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#コンビ以上カプ未満
これをコンビで出すと「ああこの作者はこの二人のカプが好きなんだな」って匂いを感じる(テメとキャスがお互いのことを原作以上に心配してると示す)ので、コンビとして表に出すのを躊躇いました。短編です。
2025/1/5追記。
上記は考えすぎなのでは?の顔をし始めました。修正すればコンビで出せるのでは??🤔
タイトルは「Likewise(お互い様)」
諦めてカプ寄りにするべきだったかな……分からない。カプになる二人ならテメはキャスのことを「素敵な女性」だと褒めるだろうし、キャスも「あなたがそう言ってくれるなら、恋人も要らないわね」っていうのかなと思いました。付き合ってない状態でそういう会話をしてくれ。
本来のネタは「記憶を取り戻す前なら、好きだった相手のことも忘れているから、取り入る隙があるのでは?と考えてしまったテメ(何もしない)と、恋なんてするわけないって思ってるキャスによるテメキャス」でした。今度はカプでリベンジします。
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- テメとキャスの会話@クラックレッジ:
- ヒカくんやオズとの関係性は実プレイベース
- オシュ・テメ3章後
- 特に何も起こらない
これをコンビで出すと「ああこの作者はこの二人のカプが好きなんだな」って匂いを感じる(テメとキャスがお互いのことを原作以上に心配してると示す)ので、コンビとして表に出すのを躊躇いました。短編です。
2025/1/5追記。
上記は考えすぎなのでは?の顔をし始めました。修正すればコンビで出せるのでは??🤔
タイトルは「Likewise(お互い様)」
溶岩を固めて作り上げたような魔物──テラの咆哮が轟いた。
「それじゃあ、島で合流!」
オーシュットの明るい声がなければ、テラの威圧に負け、人々に退避するよう促したかもしれない。地響きを立てながらテラは海岸へ向かって歩き出し、大きな岩山のようなその身体が徐々に海へ遠ざかる。
「はあ~、腹減った〜!」
「お疲れ様、オーシュット。みんなも、街へ戻りましょうか」
「そうだな」
キャスティ、ヒカリは戦闘慣れしている二人で、テメノスが同行する旅団(パーティ)の要である。オーシュットは魔物を使役でき、自身も俊敏に、狩人として容赦なく矢を放つため戦闘向きで──つまり荒事には不向きなテメノスがなぜここに立っているのかというと、彼らの傷を癒やす、後方支援のためであった。
「皆さん、回復を忘れていますよ」
「ありがとう、テメノス」
回復魔法を唱えるとテメノスを中心に淡い緑光が波状に広がり、全員の傷を癒やす。治療面では誰よりも先んじて動くキャスティが、嬉しそうに頬を綻ばせた。
「助かる」
「テメノス……! ありがとう!」
「どういたしまして」
順番にはしごを登り、道を案内してくれたポムに礼を述べて別れる。じゃれつくオーシュットと先程のテラについて語り合いながら、他二人の後に続き、酒場で待っていた仲間達と合流した。
「俺は先に戻る。……静かな場所で本を読みたい」
「外は寒いと思うけど」
「構わん」
「待って。それなら温かいコーヒーでも持っていったら?」
若い面子が楽しげに会話をする横で、席を立つオズバルドをキャスティが引き止めていた。ため息をついたが、大柄の学者はそのまま腕組みをして待つ姿勢を見せる。キャスティは彼がそうすると分かっていたように、何も言わずに店主へ声を掛けに行った。
「彼女の目から逃れるのは至難の業ですね」
カウンター端に座っていたテメノスが話しかけるとオズバルドは無愛想な顔の、瞳だけをこちらへ動かし、再び前へ戻す。鼻息のような、ため息のような、曖昧な息を吐く。呆れたらしい。
「……そうでもない」
「というと?」
「気がかりがなければ見逃すだろう、彼女は。現に、ヒカリは素通りだ」
話している最中にちょうどヒカリが席を立った。酔いを覚ますらしいが、彼が一人になってすることなど剣の修練だと皆が知っている。
窓の外で剣を振るい始めたヒカリを見て、アグネアが負けじと立ち上がる。この酒場に踊り場はないが、角のほうに空間があり、そこで吟遊詩人がギターを演奏していた。
「……座る場所の問題では?」
「アグネアちゃん、今朝咳をしていたでしょう? 今夜は休ませたほうがいいと思うわ」
テメノスがオズバルドに言い返した矢先、コーヒーを片手にキャスティがアグネアを引き止める。オズバルドに渡すとすぐに離れ、キャスティはアグネアの喉の調子を確認し始めた。
大丈夫! と笑って返していたアグネアの顔が、だんだんと気まずそうな表情に変わる。
最終的に、目の前で調合された薬を飲んでから歌い始めた。
テメノスが納得を示すまでもなく、オズバルドは酒場を出ていってしまい、パルテティオは近くの席の労働者と語り合い、ソローネとオーシュットは熱心に各々の武器について話し込んでいる。
アグネアの歌が始まる。店内を満たしていた喧騒が歌い出しにかき消され、客達は話を止めて歌に聞き入る。
隣の席にキャスティが座った。
目を合わせるだけで、互いに何も言わない。
仲間の歌声に耳を傾ける。
彼女の横顔からアグネアへ視線を移す。
共に旅を始めて数ヶ月が経った。
旅が終わりに差し掛かっている者もいれば、まだ旅を始めたばかりの者もいる。テメノスはどちらかといえば前者の方だが、キャスティについてはどちらとも言い難い。
記憶が戻った時を終わりとするなら、彼女の記憶はいま、どこまでが取り戻せているのだろう。
自分のことよりも他者を優先する、薬師としての姿が彼女を支えているのだろうと思ったから、テメノスは彼女のそういう部分を信頼していて、ゆえに、同じだけ心配もしていた。
これだけ相手を助けようとする彼女が、記憶を失うほどのこと──例えば、過去に彼女が何らかの罪を犯してしまったことを理由に記憶を失ったのだとしたら、今の彼女はそれを受け入れられるのだろうか。それだけではない。彼女が被害者となった可能性もある。
歌が終わる。ワッと拍手と歓声が沸き起こった。
「今夜はゆっくり眠れそう。優しい歌だったわ」
「そうですね……」
「どうかした?」
カウンターに片腕をつき、キャスティがこちらへ向き直る。
「もしかして、考え事かしら」
「いいえ、昼間の件は保留です。次の調査場所へ向かうまでに考えれば良いので」
「ふうん……?」
店主がエールを彼女の前に置いた。コーヒーのついでに注文していたのだろう、テメノスにも要るかと聞かれたが遠慮した。
マグの半分ほどまで豪快に酒を飲み、しかし、吐いた息は紅茶でも飲んだかのような落ち着きがあり、隙のない女性だなと思う。
「昼間の女性のことを考えていたとか?」
こちらは真面目に考えていたというのに、一仕事終えた彼女は職務中とは打って変わり、軽い雰囲気でそんな冗談を口にした。ソローネならまだしも、彼女にそんなことを言われるとは思わず、なんですかそれは、と半目になってしまう。
「聖堂機関はあなたのことを目の敵にしているようだし、なかなか気が抜けなさそうだと思って。それに、あなたって言動だけは不真面目だけど、真面目だから……根を詰めすぎちゃだめよ?」
「ご心配なく。謎を解き明かす過程が、なによりも楽しいですからね」
こちらが心配されているとは思いもしなかった。
困ったように笑った後、キャスティは酒の残りを数口に分けて飲み干す。
もう一杯を頼むので、テメノスも便乗した。
「飲むの?」
「ええ、あなたを見ていたら飲みたくなりました」
リーフを支払い、届くのを待つ。テーブル席ではヒカリとアグネアが戻り、五人で和やかにデザートを頼んでいた。
「キャスティ。次の質問は雑談なので、真に受けなくて構いませんが、聞いてくれます?」
「あら、なにかしら」
酒が届く。ビアマグを掲げて、乾杯をする手前、頬を色付かせた彼女を見つめた。
「記憶を取り戻したら、実は恋人がいた……なんてことになったら、あなたはどうします?」
一方的に乾杯を終わらせて、酒を飲む。
質問を吟味するように、時間をかけて酒を飲んでいたキャスティだったが、ふむと頬に手を当てた後、なんでもない表情のままテメノスを見た。
「面白い話だけど、残念ながら、どうもしないわね」
そう言って唇を湿らせるように酒を含む。
「鞄の中に手紙はなかったし、恋人らしき存在について手記にも書いていなかった。私のことだから──と言っても、まだ分かっていることは少ないけれど──好きだったら、一言二言くらいは書くと思うのよね」
「なるほどなるほど。それは確かに」
「それに……これは想像だけど、恋人より患者を優先してしまうから、私を恋人にしようなんて人、きっといないわよ」
離れたテーブル席で笑い声が起こる。
彼女は事実を口にしただけなのだろうが、それはどこか自嘲じみた響きを伴って聞こえた。
「そんなことはないでしょう」
かろうじて、それだけを答える。それ以上のことを口にしようものなら、この話題が別の意味を持ってしまいそうだった。
ふ、と突然彼女が吹き出す。
「さっきの冗談、思ったより効いたのね。ごめんなさい、からかって」
「……違います」
「あなたは良い神官だと思うわ。本当よ」
「それはどうも」
肩を竦めてどうにかそれだけ言い返す。酔いが回ってきたのか、キャスティはまともに取り合いはせず、テメノスもそのまま不貞腐れたふりをして、他の仲間達と共に席を立った。
諦めてカプ寄りにするべきだったかな……分からない。カプになる二人ならテメはキャスのことを「素敵な女性」だと褒めるだろうし、キャスも「あなたがそう言ってくれるなら、恋人も要らないわね」っていうのかなと思いました。付き合ってない状態でそういう会話をしてくれ。
本来のネタは「記憶を取り戻す前なら、好きだった相手のことも忘れているから、取り入る隙があるのでは?と考えてしまったテメ(何もしない)と、恋なんてするわけないって思ってるキャスによるテメキャス」でした。今度はカプでリベンジします。
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#テメキャス
#[テメキャスメリクリ2024]
2025/1/3追記
眠気と時間の都合に押し負けました。
変なところは追って修正。
タイトルは「Behind the scenes」
※ヤドリギ周りの話はこの話の中だけそうなんだなあ、で受け入れてください。幻覚設定です。ファンタジー。
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書き終えました。以下余談。
オチをカプ寄りに修正しました。なのでカプ作品かなと思う。付き合ってるかは知りません。翌日から何もなかった顔して旅に出るキャス&見送るテメがいてもいい。
私はこれを平気でReSo(恋愛感情のない二人)と呼ぶし、海外作品での親愛表現を見てるとそう思えるんですが、実際は海外作品でも恋愛として取り扱われてるのかもしれないし、結局私の中だけの感覚なのかもしれないな……と思いました。
クリスマスとかそういう雰囲気の時だけカップルみたいな顔して遊ぶテメとキャス、私の好みな気がします。
ただ、遊ぶ回数が増えていくならそれはカプだと思うんですよね。やることやりまくったあとに告白になる二人の世界線ですかね。それもいいな。
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#[テメキャスメリクリ2024]
2025/1/3追記
眠気と時間の都合に押し負けました。
変なところは追って修正。
タイトルは「Behind the scenes」
久しぶりに届いた手紙には、神官の姿で来てください、なんて妙な文句が記されていた。
「なにかの企み事かしら」
彼が言うのなら悪いことではないのだろうが、それにしては目的を説明してくれてもいいだろうに。まるで子供の頃に戻ったかのようなくすぐったさを感じながら、キャスティは酒場の隅で苦笑した。
西大陸を見て回り、トト・ハハ島へ来て、そろそろ東に行こうかとオーシュットに別れを告げた後のことだ。トロップホップは観光客が多く、病に苦しむ者も少ない。
定期船に乗り込み、ニューデルスタ停泊所へ。
眼前に広がる美しい自然の景色を見るたび、わずかに胸が痛むのを堪え、ランタンに火を灯した。
船の中で着替えを済ませておいたので、道中は神官あるいは薬師として旅人や商人を助けながら歩くこと数日。凍えるような雪道からほっとする紅の道へ移り、そろそろかと顔を上げた。一度坂を下り、それからまた階段を上った先にフレイムチャーチはある。
そういえばこの辺りで見かけた国境の滝は美しかった。また見て回ろうと寄り道を考えつつも道を進む。
「あら……?」
人の影に気づき、足を止めた。
踊り場を越えた更にその先の坂で、神官と老爺が歩いている。空に透けるような白銀の髪に、白のローブ姿は、そうそうお目にかかれない。
(テメノスだわ)
旅路の中でも彼は何度か人を導き、連れ歩いていた。そのほとんどが仕事に関わることであったため──一部、相棒探しもあったが──このときもその関連だろうかと考え、坂の影に隠れて様子をうかがう。
老爺が何事かを唱えては一歩を進んでいたが、やがて座り込んでしまった。テメノスが膝をつく。緑光が輪を作り、広がった──回復魔法を唱えたのだろう。であれば、かの老爺は負傷の可能性がある。キャスティは服の裾を掴み、急いで坂を駆け上がった。
「どうかしたの?」
「キャスティ」
「久しぶりね、テメノス。この方は……」
「なんだい姉さん。あんたも教会の差し金かい?」
言葉の意味を捉えきれず、キャスティは疑問符を浮かべた。もしかして、異端審問官の方の仕事だったのだろうか。
「そうなんです。私が呼び寄せましてね」
すかさず、テメノスが口を挟んだ。話を合わせろと言わんばかりに一瞥をくれ、行きましょう、と老爺に手を貸す。
「あんたも分かってるだろ。いいんだよ、俺はもう、だめだからよ……」
「そう言わないでください。あなたの演奏を楽しみに子供たちも集まっていますよ」
演奏家らしい。シワだらけの手から年齢を推し量りつつ、キャスティも後ろから老爺を支える。事情は分からないが、テメノスの応対が穏やかであるので、何かしらの容疑者というわけではなさそうだ。
老爺は否定的な発言を繰り返し、それをテメノスが慰めている。
「一体、何があったのかしら」
とうとうキャスティが口を挟めば、つい最近魔物に襲われ、足首と太腿に大きな怪我を負ったのだと老爺は語った。ならば診れば良いだけだとキャスティが言い差した口をテメノスが片手のひらで押し留め、行きますよ、と先を促す。
「どうして? 無理に歩かせては怪我に響くわ」
「後で詳しく話しますから」
「いいえ、今話して」
腕を掴んで引き止めると、彼は一つ息を吐いて老爺に呼び掛けた。
「少し話をしてきます」
「そうしてりゃあいい。俺はしばらく休んで帰るさ」
「……だそうなので端的に伝えますが、彼の怪我の話は十年以上前の話でして、町の薬師曰く、健康そのものだそうですよ」
ならばなぜ、彼は昔の話を今の出来事のように語るのか。精神的な不安定さがあるのなら、尚更、話を聞いたほうがいいように思える。
「北風と太陽の寓話を体現しているといいますか。私も手を焼いています」
あまりに困りきった顔をして両腕を組むので、物珍しさが顔に滲んでしまった。なんです、と細目を向けられ、慌てて首を振る。しかし、どうにも笑いが込み上げ、頬を緩めずにはいられなかった。
「あなたでも手を焼いているのね」
「ええ。手を貸してもらえませんか?」
「私にできることなら」
ひとまずは彼を助けてやるとして、キャスティはテメノスに続いて老爺のそばへ近寄った。
帰るだなんだと言いながらも、老爺は大人しく待っている。
「ねえ、おじいさん。あなたの話を聞かせてくれるかしら」
「ああ? そりゃあまあ、いいとも……」
キャスティが自ら話し相手に立候補すると、疑りつつも話し出し、やがて老爺は楽しげに自ら語り出す。農夫をする傍ら、礼拝の際は毎度ピアノを借りて弾いてきたこと。魔物に襲われ、怪我で動けないときもピアノの運指を確認し、治った後もしばらくピアノを弾くため教会へ通ったこと。
話せば話すほど彼が演奏を楽しみにしていることが伝わってきて、だからこそ帰ると口走ってしまう心情が気になってしまう。
「今日のために練習をしてきたんですよね」
助け舟のようにテメノスが話を補足した。
「教会にもピアノ演奏者はいますが、今回はフレイムチャーチ全体の町おこしも兼ねて演奏者が複数人選ばれました。彼は子供達とともに、聖歌の演奏をするために何度も通われていて」
「やめてくれ。あんたもそうやって俺を持ち上げて、ミスでもすれば俺はいい笑いものだ」
「笑いませんよ。誰も」
なるほど、つまりは緊張して怖じ気づいたらしい。
「そうそう、誰も笑ったりしないわ」
「はん、姉さんは聞いたことがないだろう? 知った口を聞くんじゃないぜ」
「そうね。だから、このあと聞かせてもらうわ」
一拍の空白。テメノスは何も言わず、老爺は大きな声で笑い出し、キャスティはその声に驚いて目を瞬かせた。
「そうきたか」
それから彼は終始笑いを噛み殺すようにして階段を上り、フレイムチャーチに辿り着くと、じゃあな、と来るときよりも軽やかな足取りで教会へ向かった。怪我だ何だと言っていたことが嘘のように、軽快にその足は動いていた。
「キャスティ、あなたのおかげです。間に合いました」
「私は何もしていないわよ」
首を振る。薬を調合したわけでも、斧を振るったわけでもなく、話をしただけだ。
「いいえ。あなたでなくてはもっと時間がかかっていましたよ」
茶化すように片目をつむり、テメノスは話を変えるように両腕を広げた。
「今日の日によく来てくれました。聖夜祭で、今日は夜まで賑やかですよ」
町の至る所に紐が結ばれ、そこから雪や葉の形のモチーフが吊るされている。キラキラと反射しているのは宝石か、精霊石だろうか。小さなステンドグラスのモチーフも垂れ下がり、陽光を透かして綺麗に輝いていた。
「素敵ね」
「ええ。……どうです、今夜。一緒に見に行きませんか?」
「え?」
聞き返す。彼は言葉を付け足しながら、近くのモミの木に飾られた星型の飾りをひっくり返した。
「来たばかりで疲れているでしょうし、無理にとは言いません。しかし、年に一度の聖夜祭なので、見たことがなければ、ぜひにと思いまして」
「いいわよ。あなたが言うのなら、きっと素晴らしいのでしょうし……」
「嬉しいことを言ってくれますね」
彼は冗談を聞いたかのようにフフと笑ったが、キャスティ自身は本心を告げたつもりだ。同じように笑い返すと、彼は軽い咳払いの後、恭しくお辞儀をする。
「では宿に迎えに行きますので、日が暮れる頃にまた」
「あら、呼び出しておいて、放っていくのね」
「拗ねないでください。後で十分、時間を取りますから」
「冗談よ。いってらっしゃい」
互いに深追いするつもりはなく、軽口を言い合い満足したところで片手を振って別れた。
日が山の端に隠れ、乾いた風が急に冷ややかさを帯びる。ぽつぽつと山間部に暖色の光が灯り、風に揺らめいていた。
「冷えるわね」
言ったそばから吐く息が白く染まる。
粉雪が舞い落ち、髪の毛先に乗った途端熱を帯びて溶けていった。
酒場で軽食をつまみ、宿で体を休めた後、キャスティはテメノスと合流し、大聖堂広場への道を歩いていた。
魔除けの蝋燭が灯され、煌々と足元が照らされている。先導する彼の背中を追っているからだろうか、どことなく厳かで、怪しげな印象もあり、寒さも相まって背筋に冷たいものを伝うような、そんな感覚がした。
手を貸してもらおうか。ふと迷ったが、首を振って誤魔化す。
「足下に気を付けてください」
「ええ、ありがとう」
彼の配慮を受け止めつつ、先へ進む。
大聖堂に辿り着く前から音楽が聞こえていた。ピアノの旋律がしんと冷えた空気を伝い、辺りに響く。子供たち、あるいは大人たちが中央の聖火に飾り付けをしながら歌を歌い、楽器の演奏会があり、やがて司教の説教が始まる。
波を引くように静まり返った空間に、声が響く。
演奏会は楽しめたキャスティだが、聖火教会の教えとなるとなるほどと聴講するだけだ。
「このあとは何をするの?」
「点火ですよ」
隣のテメノスに囁くように問う。同じ音量まで落とされた声が返る。少し、くすぐったい。
話が終わると、大聖堂の室内光が一斉に消された。
聖火がただ夜空の下で燃えている。そこへ、信者達が一人ひとり手元の蝋燭に火を灯し始めた。
「キャスティ。こちらに」
テメノスも所持していたようで、マッチと蝋燭を差し出された。ならばとマッチを手に取り、蝋燭は彼に持たせて火を付ける。
やがて蝋燭は所定の位置に並べるよう指示が伝えられ、キャスティも促されるまま列に並んだ。
「良い夜を」
シスターがヤドリギに南天の実を付けた鈴の飾りを配っていた。蝋燭を置いた者から手渡される。
「面白いわね」
聖夜祭自体が初めてだ。これで終わりなのだろうと感想を語ろうとすると、シィ、と人差し指を立ててテメノスが目配せをする。
「ここからですよ」
まだあるらしい。人の波に乗って大聖堂へ入る。中は暖炉を焚いているようで、ほのかに温かい。風が無いだけでもありがたいと指先を吐息で温めながら待っていると、手袋を渡された。
蝋燭の光だけだが、人の影が複数に広がり、聖堂内の空気を厳かにしていた。
おもむろに、光が差す。精霊石とガラスを混ぜて作られたステンドグラスが、その光を彩り、床へと落ちた。雪の影が光に動きを付け、きらきらと輝いて見える。
誰もが静かに見入っていた。
やがて、鐘の音が鳴り響き、光が消える。
そっとピアノが鳴った。聖歌のようで、誰かが歌い始めたのを皮切りに合唱が始まった。
「見応えがあったわ」
全ての催しが終わり、帰り道。
皆が帰路につくのを見守るテメノスの隣で、キャスティも立っていた。誘い(エスコート)をかけられた以上はここで帰るのもおかしな話だと思い、また、彼が言う通り聖夜祭はどれも美しく凝った演目が多かったので、礼を伝えたかったからでもあった。
「気に入っていただけましたか」
「ええ、とても。来年も見たいと思ったわ」
「来年と言わず、毎年手を貸してくださっても構いませんよ」
平然とのたまうその顔に思うところがあり、キャスティは返答を少し考えた。
彼は一つ忘れていることがある。それをそのままにして手を借りようだなんて、虫の良すぎる話ではないだろうか。
「それって遠回しのプロポーズだったりする?」
「え、」
「嘘よ。考えておくわ」
ちょっとした仕返しを成功させ、困惑顔のテメノスへ、謝罪とともに説明を付け足す。
「だってあなた、何故私を呼んだのか、ちっとも教えてくれないんだもの」
「……そういえばそうでしたね」
周囲に人気はなく、各々寮や自宅へ帰っている。あとは最後尾の人に続いて帰るだけとなった、聖火の灯る広場にて、キャスティの顔色をうかがうように上体を屈めて、すみません、と彼は素直に謝った。
「聖夜祭を共に見たかったので誘いました。間に合うかは賭けでしたが、運が味方しましたね」
「どっちの運が良かったのかしらね」
肩を竦めてみせたが、もうテメノスの表情が曇ることはなかった。
「さてね。どちらでもいいでしょう」
どちらからともなく歩き出し、坂を下る。
岩陰の下、洞窟のような道に差し掛かったとき、不意にテメノスが足を止めた。
「キャスティ、それを貸してもらえませんか?」
「? いいわよ」
ヤドリギの鈴を指定され、なんだろうかと首を傾げながら手渡せば、彼はキャスティの頭上に掲げて、リン、と鳴らした。
「この慣習は知っていますか?」
「知らないわね。鳴らすとどうなるの?」
「鈴はオマケです。ヤドリギの下に立ったとき、──」
意図を問うべく顔を上げていたのだから、それはすぐに行われた。成り行きに任せて閉ざした目蓋を開けば、思うより近い場所に彼の顔がある。
「聖夜を祝う祝福のキスを求められた場合、断ることができません」
「へえ、そうなの」
「覚えておくといいですよ。そして、応えたくなければ直ぐに離れることです」
肩に触れてきたと思えば、そのままキャスティの手を取りテメノスは歩き出す。触れた手のひらは指先が冷えていて、よく見れば耳の端も赤らんでいることに気付き、キャスティは繋がれた手にもう片手を重ねて、自分の口元へ引き寄せた。
「寒いでしょう。温めておくわね」
「それはどうも」
町へ向かう坂道をゆっくりと歩いていく。
視界の端で、星が瞬く。その光に気を取られて空を見上げていると、隣を歩く彼と目が合った。
「どうしました?」
なんとなく、ここで朝日が照らせば、美しいのだろうと思った。
「あなたってかわいい顔してるのね」
「……どういう意味です?」
「そのままよ」
町に辿り着く前に自然と手は離れたが、この夜の出来事は綺麗な光とともに記憶されたのだった。
※ヤドリギ周りの話はこの話の中だけそうなんだなあ、で受け入れてください。幻覚設定です。ファンタジー。
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書き終えました。以下余談。
オチをカプ寄りに修正しました。なのでカプ作品かなと思う。付き合ってるかは知りません。翌日から何もなかった顔して旅に出るキャス&見送るテメがいてもいい。
私はこれを平気でReSo(恋愛感情のない二人)と呼ぶし、海外作品での親愛表現を見てるとそう思えるんですが、実際は海外作品でも恋愛として取り扱われてるのかもしれないし、結局私の中だけの感覚なのかもしれないな……と思いました。
クリスマスとかそういう雰囲気の時だけカップルみたいな顔して遊ぶテメとキャス、私の好みな気がします。
ただ、遊ぶ回数が増えていくならそれはカプだと思うんですよね。やることやりまくったあとに告白になる二人の世界線ですかね。それもいいな。
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#ヒカキャス成人向け
#ヒカキャス「知らない夢の話」
タコの夢に悩まされるヒカくんと夢に出てくるキャスの話。昨日の漫画の「悪夢」部分。
漫画で出すには時間がかかるため小説でなぞりました。そろそろちゃんとしたストーリー性のあるヒカキャス出したいですね……。
セリフと文章を微調整しました。セリフ練度が低すぎる。
⚠️R18
パスはいつもの。
#ヒカキャス「知らない夢の話」
タコの夢に悩まされるヒカくんと夢に出てくるキャスの話。昨日の漫画の「悪夢」部分。
漫画で出すには時間がかかるため小説でなぞりました。そろそろちゃんとしたストーリー性のあるヒカキャス出したいですね……。
セリフと文章を微調整しました。セリフ練度が低すぎる。
⚠️R18
パスはいつもの。
#テメキャス成人向け
#テメキャス「サイコロを振る」
⚠️R18
続きです。パスはいつものです。
大事なシーンを書き漏らしていたり、動作が抜けていたりしたので追記しました。そして終わりを付け足しました。これ以上は続きませんが、気が向いたら書きます(?)
#テメキャス「サイコロを振る」
⚠️R18
続きです。パスはいつものです。
大事なシーンを書き漏らしていたり、動作が抜けていたりしたので追記しました。そして終わりを付け足しました。これ以上は続きませんが、気が向いたら書きます(?)
#テメキャス
#テメキャス「サイコロを振る」
いわゆる媚薬ネタです。何も起きません。
今日誕生日なので好きなように書いていいだろ!!の気持ちで自分を慰めるために書きました。
タイトル「Roll the dice」
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なおこの続きの展開は後で別記事であげます。
#テメキャス「サイコロを振る」
いわゆる媚薬ネタです。何も起きません。
今日誕生日なので好きなように書いていいだろ!!の気持ちで自分を慰めるために書きました。
タイトル「Roll the dice」
一、
あれは確か、ニューデルスタを目指して山を下りた後のことだった。近くにクロックバンクがあるから、そこで一晩足を休ませようという話になった。
生憎、到着は夜となったため、宿は二人用の部屋が二つしか空いてなかった。女性一人に男性三人だ。女性一人に部屋を渡したいところだが、体格的にも男性三人で一部屋を使うにはあまりに窮屈だった。
「じゃあ、くじを引いて色のついていた人が私と同じ部屋にしましょう」
「キャスティ。何を言って……」
ヒカリが慌てたように口を挟むが、彼女の表情は変わらない。
「雑魚寝をしてきた仲だもの、一晩同じ部屋になったところで心配してないわ」
部屋割りなど気にしないオズバルドと、彼女が言うならば致し方なしと頷くヒカリに挟まれ、嫌な予感を覚えつつもテメノスは一言、それでもこれきりとしてくださいね、と釘を刺し、彼女の差し出す小瓶から一本引いた。
この行動がそもそも誤りだったかどうかは、聖火のみぞ知る。
「じゃあ、テメノス。よろしくね」
「……はい」
宿に到着する前、彼女が診た患者のことを少しでも思い出していれば、ここでの選択は変えられたのかもしれない。
二、
テメノスがついていくことにした三人は、各々が目的を持った一時的な旅人集団だった。
脱獄犯らしき様相の学者オズバルド、西大陸ヒノエウマ地方独特の装束の剣士ヒカリ、そして空色の制服と思しき装いの薬師キャスティ。
テメノスが話しかけたのはキャスティだった。
オズバルドは多くを語らず、ヒカリも話しにくさこそないが事情があるようではじめは警戒されていた。それだけでなくこの三人の見た目から話しかけやすいのはキャスティであったので、選択自体は間違ってはいないだろう。
自分とは何か。それに答えることはできない状態ではあったが、彼女は、男性二人に付き従うでもなく、するべきことを自覚し、取り組んでいた。
人が迷うとき、頼りとするのはその者の近くにあり、最も安心のできるなにかである。
彼女はそれをすぐに見出していた。であれば、分かっている『今』と『これから』の話をすればいいだけ。
ほか二人はどうであったか知らぬが、元よりテメノスは『傷心旅行』と称しての旅なので話し相手がいるだけで良かった。そして彼女は、適任だった。
それだけのはずだった。
酒場で食事を終え、オズバルドが先に席を離れ、キャスティも調合したい薬があるからと酒も飲まずに宿へ戻った。テメノスは眠気が忍び寄るぎりぎりまで酒場で過ごすことに決めていたので、ヒカリが酒を飲めるのをいいことに引き止め、色々と話をした。とはいえ、ほとんどが雑談だ。
小麦を使った酒があるように、米を使った酒があるだとか、別のテーブルで遊ばれている絵札合わせは何であるとか。ヒカリは初めて東大陸を訪れたというので、物珍しさが合ったのだろう。おかげでテメノスは気楽に話ができた。
「付き合ってもらって助かりました」
「彼女を気づかってのことだろう?」
「ええ、まあ……」
「……こちらでも未婚の男女が同室となるのは、避けた方がいいことなのか?」
「それは勿論。と言いたいところですが、旅人には適用が難しいでしょう。むしろお互いに知っている仲であることが幸運かと」
「なるほどな」
旅をしていると、性別は無関係に同じ部屋に通されることもある。そこで事故が起きてしまうことも否定できず、だからこそ旅をする女性は皆自衛の手段を持っている。
──手段を持つかどうかに関わらず、旅を始めたばかりのテメノスが旅慣れている彼女に敵うわけがない。なのでキャスティの判断も間違いではなかった。
「俺は鍛錬のために早く起きる。もし不都合があれば、こちらに来てくれ」
「それはありがたい。では、おやすみなさい」
ヒカリと苦笑し合い、奥の部屋へ向かう。
一度息をついて、キャスティが寝ていることを期待しながら、そっと鍵を差し込んだ。
「ああ、テメノス……。おかえりなさい」
声を聞いてすぐ、衝動的に扉を閉じたくなった。
「……キャスティ。何があったんです?」
それでも熱に浮かされたような顔で、部屋に備え付けのテーブルに片手で額を押さえるようにして座っている彼女を無視できず、部屋の中に入ってしまう。
「大丈夫。あと三分だけだから……」
卓上には調合のメモと調合に使ったのであろうすり潰された材料がいくつか、それから薬を保存するための小瓶が置かれていた。
さらさらと音を立てているのは手のひら大の砂時計である。
砂は残り半分といったところ。
「もしかしなくても、薬を試していたんですか?」
「ええ、そうなの。人がいるなら、万一倒れても見つけてもらえるし、」
「そんな薬をひとりで試さないでください」
酒を飲んで時間を潰したとはいえ、そのまま深夜を超えるまで居座っていた可能性もある。部屋に戻ったら仲間が倒れていた、なんてことはあってほしくないことだ。もしそうなったとしたら、悔やんでも悔やみきれない。
彼女には多少、自分のことを話している。だからだろう、じっとテメノスの顔を見上げていたかと思えば、カチューシャを外しただけのいつもの顔で、ごめんなさい、と素直に謝罪を唱えた。
「危ない薬じゃないから、安心して。滋養強壮剤を作っていただけだから」
「……であれば、今のあなたの状況は変では?」
「そうね。あなたには話さないといけないわね……」
心臓に病を抱える若い男性が、つい最近結婚したという。様々な障害と悩みを乗り越えての結婚だ。夫婦で子供も望んでおり、可能ならば早いうちに授かりたいとのことで、心臓に負担をかけないやり方で努めてきたが、なかなか芽が出ない。
それで、少しだけ過激な手段に出てはどうか、と夫婦で話し合い、町の薬師に相談したが、材料が足りず、薬の調合を諦めていたという。
「それで私に話が来て……そういったことはよくあることなのか、手帳にも記載があったのよ。だから試してみて、明日渡そうと思ったの」
「キャスティ」
言いながらも上着を脱ぎ、襟元を寛げようとするので制止する。
「ああ、ごめんなさい。つい、……熱くて」
それはそうだろう。今の説明でどういったものか察したテメノスは、それが健康に良いだけの意味を持つ薬とは思わなかった。
「時間ね」
テメノスのため息が落ちる前に、砂が落ちきった。
キャスティは手早く摺り皿に水を入れ、一気に飲む。粉末であったので香りが立ち、テメノスにもそれがなにか理解できた。健全化で彼女が使う薬だった。
「……もう大丈夫。あとは寝て起きて何もないかを確認するだけ」
「やれやれ……」
エプロンと上着を脱ぎ、椅子にかけると彼女は髪を解いてベッドへ向かう。
「心臓に負担がかかりすぎるといけないから、確認したかったのよ。驚かせてごめんなさい」
置いていた鞄から櫛を取り出し、髪を整えると彼女はさっさとシーツの中に潜った。
テメノスが再び目を覚ましたのは、窓から差し込む光も見えない、まだ夜の時間のことだ。くぐもった声がした気がして、もしかして不審者が侵入したのかと身を起こし、灯りを点ける。
幸いにも、隣のベッドで何かが起きているといったことはなかった。だが、明かりの中にぼんやりと白い手が伸びて、
「……テメ、ノス」
か細い声に呼ばれ、慌てて立ち上がる。
「どうしました?」
「水……飲み物を、」
「分かりました」
卓上の水筒をグラスへ移す。汗を浮かべて苦しそうな彼女を抱き起こし、水を飲ませた。
「効果が強すぎたのでは」
「そう、そうね……。でも、おかしいわね、時間も経ったのに……身体が怠いわ」
「……それは単純に体調が悪いのでは」
「ああ、……うん。そうかも」
もう一度水を飲ませてから、上着をかけてやる。彼女に言われるままに調合の道具と、材料を手渡した。自分で調合するというのだ。
町の薬師を連れてきた方がいいのではと何度か声をかけたが、様子見が必要だと彼女に留められた。
「あなたには悪いけど……私が落ち着くまでは、ヒカリくんたちの部屋には入らないで。風邪だとしても、移ると大変だわ」
「それは構いませんが……」
良くはない。良くはないが、こればかりはどうしようもない。
(嫌な予感とは、当たるものだ)
金輪際、例の薬の調合を引き受けないよう念を押して、テメノスはひとまず状況を伝えるべく隣室の扉をノックした。扉越しに状況を伝え、再び部屋へ戻る。
それからキャスティの体調が落ち着くまで、数日町で休むこととなった。
意外にもオズバルドがこの手の処置に慣れており、キャスティが眠っている間は彼にも話を伺いながら熱を測り、町の薬師に相談することができた。
そうして再び動けるようになったキャスティと共に、ニューデルスタへ向かい、彼女が見知らぬ美しい女性と子犬を拾い、旅の仲間はこれで五人となった。五人目の仲間は盗賊ソローネと名乗った。
女性が二人となったことで、同室となる心配をしなくて済む。密かにテメノスは安堵した。
さて、皆の目的地が西大陸にあるとのことで、定期船に乗って海を渡ることになった。この船はトト・ハハ島でカナルブライン行きの船と連携するらしい。
波に揺られながら、数日の船旅だ。
「テメノス。ちょっといい?」
彼女に呼び止められたのは、船の上で気紛らわしに海を眺めていたときだった。話し相手だったオズバルドやソローネはヒカリと談笑中で、キャスティが来たことにも気付いていない。
「なんです?」
「この間のお礼をしようと思って」
「もう十分もらいましたが」
オズバルド、ヒカリも揃っていたときにお礼だと言って彼女からは一食、豪華な食事を振る舞ってもらっている。
「もし気になるというのなら、また食事を作ってください」
「あら、嬉しいことを言ってくれるのね。でも、これはそれとは別にあげるわ」
「……これは?」
手渡されたのは小さな薬小瓶だった。中の粉末にはどこか見覚えがある──
「改良したものよ。好きに使うといいわ」
「ええと、キャスティ?」
どう対応したものかを迷い、まずは彼女の様子を見る。
「何を考えているんです?」
「え? ソローネから、こういうのは色々と自白に使えて便利って聞いたから」
「なるほど、そういうことでしたか……」
「半年程度なら使えるわ」
例えば、これが『好きな相手と盛り上がるために』と言われたなら突き返せた。審問官としての仕事を支援するためのお礼だ、邪推をして受け取らないのは、それこそ彼女に失礼だと思い、テメノスは渋々それを受け取った。
三、
あれから数ヶ月が経ち、八人の旅団となった自分達は、各々旅の目的を果たし、別れの時を決めようとしていた。
突如訪れた『夜』が続く日々に困惑こそしたが、最終的には皆で夜明けを──朝を迎えることができた。
「何を考えているところ?」
「……今夜のことですかね」
その過程を経て、テメノスはキャスティと新たな関係を築いた。聖職者である以上、そのつもりはまったくなかったのだが、考えが変わるほどには彼女に惹かれ、腕に抱いていたいと強く思うようになってしまったのである。
不運なことにキャスティはその類には疎い女性であったが、今となっては可愛らしい頃があったと振り返るだけの余裕がある。要するに、両想いとなり、晴れて恋人となれたのである。
「いい部屋だものね」
フフ、と微笑みながら隣席する彼女にもまた、八人でいた頃と違ってゆとりがある。それが自分の前でだけ見せてもらえる姿なのだと理解しているので、テメノスは彼女が開いたメニューの一部を手で隠した。
「テメノス?」
「今夜は酒を控えてください」
「……何かするの?」
「ええ、まあ」
仲間達の目を避け、オーシュットやソローネからも悟られない形で、初夜は済ませた。その後も、肌を重ね合わせることこそしなかったが、人目を避ける形で思いを伝え合うことは何度もしている。
ゆえに、テメノスが話題を不透明にしただけで、彼女もすぐに察してくれた。
どこか気まずそうに、分かったわ、と答え、話題を変えるように今日の出来事を話し始める。
ティンバーレイン王国の王都を救った彼女へ、礼として、高級宿を自由に使える権利が送られた。王国の兵士達からの強い働きかけで叶ったらしく、酒場で再会したエドマンドとグリフはそれは嬉しそうに話していた(テメノスがわざとらしくキャスティを抱き寄せたとき、彼らが示した反応はいま思い返しても笑ってしまう)。
「この地域なら水回りも期待できそうですね」
「そうなの。綺麗な清水が流れているだけで、治療もしやすくて助かるわ」
彼女がいつもの雰囲気に戻ったところで、テメノスが先に頼んでいた食事が届いた。追加で食べたいものを彼女に頼んでもらい、腹を満たす。
「さて、キャスティ。こちらを覚えていますか?」
「え? これ……」
懐から取り出したのは、かつて彼女からもらった例の薬である。
調合した当人は覚えてないのか、テメノスに薬を渡した経緯から何から確認してくるので、丁寧に話してやる。
「……つまり、これ……それからずっと、持っていたの?」
「あなたが言ったんですよ。使用期限は半年程だと」
「そ、そうだったかしら」
指折り数え、でもやはり不安だからと、彼女はこう言い出す。
「使うのなら安全性を確かめてからじゃないと、」
「そうですよね。ということで、今夜使ってみませんか?」
「……」
「……」
「…………えっ?」
「決まりですね」
言い切ることでそれ以上の質問を拒み、テメノスは静かになったキャスティを気づかうように、彼女を待っている間に遊んだ子どもたちの話を語り聞かせた。
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なおこの続きの展開は後で別記事であげます。
#ヒカキャス
#ヒカキャス「共に在るために」
思ったより長くなりそうなので置いておきます。両片思いになるまではいけるかな……と思ってます。ヒカ/キャスよりです。
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#ヒカキャス「共に在るために」
思ったより長くなりそうなので置いておきます。両片思いになるまではいけるかな……と思ってます。ヒカ/キャスよりです。
その知らせが届いたとき、ヒカリは朝餉を堪能している真っ最中だった。
見慣れた部屋、ベンケイ、ライメイ。ミッカは一緒の場は緊張しますからと言って同席を辞退し続けており、新しい日常の始まりはこの光景から始まる。
「エイル薬師団なる薬師の噂が届いています。なんでも、リューの宿場町付近で現れたサンドワームを撃退し、負傷者を救ったとか」
「……キャスティだな。彼らの所在は?」
「数日前はサイにて姿が見えたとのこと、もし砂漠を越えてやってくるならば、次の目的地はク国かと」
「そうか」
ヒカリは皿の上を綺麗に平らげると、急ぎ、膝を立てた。
「外に出る」
「は。……というと、出迎えなさるので?」
「いや、周囲を見るだけだ。いつやって来るか分からぬからな」
「承知しました。キャスティ殿は戦後も兵士や民の治療に尽力頂いた御方、盛大に迎えるとしましょう」
「……ほどほどに頼む」
「ええ!」
ベンケイが明るく胸を打つ。ライメイも静かに食事を終えると、城下の様子を見てくると言って席を立った。
ヒカリがク国を統治して、約一年が経過していた。
鎮魂祭の時と比べ、建物の多くは修繕されたが柱から焼け落ちたものは未だ建築の目処が立っていない。パルテティオに頼り、材料を仕入れ、大工を連れてきてはもらったが、ク国特有の建築手法は並の大工でも手こずるようで、通常より時間がかかっていた。
なにより、戦火の傷跡はク国以外にも多く残る。
ヒカリは剣で敵を打ち払い、民を守ることはできるが、癒やすことはできない。だからキャスティのような、戦や国など関係なく傷を癒そうと働きかける薬師の存在には心の底から尊敬の念を抱いており、その志に共感すら覚える。
『……多くを救うには、必要な犠牲だった』
紫の雨が降る中、かつての同胞と対峙し、打ち勝った彼女の寂しげな後ろ姿が今でも目に焼き付いている。
志を違えた友と、ヒカリも剣を交えた。剣を抜けば容赦はできず、せめてその刃を下げてくれたならこちらとて配慮ができた。
だが、そう甘いことを言ってはいられないのが現実だ。
リツの墓の前で黙祷を捧げたヒカリは、髪を風に靡かせ、急坂を降りていった。ここにはク国の正門を守護する陣営が天幕を下ろし、修練場も備わっている。
兵士達と剣の稽古を終え、砂漠へ向かった。
無論、軽装備でそう遠くへ行くつもりはない。
ただ、もしかすると、あの空色が見えるかもしれないという思いはあった。
地響きが轟いた。地震かと疑うような地面の揺れ。大きな魔物が近くに潜むというなら、今ここで打ち落としておくべきだ。
震源地を目指して走れば、見覚えのある色を纏った人間が一人と──緋色の衣装を靡かせる者が、一人。
「今よ!」
さみだれ切りで敵を怯ませ、仲間へ叫ぶ。すかさず毒液が投げ付けられたが、消滅にまでは到らない。
「助太刀する」
駆け出し、剣を抜く。魔物は一体だ、ならばさみだれ切りで十分。
「! 待って、殺しちゃだめ!」
「……!」
袈裟がけに、あるいは真横に剣を払い、切り刻む。三枚に下ろしてやれば、流石に魔物も虫の息だ。
「ああ、良かった。ありがとう、ヒカリくん」
「やはりそなたか。殺すなとは、一体……」
「解毒薬を作らないといけなくて。そのために毒の分析が必要だったの」
魔物──サソリの胴部から内蔵を取り出し、どろどろとした液体を小瓶へ移す。
「これでよし……と。それじゃあ、行きましょうか」
「戻るのか? 少し休んではどうだ。ク国も近い」
ヒカリが訊ねれば、キャスティはその柔和な顔に笑みを浮かべて頷いた。
「もちろん、ク国へ。私達、予備の解毒薬を作るためにここへ来たのよ」
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#テメキャス
#テメキャス「いつもの仕事」
タイトル「stellar work」
英語版のテメがキャスに治療受けるとこの発言をするんですよね。いつものお仕事ですよ、みたいな翻訳になるのかな?←素晴らしいなどの意味もあるから流石です、とかかも。
それと風邪引いたテメと治療に来てくれるキャスの話を紐づけてみました。
思ったより長くなったし予定と違うオチになったけど、まあいいかなと思ってあげてみます。
短編です。
友情出演:オルトさん、フレイムチャーチの薬師さん
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#テメキャス「いつもの仕事」
タイトル「stellar work」
英語版のテメがキャスに治療受けるとこの発言をするんですよね。いつものお仕事ですよ、みたいな翻訳になるのかな?←素晴らしいなどの意味もあるから流石です、とかかも。
それと風邪引いたテメと治療に来てくれるキャスの話を紐づけてみました。
思ったより長くなったし予定と違うオチになったけど、まあいいかなと思ってあげてみます。
短編です。
友情出演:オルトさん、フレイムチャーチの薬師さん
何気なく咳をしたことが、全ての始まりだった。
子供達に揶揄われ、シスター達からは気づかわれ、そういえば旅中では優秀な薬師がいたからあまり風邪を引かなかったのだと思い出し、大人しく町の薬師を頼って薬をもらった。
数日経過。喉の痛みが出てきた。これはただの風邪ではなさそうだと旅路で得た知識を元に薬師に相談したが、その材料での調合には明るくないという。
これではまずいなと回復魔法で一旦の緩和を試み、そういうわけで治しに来てくれないかと、かつて共に旅をした薬師に手紙を書くことにした。
(……『まずは調合について教えてください』と書き直すか)
彼女はテメノスと違い、決まった場所に居座らず、旅を続ける者だ。東大陸にいるかもしれないし、西大陸の端にいる可能性もある。フレイムチャーチにわざわざ来てもらうより、調合方法を返事に書いてもらうほうが効率が良い。
(しかしまあ、『こうでもしないと顔を見ることもないでしょうから、』と付け足して)
来てくれてもいいし、来なくてもいい。その自由は彼女にあるべきで、こちらが願うことではない。
「テメノスさん、お加減はどうです?」
「ああ……ありがとうございます。あまり良いとは言えませんが、昨日よりはましですね」
「そうですか……。すみません、私も近くの町まで出かけたのですが、旅の薬師にもなかなか会えず」
「いいんですよ。それより、この手紙を早急に飛ばしてもらえますか? 特徴を伝えておきますので」
「いいですよ。……もしかして恋人へのお手紙です?」
「はは、まさか」
空咳を何度か繰り返しながらやり取りを済ませ、扉を締める。喉が痛むし咳はひどい。何度吐きそうになったことやら、数えるのも億劫になっていた。
頭痛、耳鳴り。熱は出ていないが、この様子ではいつ熱が上がってしまうかもわからない。
大人しくベッドに横たわる。
翌日、オルトが顔を見せに来た。
移ってはいけないからと忠告していたのに、彼は飲み物に食料と、新たな情報を持ってやってきた。
「ニューデルスタ停泊所で、エイル薬師団の姿が目撃された。近く、こちらにやってくるはずだ」
「……そうですか」
「死にそうな顔をしないでくれ。俺は風邪を拗らせたことがないから、気持ちは分かってやれないが……あんたの元気がないのは、落ち着かない」
「やれやれ……随分と角が取れてしまいましたね」
初めの頃の堅苦しさを思い出して笑うと、彼もまた小さく笑った。
「早く元気になれよ、テメノス」
そうして彼が扉を閉ざしたところまでは、記憶がある。
──複数人の足音、息遣い。飛び交う声。
熱の上がった頭部を誰かが支え、口に何かを押し付け、無理矢理に流し込んでくる。
「もう一口飲むのよ。大丈夫、必ず治すから」
どこか聞き覚えのある声だったが、意識が朦朧としていて判別はつかない。言われるままに苦いそれを飲み干し、再びベッドに寝かされた。
冷たい指先だった。額に、頬に指先が触れて心地良く、熱が冷えていく。
水の音に目を覚ました。額に濡れ布巾が載せられたことで、あの音は布巾を絞る音だったのだと理解する。目を開けると、視界が眩しい。室内だというのに、一体どうしてこうも明るく感じるのか──
「目が覚めたのね」
傍らに座っていたのは、かつて共に旅をした優秀な薬師、キャスティだった。
「まさか久しぶりの再会がこんなふうになるなんて。随分と無理をしたんじゃない? だめよ、いくら仕事が楽しくても、ちゃんと身体を労ってあげなきゃ……テメノス?」
いや、まさか。手紙の返事は来ていない。オルトからなにか話を聞いたような気もするが、思い出せない。
膝の上に置かれていた彼女の手首を取り、見つめる。
本物のように見えるし、一方で、自分の作り出した幻覚のようにも思えた。
「大丈夫? ぼんやりとしているみたい……意識はあるようだけど、テメノス、返事をして」
肩を強い力で叩かれた。それが意識の確認法だと気付かず、痛みに顔をしかめ、反射的に彼女の手を引いてしまう。
「きゃ、」
自分の上に倒れ込んできた身体は、思うよりも軽かった。当然だ。彼女がどれほど強く在っても、性差は越えられない。
「ごめんなさい。上に乗っちゃって……」
薬草と、花の香りがした。それでもまだ信じられなかった。夢だろうと思い、夢ならばいいかと開き直って、一度だけ唇に触れて、抱き締めた。
実を言えば、明かすつもりのない好意を抱えていた。
それが好意だと気付いたのは旅を終えてからになる。離れてから分かることもあるものだと理解し、現状をただ受け入れようとしていたつもりだったが、ここまではっきりとした幻覚を見ては堪らえようもなかった。
せめて一言、それらしいことでも伝えればよかったと。
せめて、別れの抱擁だと言って抱きしめておけばよかったと。
細やかながらも欲深い感情が今更意識され、それが行動に出た。
彼女は黙って見下ろしていたが、テメノスが何かを言わんとしたところで黙って安眠草の薬を口に押し当てた。
よって、テメノスの意識はそこで再び途切れ、──それが夢ではなかったらしいという実感とともに、つい先程、飛び起きた。
見慣れた自分の家だが、自分以外の人間の姿がある。鞄が、荷物が、そこらに置かれてある。
コポコポと卓上から音がしている。炎の精霊石を使った簡易コンロ、その上に置かれた円筒から湯気が立っていた。湿度を保つための装置なのか、沸騰して危うくなる気配はない。ベッドの足元側にキャスティは埋まるように眠っていた。若干の距離を感じるのは、まあ、当然の対応ではあるのだが、いくらなんでもそんな場所で眠るのは彼女の健康を害す。
ベッドサイドにたたみ直されていた自分のローブを取り、上からかけてやる。
靴音を忍ばせ、机のそばへ移動した。
粉末がいくつか、メモも複数ある。これが今回の自分に必要な薬だったのだろう。
「……起こしてくれてもいいのに」
「すみません。起こすつもりはなかったのですが」
「いいのよ、気にしないで。経過を見たいから、座ってほしいわ」
眠たそうに目をこすりながらも、はきはきとキャスティは指示をする。メモなどをひとまず机上へ戻し、ベッドへ腰掛ける。
両頬を包み込むようにして顔を向き合わされ、緊張した。
「熱はないわね。瞳孔の開きもなし、……呼吸も安定しているし、脈も……少し早いかしら? まあ、許容範囲ではあるわね。どこか、身体に違和感はある?」
動かしてみて、と言われるままに両手足を動かし、問題ないと告げる。それでようやく肩の荷が下りたように彼女は大きく息をついた。
「良かった……。間に合って」
「ありがとうございます、キャスティ。あなたが治してくれたんですね」
「ええ。あなたの手紙を受け取って……なんだか様子がおかしかったから、立ち寄ったのよ。町の薬師から詳しいことは聞いてはいたけど……そうだわ!」
はっと何かに気づいたように立ち上がると、キャスティはいそいそと鞄を身につけ扉に手をかけた。
「私、あなたが治ったことを報せてくるわね。ひどく心配していたみたいだし、あなたも恋人がそばにいた方が嬉しいでしょう?」
「……少し待ってください、キャスティ」
理由の分からぬことを言い置いて出ていこうとするので、急ぎ、内側に開きかけた扉を押さえた。体重をかけてやれば、流石の彼女も扉を開けきらない。
「町の薬師に報告するというのは、まあ、旅をしていたときにも見てきましたから納得はできますが……その後なんといいました?」
「え、恋人なのでしょう? 町の薬師と」
「違います」
「ええっ?!」
「どうしてそこでそれほど驚くんです……」
「だって、それじゃあどうして……」
驚かせたことで、キャスティが扉から手を離してくれた。予想外の反応だったが、これでひとまず引き止めには成功した。テメノスは頭痛もなくなったスッキリとした頭を片手で押さえつつ、深呼吸をする。
「同意なく迫ったことは謝ります。すみませんでした。あのときは意識が朦朧としていました。……ですが、あれは町の薬師と恋仲であるから取ったわけではなく、あなたがいることを夢だと思って……恥ずかしい話、夢ならばいいかと動いてしまった結果です」
「……ええと、」
まだ話の主旨が掴めぬのだろう。仕方のないことだ。彼女にはそういった素振りはこれまで一度も見せてこなかったのだから──
「つまり、熱で幻覚を見ていたということ?」
「どうしてそうなるんです?」
「違うの? でも、あるのよ。熱で頭が錯乱して、治療者を襲ってしまうことが……私も過去に何度かあったし」
思わず、彼女の右手を掴んでいた。扉と自分で彼女を挟み込んで、掴んだ右手を押さえつければ、逃げ出すことはできなくなる。
「違います。他と一緒にしないでください。私は……、」
このまま彼女の髪を撫で、あるいは頬を撫で、そのまま好意を告げることもできたが、テメノスはそこで大きなため息をついた。
好意を押し付けたいわけではない。ただ、誤解してほしくないだけなのだ。
「……あなただから、手が出てしまった、と。まあ、これも結局は身勝手な話ですね、すみません」
名残惜しいが、手を離す。
「え、ええ……」
「もう一度、ここへ来た経緯を聞かせてもらえますか?」
先程まで彼女が座っていた椅子を引きずり、自分はベッドに腰掛け、座るよう促した。
キャスティから聞いた話によれば、テメノスはもう七日ほど熱に浮かされ寝込んでいたらしい。
日に日に顔色の悪くなっていくテメノスを、町の薬師をはじめ町の者も皆心配しており、その矢先にキャスティが到着した。状態と経過、症状を見て最近東大陸で流行り始めた感染病だと察した彼女は、直ぐにテメノスと接触した人々へ予防薬を調合、同時にテメノスに現れた症状緩和の調合と、特効薬のためにオルトと共に採取に出かけ、そうしてやっと経過が落ち着いてきたのが一昨日だという。
「副作用に幻覚や混乱が生じるから、普段は使わないのだけど、今回は急がないといけなくて少量だけ調合したの。……その、ごめんなさい。幻覚だと疑って」
「いえ……」
「でも、本当に驚いたのよ。あなた、何も言わないから……」
「言ってませんでした? あなたの名前を呼んだつもりでしたが」
「言ってないわ」
「……はい」
薬が効いて早くに目覚めたは良かったが、それによって手が出たというのは、なかなかにいたたまれない。
なにより、キャスティの様子が最初から最後までいつも通りであることが、テメノスの恋心をひどく傷付けた。もう少し照れるとか、焦るとか、何らかの変化があれば慰められたものだが、事実としては許可もなく口づけた乱暴者であるので、仕方ないといえば仕方ない。
「……エイル薬師団といえば、あなた以外にもメンバーがいるのでは? 彼等に変わっても良かったでしょうに」
「急いできたのよ。それに、仲間は船で西へ旅立った後で」
「そうですか。すみません、わざわざ来ていただいて」
「いいのよ。あなたの病を治せて、本当に良かった」
それからは空気も解れ、近況報告が続いた。
旅をしていた頃には戻れないが、こうして旅の後の彼らの様子を語り合えるのは良いことだと思う。
そのまま話し込んでいると、話し声を聞きつけたのか近所の者が様子見に訪れ、あっという間にテメノスは町の皆からも快方を喜ばれる結果となった。
キャスティはその間に宿で休むと言って家を出ていってしまったので、健康になったテメノスが落ち着いてキャスティと顔を合わせたのは翌日の昼になる。
「広い庭園ね」
「薬草園もありますよ」
「後で見に行くわね」
大聖堂の直ぐ側には開けた土地があり、そこをいくつかの区画に分けて植物を栽培したり庭園としたりして景観を作っている。
そのうちの一つには外でティータイムができるようガーデンチェアとテーブルが用意されており、今日はそこでちょっとした茶会を開くことにした。
青と白のテーブルクロスを敷き、上にスコーンやビスケットの入った籠と、ジャムやチーズ、紅茶の入った瓶の籠とが置かれた。
口に合ったようで、キャスティは嬉しそうにこれらを食べた。テメノスもそれなりに食欲が戻っていたので、スコーンにジャムを付けてゆっくりと味わう。
「それで、この間のことですが」
テメノスを見つめるキャスティの目はいつも通りで、だからこそはっきりと口にすると決めた。
「私はあなたのことが好きなんですよ、キャスティ」
「……」
「今回はお陰で命が助かりましたが、次回からは、それを理解したうえで来てください。あのようなことは二度としないと誓いますが、また混乱しないとも限りませんし……」
「別に、私は嫌だなんて言ったつもりはないわよ」
「はい?」
「そりゃあ初めてのことで驚いたけれど、錯乱してたみたいだし、仕方ないかしら……と思って」
「……そうですか」
そう言ってビスケット咀嚼し、紅茶で喉を潤す姿は平然としていて、隙がない。
やはり病み上がりで判断力が鈍っているのか。一度ならず二度までも失態を繰り返した自分を反省しつつ、テメノスは諦めて紅茶を飲んだ。
「こういうのって、返事をした方がいいものなのかしら」
「……掘り返さなくて構いませんよ。忘れてください」
「あら、拗ねないで。少し時間が欲しいだけよ」
瓶から新たに紅茶を注ぎ入れつつ、何の、と短く問う。断るための時間など不要なように思うが。
「あなたと過ごす時間を考えないといけなくなるでしょう? テメノス」
「……キャスティ、それは」
「だから、返事は考えがまとまるまでお預けにするわ」
笑顔で無慈悲に告げ、キャスティはスコーンを手に取る。
穏やかな昼下がり、平和な日常風景。
見慣れた景色の中で、彼女が楽しげにティータイムを楽しむ姿を見て、テメノスはやれやれと肩を竦めるほかなかった。
「ちなみに、返事は後で構いませんが、手を出すのは早めてもいいということです?」
「あんなことは二度としないって言ったものね。信用しているわ」
「……大人しく返事を待つとします」
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追記。
思ったよりまとまってたので公開し続けます。微調整しました。
#テメキャス「サイコロを振る」
Roll the Diceで触れていたお返しの話(たぶん)。
パスはいつものやつに2025を付け足してください。「成人していますか?+テメキャス+2025」を英数小文字。