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100日後に付き合うテリサイの没文・話たち
どっちも📖視点。話し相手は🌹、⛪。


○○○
「せんせ、お酒」
「どうぞ」
ボトルを分け合い飲むこと数時間。少々酒が回ったのか、やや舌っ足らずな呼び方に気が付いたサイラスは中身が残りわずかとなったボトルを差し出した。
「その辺りにしておいたほうがいいのでは」
「私じゃないわ。飲むのはあなたよ、サイラス」
「それなら、……ありがとう」
手酌を受けるべく杯を掲げ、礼を述べる。対して、彼女は頬杖をつき、微笑んだ。
「さあ、これであなたも多少は話せるんじゃない? さっきの続きを話してご覧なさいな」
「……そうだね。と言っても、実のところ、これ以上話すことはないんだ」
催促を避けて、酒を飲む。

『明日から、数日離脱する』
テリオンが皆にそう宣言したのは、昨日の夜のことだ。一昨日の不在の理由は、以前旅に同行したノエルに手伝いを頼まれたからだと述べ、彼女からこのような話を聞いたのだという。
ハイランドはホルンブルグが滅亡して以来、国同士、貴族同士の小競り合いが起きている。中でもストーンガードから南、エバーホルドに近い町では、つい最近、元々貴族に雇われていた賊が主人を裏切り、町を乗っ取ったそうだ。
トレサとノエルが聞きつけたのは、その貴族の屋敷にはベオウルフに関わるある秘宝が保管されているという話だった。レイヴァースとの関連、あるいは研究対象であることから二人はその話に耳を傾けたわけだが、件の賊によって町への侵入が難しくなったことから、その真偽は定かでない。
テリオンはひとまず町の様子を見て、本物であるならば一つ盗んでこようと考えたらしい。彼は盗みの腕を試すことができるし、コーデリアやノエルにとっては盗み出したものによって得られる利がある。彼らしい判断だとサイラスは頷いたが、話はそこで終わらなかった。
『人手がいる。……ハンイット、オルベリク、サイラス、頼めるか』
確かに、ここに来る前、連れて行くメンバーは彼が決めることになっていた。

○○○

八人もいると、道中の会話には事欠かない。魔物との戦闘を避けるために声を潜め、雑談を控えることはあるものの、生まれも育ちも職業も異なり、お互いの知るものすべてが真新しいのだ。最初の旅と比べ親しくなったこともあるだろう。険しい山道を進みながらではあるものの、皆、和やかな表情で会話を楽しんでいるようだった。
「オフィーリアくん」
「はい?」
「少し相談があるのだが、いいだろうか?」
後方を歩いていたサイラスはそう言ってオフィーリアを招いた。彼女は快く頷いて、サイラスの隣に並ぶ。
「なんでしょうか?」
こそ、と小声で聞いてくれるのは、彼女がそれだけ思慮深いからだ。サイラスは彼女の配慮に微笑みを返し、礼とした。
「以前、クオリークレストで、素直に好意を伝えるところが良くないのかもと教えてくれたことがあっただろう。覚えているかな」
「……そうですね、ありましたね」
目を左右に走らせたあと、やや口元を緩めてオフィーリアは答えた。こほんと咳払いをして、それで、と続ける。
「具体的に、好意を伝えるとどのように誤解させてしまうのかを知りたいのだが、教えてもらえないだろうか?」
「えっ」
「私には好意は好意としか受け取れないし、これまで好意に伴う感情には興味がなかったのだが、少し、気になるようになってね」
「……。……それはこの前の動悸の話と関係がありますか?」
「よく分かったね」
やはり聡明な彼女である。サイラスの問いかけの求めるところを察して、考え込む。
ややあって、顔を上げた。
「私にもうまく言えないのですが……、おそらく、その人のことを考えるとあたたかい気持ちになるのだと思います。なんでもできるような気分になったり、何かをしてあげたりしたくなる。あるいは、自分だけを見てほしい……そんな感情が起こるのではないでしょうか。
 きっと、サイラスさんに褒められた方は、嬉しかったのだと思います。嬉しくて、もっと褒められたいと思い、そして、できることなら自分だけが認められたいと思ったから、誤解してしまったのではないでしょうか」
「なるほど」
であれば、サイラスの抱く『これ』は恋とは言えないだろう。


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