだろう。
今のキャスティは、誰かと結ばれることが自分の行動を制限するとは思わない。
(……私はいいのよ、私は。でも、彼は……)
ヒカリは、どうだろうか。民を思い、ク国のために剣を振るってきた彼は、これからようやく自分のために時間を使えるようになる。王としての責務もある中で、彼は──一人の人間として、どのように日々を楽しんでいくのだろう。
その意味で、きっと、家族の存在は重要になる。そう考えたとき従者ツキの親族ヨミや、友人の妹ミッカをはじめ、彼と同じ背景を持つ女性達の方が、彼を助けられるのではないかと考えてしまう。
砂漠の暑さのためか、考え過ぎのためか、目眩を覚えて立ち止まった。水を補給し、日陰で休んだあと、ク国へ続く砂道を往く。
正門の橋の前で、キャスティは立ち止まった。
覚悟を決めなくてはならなかった。同じだけ、どんな顔で会えばいいのだろうかと、迷いもあった。
顔を合わせて、なんと言えばいいのだろう。
提案を受け入れたい?
未来に嫌な思いをするかもしれないから断りたい?
言えば、ヒカリはきっと配慮してくれるだろう。そうしてほしくはないのに。
不健全な形ではなく、互いに手を取り合う形で道を歩めないか──と言えたらいいのだが、キャスティ一人にできることなど高が知れていた。
「……先延ばしにしても、意味はないものね」
結局、今のこの形を維持する方が、自分達には合っているのだ。
時折遊びに来て、彼が健やかでいる姿を見られたなら、それでいい。
足が竦むような心地で、橋を渡る。
不安の本当の理由に気付かないまま、キャスティは朱玄城を目指して城下町を進んだ。


キャスティが城を訪ねてきたと聞いて、ヒカリは急いで城へ戻った。この日はク国の東側の復興のため兵士共々出かけていて、キャスティの登城の知らせも夕方時になって届いたのだ。
「いま、帰った」
「陛下」
「変わりはないか? キャスティの話は聞いたが……」
「はっ。それ以外は至って平穏でした」
「なによりだ。それで──彼女は?」
ベンケイに訊ねる。彼は答えるより先に、あ、とヒカリの背後を見た。
「おかえりなさい、ヒカリくん」
「キャスティ」
「聞いたわ。今日は遠出をしていたのよね? 疲れたでしょう」
薬師姿の彼女は城の周辺を散歩していたのだと言った。ひとまず中で休みましょう、という言葉に従い、食事の部屋へ移る。
「あなたに話したいことがあって来たの。でも、夜も遅いから、明日にした方が良さそうね」
皿がある程度空になったところで、キャスティはク国を訪れた理由を明かした。
「まだ大丈夫だ。眠気もない」
「急ぐ話ではないから安心して。ね」
「……」
笑顔で、有無を言わさぬ圧を感じた。が、ヒカリは彼女ともう少し話がしたかった。
「なら、……寝酒に付き合ってくれ」
「あら。寝る前に飲むような人じゃなかったと思うけど」
「今日だけだ。そなたが来てくれたのに、話もせずに眠るなど、今の俺には難しい」
ヒカリが急ぎ戻ってきた理由など、単純なものだ。
会いたかったからだ。
彼女と何気ない日常の話をしたかったからだ。
これがどのような感情のものか、ベンケイに指摘されずともヒカリも理解している。手紙をしたためたのだって、居ても立ってもいられなかったからだ。
「……仕方ないわねえ」
キャスティが年下のお願いに弱いことは知っている。ヒカリが食い下がれば、本当に駄目な時を除いて、頷いてくれることも。
困ったように苦笑する彼女から目を逸らし、ヒカリは、庭へ出よう、と立ち上がった。


新月の夜だ。篝火があるので暗くはなく、星の光がチカチカと空を飾り付けている。
「じゃあ……乾杯」
酒を前に、キャスティは笑顔だった。今日も一仕事してきたのだろう。移動もあっただろうに、強い人だと思う。
「手紙を送ったのだが、届いたか?」
「ええ、この通り。……酒場に届けるなんて、考えたわね」
「そなたなら、必ず出向くだろうとな」
先日はここから他愛ない会話が続いたが、この夜はぽつり、ぽつりと石でも詰むような緩やかな会話となった。
一つ語っては沈黙し、酒を飲む。少量しかなかったため盃はすぐに空き、キャスティは空になったそれを盆に乗せると、膝の上で両手を組み、何度目かの躊躇いの後、ヒカリを見た。
「そろそろ、寝ましょうよ。身体も冷えるわ」
「話があるのだろう。聞かせてくれ」
「だめよ。こんな話は、夜更かしをしてまですることじゃないもの……」
語尾のすぼまりに合わせて視線を落とすので、どきりとする。
憂うその瞳に、彼女は何を視ているのだろう。
「キャスティ」
「……なに?」
しかし、名前を呼べばあっさりと顔を上げる。それがどうしようもなく、嬉しかった。
「やっと俺を見たな」
「──どういう意味……?」
「いや。そなたの言うことも最もだ。明日、聞かせてくれ」
先に立ち上がり、手を差し出す。キャスティはじっとその手を見つめていたが、ややあって、首を横に振った。
「……やっぱり話すわね。あなたに謝らないといけないことがあるの」
「謝る?」
「ええ。──あなたの提案はとても魅力的だったし、あなたなら素敵な旦那様になるだろうと思うのだけど、私がそれに見合わないと思って、断ったの」
何の話か言われずとも、彼女の言わんとするところは察した。ヒカリの妻にならないかという話だ。
「それに、……もし、もしもの話よ? もし私達が結婚したとしても、ヒカリくんはこの先もっと多くの人と出会うでしょう。その時になって本当に好きな人ができたら、私の存在は余計なものになっちゃうと思ったの」
旅中では穏やかで、何があっても大抵は冷静に受け流してきた彼女が、このときはやけに慌てたように言い募る。そうして言ったことを後悔したかのように視線を外すと、片腕を掴むようにして身を小さくする。
「あなたに、どう見られているのか分からないけど、私だって……嫉妬くらいするものよ。だから、そう、この話はなかったことにした方がいいと思うの」
どうしてそのように気まずそうにするのか、ヒカリには分からなかった。
ヒカリは一度断られた側ではある。それを彼女が気にして慰めてくれたのが、月を見ながら酒を飲んだときのことで。
それから手紙も一度しか送っていないし、帰る場所になったら良いとは言ったが、定住せぬ彼女なら家は複数あってもいいだろうとの思いから書いただけだ。
だが、話を総合するに、どうやらヒカリの求婚はしっかり彼女の心に届いており──妙な言い回しが気になるが、彼女自身もヒカリのことをよく思ってくれているようだ。
「……キャスティ。そなたの言いたいことは分かった」
「本当? 良かった……」
両の手を合わせてほっとしたようにキャスティは笑ったが、その手は震えていた。慰めたいと思った。その指先に手を伸ばし、軽く触れる。
「え?」
「震えていた」
多くの人を救ってきたその手は小さかった。手袋を嵌めているから体温こそ分からないが、強張っているようなので休ませたほうが良いだろうと立ち上がらせる。
「なかったことにするのは簡単だが、それで、そなたはどうするつもりだ?」
「どうって……前みたいに、あなたに会えば、近況報告でもして、」
「そなたは嫉妬するほど想ってくれているそうだが」
「ち、違うの。好きとかじゃないの」
「そうなのか?」
「ええっと……」
まだ恋愛の知識は浅いヒカリだが、キャスティから嫌われているとは思えなかった。むしろ、好かれている。おそらく彼女は好意を持て余していて、ゆえに、なかったことにしたいと言っているのだろうが、一度彼女を妻にと願ったヒカリからしてみれば、それは無理な話だった。
彼女以外を妻に娶る未来など、描けそうになかったからだ。
「好きだからって、一緒にいられるわけじゃないでしょう?」
「……そなたの思想は理解している。ク国に縛り付けるつもりはない」
「そ、そうじゃないわ。よく考えて、ヒカリくん。あなたは王様なのよ、もっと他に、……その、相応しい人がいるでしょう?」
「いない。そなた以外には思い浮かばなかった」
「う……」
キャスティが後ずさるので思わずその背中に腕を回していた。戦闘で負傷した際など、身体に触れることは多々あったわけだが、このときヒカリが感じたのはもっと触れていたい、という欲求だ。
加えて、らしくないほど困惑した彼女の顔──篝火が仄かに照らすその表情が、あまりにも可愛らしかった。
背中を支え、腕を掴む。キャスティが大げさなほど肩を竦めて、ゆっくりとヒカリを見つめた。
視線を注ぎ続けると、だめよ、と呟くように言い、逃げるように目を瞑る。
これは、良いのだろうと思った。愛おしむように頬に触れると、弾かれたように目を見開き、何かを言わんと口を開け──抱き着かれていた。
「だめって言ったのに」
「それは、今もか?」
「──それってわざとなの?」
曖昧な問答をどう対応したものか迷ったが、キャスティがヒカリの首に腕を回し、後頭部を引き寄せたので流れに身を任せた。


翌朝、目を覚ますと隣にはキャスティが寝ていた。離れがたいと言うので部屋へ呼び、口吸いだけして寝たのだ。
外は明るく、日は既に昇っているようだ。そろそろ起きて朝の稽古に出かけるところだが、気付けばそのまま肩肘をついて彼女の寝姿に見入ってしまっていた。
キャスティが寝返りを打ち、ヒカリの胸元に頭を寄せる。
擦り寄るようなその仕草が愛おしく、彼女の細い金髪に指を通して光に透かす。
身動ぎ、その目が開く。
「……ヒカリくん?」
「おはよう。目が覚めたか」
「ええ、お陰様で……なんだか嬉しそうね。よく眠れた? 私は緊張してあまり寝付けなかったわ」
「そうか。それは悪いことをした」
欠伸を片手で隠しながら、キャスティはあっさりと身を起こす。ク国の夜着に身を包んだ、白い背中を見つめてヒカリも起き上がった。
「支度をするか」
「そうね。でも、その前に」
「なんだ?」
「あら、あなたの国じゃ、しないのかしら」
笑いながらキャスティは両手でヒカリの顔を包み込む。何度もしていれば流石に覚えるというもの、慣れたように目を瞑れば柔らかな感触が唇に触れた。
「おはようのキスよ。今日も良い一日にしましょうね、ヒカリくん」
「……そうだな」
夜明けを望んだ夜のことを思い出す。──彼女は朝を連れてくる人だった、と。
「良い一日になる。そなたのお陰でな」
話し合うべきことは多くあり、この先に様々困難もある。
けれど、それでも、彼女となら夜明けを臨むことができるだろうと、温もりを抱きしめながらヒカリはようやく実感した。

なるほど、妻というのは、確かに王には必要な存在かもしれない。


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ラストのセリフに「旦那様」て入れるか超迷ったし本当ならキスさせずに終わるつもりだったんですがなんかキスしてた!!はい!
見返すのも恥ずかしい!きっとミスしまくってる!!
でも楽しかったし馴れ初め一つかけたから良し!もっと二人の心情を詰めるべきってわかってるんですが許してください。ヒカキャス仲良くしてくれ〜!!
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小説

#つぶやき

今日人生で初めて綺麗な雪の結晶を見て感動した。ヒカくんやキャスもウィンターランドついた時、雪の結晶見て感動したり驚いたりしていそう、とおもった。
ヒカくんは雪見るの初めてだろうしな……。
オズが二人に講義しててもいい。キャスも知識はありそう。三人でわちゃわちゃしててほしい。

そういえば和名色だと「花色」て青のことを指すので、ヒカくんからしたらキャスは花色のスカートを着てるように見えてる可能性に気づいてしまったなぁ〜!て思った。空色って描写しちゃった。

テメから見ると空色とか聖火の炎の色にも見えるのかなあ……キャスの服。聖火で喩えると違う意味になりそうだから、使わなさそう。

#ヒカキャス
#進捗
ペーパー、記念絵ネタ漫画に3ページ使ってしまい、表紙を元の格好の二人にするか迷っている。
20250308010327-admin.jpg
デフォルメを多用したくない気持ちはあるが……ペーパーは許す!ってことでデフォルメも描いてます。

#つぶやき
キャスはさ、信じてたのに!という人で、
ヒカくんは信じるって言える人で、
そういう二人が……好きですね。

最終的にふたりとも違うことを受け入れるのに、その形と通り道が違うのが……。

テメは……パティチャにあるのかな。テメは各々信じるものは違っても、進める道はあると思いますよ的なことを言いそうだなと。そういう話ならね。カルディナ戦を振り返るか……。

#テメキャス
#ネタメモ

はじめキャスの様子から「ミントのときみたいにわからない人だと思われてるんだろうな」て思ってたテメ。
でも旅をする中で全然疑われることも敵意を示されることもなく、むしろ無防備に頼られるので、心配だなあこの人……と思ってたら、旅のあととかで「ああこの人はちゃんと私のことを見てくれる人なんだなって思えたから、全然そんなふうに思ったことはなかったわ」ていわれて、それがクリティカルヒット決まってほしいなって……思いました。隣でオシュが見てる。(いた)

……入るわけないだろ!(理性)
でもそれがきっかけになるかもしれないじゃん!(願望)畳む


memoでね、こういうつぶやき をしましてね……。

メモ

#進捗
ヒカキャスペーパーが思ったよりヒカキャスしてるので私が嬉しい。
そして書き溜めてるネタをそろそろ出したいです。息抜きの漫画……出したい……。

#ヒカキャス
#ヒカキャス「花嫁探し」

予定と違う感じになったけど、今はこの形でまとめていこうと思います。
オズと会話して恋心を認めるしかなくなってきてるキャス。
ちょっと修正。




ヒカリに見送られ、ク国を発ったキャスティは、オズバルドとエレナの様子を見るため、コニングクリークを目指した。
元々彼らの様子を見る予定だったのだが、ヒカリに呼ばれたので、その前にク国へ向かったのだ。
「元気そうね」
「君もな」
オズバルドは相変わらずの無愛想な態度で、けれど角の取れた態度でキャスティを迎えた。自宅を焼失した彼は、ここでは研究室を拠点とし、日中は娘と共にクラリッサに世話になっているという。
「ごきげんよう、キャスティさん」
「エレナちゃん。ごきげんよう、最近はどう?」
「随分いいわ!」
はじめはぼんやりとしていた彼女も、すっかり年相応の反応を示すようになってきた。
記憶のすり替え──対象物の混乱とでもいうのか、一時はオズバルドの存在がハーヴェイに書き換えられていたエレナだが、キャスティの記憶喪失の知見とオズバルドの調査の成果により記憶が戻りつつあった。
治療を急げば、悲しい過去をたくさん思い出すことになるかもしれないので、それには極力配慮しつつ、まずはオズバルドとの記憶を取り戻すことを優先している。以前に会ったときはオズバルドのことを父親だと認識できていなかったが、今は顔を出すたび、おかえりなさいと呼びかけてくれるという。経過が良いことは明らかだった。
オズバルドとは積もる話もあるからと、夜、酒場で待ち合わせとした。キャスティは町の様子を見て回った後、待ち合わせよりも早く酒場へ向かった。
なんだか久しぶりに酒場を訪れた気がする。

話したいことがあるから、ク国に来てほしい──そう言われて向かったキャスティを待ち受けていたのは、予想外の話だった。

カウンターに座り、メニューを選びながらこれまでのことを振り返る。
「エイル薬師団の方ですか」
「ええ。知っているの?」
「あなたの姿は以前から何度か。ではなく、エイル薬師団のキャスティという方へ、手紙を受け取っていまして」
「まあ……そうだったのね。ありがとう」
旅をしていると手紙のやり取りというのはなかなかに難しい。数ヶ月滞在する場合は宿屋や酒場を宛先として送ってもらうこともあるが、コニングクリークへはつい昨日来たばかりで、滞在の期間もそう長くは考えていない。
「誰から……ヒカリくんだわ」
確かにキャスティの行き先を知っているとすれば、彼以外に居ない。キャスティより先に届いたということは、早馬を使ったか、鳥を使ったか、ともかくキャスティが発って直ぐに出された手紙であることは間違いなかった。
(もしかして、何か怪我でも──)
ク国はまだ復興の途中で隣国との親交もこれから温め直すところだ。その手伝いの過程で怪我をすることはあるはず……とさっと手紙を開き、二度ほど目を通したところでオズバルドがやってきた。
「待たせたな」
「ええ……」
顔を上げ、オズバルドに気づくと慌てて手紙を折り畳み、鞄の中へしまった。
会うのは、アグネアの舞台以来だ。彼の娘のこともあり、舞台で再会する前にも一度様子を見に来たことがあるので、仲間のうちでは比較的よく会っている方。
「これが、東を旅していて見つけた書物だ。テメノス、パルテティオ、アグネアを連れて、巨壁の地下洞を探索していたときに見つけた」
「そんなところにあったの?」
「研究に来た学者が落としたんだろう」
出会った頃とはすっかり見違え、オズバルドは身だしなみを整え、仲間とも頻繁に交流しているようだった。特にソローネのことを彼なりに気に掛けているようで、パルテティオやアグネアと連れ立っていたと語る彼の横顔は柔らかく、娘を見守る父親の姿に似ていた。
食事は各々食べたいものを頼んでいたので、皿が空になるとキャスティは酒を、オズバルドは珈琲を頼んだ。
「君の方はどうしている。ヒカリに呼ばれたと言っていたが」
「ああ、それね──……」
ここでふと彼に話してもいいのでは、という考えが過った。唯一の既婚者であり、彼自身は無自覚でも愛や恋の経験はある。
「その前に聞いてもいいかしら。あなたと奥さんってどうして結婚したの?」
「……急に何だ」
「後で話すわ。ね、教えてくれない?」
キャスティが訊ねるとオズバルドは深く溜息をついた。
「どうもなにも……リタが一緒に住もうと言うから、それなら結婚するかと返しただけだ」
「まあ。大胆ね」
「……同じ家に暮らすとなれば、すり合わせも必要だ。そしてその話をするなら、結婚を考えてもいいだろうと」
「奥さんは? なんて言ったの?」
ふうと小さなため息をついて、オズバルドはキャスティとは反対の方へ顔を背けた。
「もういいだろう」
「もしかして、照れちゃった?」
「……君に酒を飲ませるべきではなかったな」
「そんなこと言わないで。一杯だけにするから」
ようやく機嫌を直してオズバルドが珈琲を飲み始めたので、キャスティは鞄の中から手紙を取り出した。
ヒカリがしたためたのだろうその手紙は、いくつか大事なことが書かれていた。
「ヒカリくんがね、お嫁さんになってくれる人を探したらどうかって言われたそうなの。でも、彼はそこまで必要とはしていないみたいで、……最初は彼の考えに賛同してくれる人を探していたみたいだったのに、何故か急に、私を口説いてきて」
「そうか」
「そんなに急がなくてもいいと思うのよね。彼は若いのだし、これから色んな人に……それこそ他国のお姫様だって会うことになるでしょうし」
オズバルドは黙って珈琲を飲み続けた。彼が何も言わないから、キャスティは沈黙を埋めるように話してしまう。
「……彼の提案してくれた話は、とても魅力的だった。でも、きっとその条件なら他の人だって頷くはずなのよ。──たまたま私がそこにいたから、口説かれただけなの。なのに、」
手元の手紙を見て、苦笑する。
「どうしてこんな手紙が届くのかしらね」
すぐに会いたいなどという殊勝な話は書いてなかった。呼び寄せておいて大したもてなしもできなかったことと、ヒカリの発言で戸惑わせたことへの謝罪。
それから──

『帰る場所は、いくつあっても困らぬはずだ。近くを通ったなら、必ず顔を見せてくれ。楽しみにしている』

「……本当は、数カ月ク国に滞在して、カンポウについて学ぼうかと考えていたのよ。でも急に私を口説いてきたから……居づらくなっちゃって」
「嫌だったなら、そう言えばいい。彼は聞く耳を持たぬ男ではないだろう」
「そう……そうなのよね」
両手で頬杖をつき、ため息をつく。オズバルドの言う話は最もで、キャスティもまた、ヒカリなら話を聞いてくれるだろうという自信はあった。
でも、止めてほしい、とは言えなかった。ただ、聞かされ続けると迷う気がして、逃げてしまった。
「答えは出ているのか?」
「分からないわ。だって、国をまとめる立場の人よ。好きだから一緒にいられるわけでもないでしょう」
「……話が見えん。それはヒカリに話すことだろう」
キャスティは残り少ない酒を呷った。それからオズバルドに聞いてみたかった問いを、もう一つ、口にする。
「あなたって、嫉妬したことはある?」
「……それが何かはわかる」
「なら、話が早いわね。女の嫉妬は怖いものなのよ。ヒカリくんなんて、たくさんの人を口説いちゃうから大変……」
かちゃ、とティーカップを受け皿へ戻し、オズバルドは机上に置いていた本を開いた。
「ここに蓄音機があれば、ヒカリに聞かせてやれたんだがな」
「やめて。彼には秘密にしてちょうだい」
「君はさっさとク国へ戻れ」
「うう……! 店主さん、エールをもう一杯お願い!」
オズバルドがため息をついて嘆いたが、キャスティは気にしなかった。
『ク国に定住しなくともいい。帰る場所にしてくれたなら、それで』
『民の中にも薬師を目指す者がいるはずだ。彼らをエイル薬師団のたまごとして育てるのはどうだ』
ヒカリの話は本当に魅力的だった。彼が好意ではなく信頼からキャスティに声をかけたことも分かっている。
信頼関係だけでいえばアグネアやソローネ、オーシュットだっているのだ。キャスティは一番歳が離れているし、それに、恋や愛の経験はなくとも、ヒカリがこの先誰かを好きになったとき、自分がどう感じるかの想像はできる。
それがヒカリを好きという感情ではなく、嫉妬だということも、理解している。
だから、ヒカリが月を見ながら、口説いたのは本意だと口にしたとき、はぐらかしたのだ。彼は素直に信頼を向けてくれているのに、綺麗に同じものを返せないどころか、自分の我儘だけを聞いてもらうような形の婚姻など、不健全だと思ったから。
「……明日休んだら、ヒカリくんに謝るわ」
「それがいい」
「振られたら、慰めてちょうだい。オズバルド」
返事はなく、ページを捲る音だけが返った。キャスティは二杯目の酒をゆっくりと飲みながら、どうしてこうなのかしらとオズバルドを真似たような長いため息をついた。

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